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第五十九幕 極上で甘いモノ

「いいか? 俺の留守中リノアを頼むぞ」

「それ何度目ですか? 私達はそんなに物覚えが悪くありませんわ。さっさと出発なされたらどうです? 遅れては先方にご迷惑ですわよ」

「おい、なぜそう俺を追い出そうとするんだ!? お前はそんなに俺とリノアを引き離したいのか!」

「論点がすり替えられてますわよ? リクイヤード様。リノアの事は頼まれずとも大丈夫ですわ。

それは信用して下さって結構です。ですから、一刻も早くご出発を。見送りが終わらないと仕事が出来ないんです」

「なんだその言い方は!」

こんな風なリクとササラさんの口論。

これがかれこれ十五分ほど続いている。

その間他のメイド達はおいていけぼり。

メイドがそのような言葉使いをしてはならないが、さすがに十五分も永遠同じ事を言われたせいか、

ササラさんがリクと昔からの付き合いのせいか、こうなってしまった。


本日は雲一つない澄み渡った青空。

こんな日は絶好の旅日より。

城の正面にある噴水前にはすっかり旅支度が出来た馬車が止まっている。

そこへ通じる道を作るように、メイドが左右に一列に並んでいた。

リクはその列の右側、ちょうど真ん中付近――ササラさんの前に立ち、お互い向顔を会わせながら激しいバトルを繰り広げていた。

リクは感情的になりただ声音が強いけど、ササラさんは冷静。

ただ口にしている内容がひんやりだけど。


「お二人共おやめて下さいませ!!」

ササラさんの婚約者でありリクの従者であるスウイ様が間に入り二人を引き離そうとしているが、

彼の顔色は酷く悪く表情も冴えない。

手をぷるぷると震わせ、恐怖と戦いながらもなんとか二人を宥めようと必死だ。

スウイ様って、絶対にササラさんと結婚しても尻に敷かれるタイプなのかなって思う時が多々ある。

だって時々、城内にてスウイ様の絹を裂いたような悲鳴が聞こえてくる事があるんだもの。


最初は「何事っ!?」と思ったけど、ちょうど近くに居たリク曰く「スウイがササラと逢瀬を楽しんでいるのだろう」って。

逢瀬を楽しむのに、なぜ悲鳴が? と思ったけど、こういうのはそれぞれのカップルによって事情が違う。だからあまり気にしないようにしたの。


「リノア~。ちょっとアレなんとかしてよ。きりがないわよ? スウイ様頼りないし」

「なんとかと言ってもですねぇ……」

「大丈夫よ。リクイヤード様、あんたの言うことなら聞くから」

「あの状況で人の話に耳を傾けるなんてしないと思いますが……」

「平気平気。惚れた弱みってやつよ。ほら」

周りのメイド達に言わた上に、トンと背中を押され列からはみ出してしまった。


そんな事言われても顔会わせるの気まずいんですってば……

そう思うのはおそらく私だけだけど。

だって、私はリクは今日これから向かうのはカシノの所だって知っているから。

しかもその内容がおそらく婚約に関することだということを――


リクは外出するときは、ちゃんと場所を伝える。

それなのに今回は何も言わず、「ただ数日ほど空ける」とだけ。

何処に行くの? って追加で聞いたら、「マカデ小国辺り」と言っていた。

だから、「ラッシュアド国の近くだね」って訪ねれば目が泳いで居てわかりやすすぎ。

別に私に隠す事なんてなにのに。発言権なんてないのだから。


リク、カシノと結婚しちゃうのかな……?

リクが誰かと結婚するのを想像すると、心が重苦しくなる。

それと同時にカシノに対して嫉妬を覚えてしまう。

これって、リクの好きなんだと思う。


でも、リクがカシノと結婚するのは賛成か反対かと問われれば、賛成する。

だってそうすれば諦めもつくもの。


もしあいつらの手がギルアまで伸びてしまったら、私はみんなを巻き込まないようにここから逃走する。

その時にこれ以上好きになってしまえば、私はその時に逃げれるかわからない。

きっと巻き込んでしまうわ。

だからカシノが居てくれれば……――


カシノ、美人だし頭良いし。

きっとその才能を利用し、ギルアへと貢献するだろう。

リクもそんなカシノならきっと好きになるわ。


「どうした?」

「え?」

突然降ってきたリクの声にふと顔を上げれば、不安そうに眉をハノ字にしているリクの瞳と交わる。

空色の瞳は揺れ動き、私を映し出してた。

どうやらササラさんとの口論は終了したみたい。


「お前、最近変だぞ? 今もぼーっとして。まだリサの事引きずっているのか?」

その問いはNOだ。だから首を横に振る。


「ならどうしたんだ?」

カシノの所に行かないで欲しい。……なんて言えない。

リクがカシノと結婚する事を望んでいるくせに、それを激しく拒絶する自分もいる。

メイドはどんな時でも冷静に。それが私の教訓。

そうしないといざという時に冷静に対処出来ないから。

なのにご主人様の見送りだというのに、こんな気持ちなんてメイド失格だわ。


私の頭はせわしなく混沌としていた。

恋ってこういうものなんだ……

家族以外の誰かを思って胸が苦しくなる事なんていままでなかった。

かと思えば、自分の事を気に掛けてくれて世界が色づく。

まるで最近読んでいる絵物語の中の王子様に恋するお姫様のように。


「もしかして具合悪いのか?お前はすぐ我慢するから。部屋戻ろう。一緒に行ってやるから。な?」

「違うの。ただ……」

「ただ?」


行かないで欲しい。傍に居て欲しい――


……そんな事言えるわけない。だから私は腕を動かしリクの手を握った。

もし触れるだけで誰かの心がわかるならば、きっと私の思考は今頃リクに漏れているだろう。

そして私はパニックに。


「なっ、な、ななな!!」

リクは視線を自分の右手と私の顔を交互に移し、何語かわからない言葉を唱えだした。

私には「な」しか聞き取れないので何を言っているのかはさっぱり。


「どうした!?」

「お土産買ってきて」

「お、おお、お土産っ!?」

リクは間の抜けた声を出すと、目をひんむいている。

お土産なんて誤魔化しわざとらしかったけど、リクには違和感なかったみたい。


「ダメ?」

その問いに、リクは首をぶんぶんと左右に振った。


「もちろん買ってくる! いっぱい買ってきてやる!」

リクは顔を緩め、私に尋ねて来た。

だが、それに答える前にササラさん達の言葉が間に入った。


「あー、良い感じの所すみません。ちゃんと部屋に入るぐらいにして下さいませね」

「そうですよ。あと今度こそはちゃんと渡して下さいよ」

「そうですよー。リクイヤード様がお渡し出来なかったリノアへのお土産により、一部屋埋まっちゃっているんですから」

「お前らそれを今言うな!!」

リクは顔を真っ赤にさせながらササラさん達に怒鳴り散らしている。


「お土産で部屋がいっぱい……?」

「気にするな。それより何が欲しい? 何でも買ってやるぞ」

どうしよう。誤魔化しで口にしたから欲しい物無いわ……

んー。

いろいろ思案してみて、やっと頭に浮かんだのが蜂蜜。

それならみんなと一緒に紅茶に入れたり、スコーンに付けて食べれるもんね。


「マカデ産の蜂蜜」

「いいわねー!!あそこの蜂蜜食べると、他の食べれないんでしょ?」

「はい。すごく美味しいですよ。マカデ国でしか咲かない花がありまして、蜂がその蜜を集作った蜂蜜がすごく美味しいんです」

「リノア、食べた事あるの?」

「はい」

「いいなー。あそこの蜂蜜一回は食べてみたいのよねー」

あっという間に私とリクはメイド仲間に囲まれ蜂蜜話。

やっぱりみんな甘い物好きなんだね。


「そうだわ! マカデの蜂蜜ならば、蜂蜜王子から買い付けてくればよろしいですわ」

「なんだよ、蜂蜜王子って」

眉を顰めリクがササラさんを見てる。


「あら? ご存じないのですか? マカデ小国第三王子ことゼンダ様。通称蜂蜜王子ですわ」

へー。ゼンダって、蜂蜜王子って呼ばれているんだ。知らなかったわ。

ゼンダ王子と私は、カシノを介して知り合いになった。

アカデミー在学中に、カシノのが住むラッシュアド国にお世話になった事があったの。

そのときに紹介して貰ったんだ。

それで会うと時々蜂蜜くれるんだけど、それが美味なの。


あれ……? そういえば、たしかゼンダってカシノの事好きなんじゃないっけ?

カシノは気づいているかわかんないけど。

ゼンダ王子はカシノの事が好きで、良くマカデからラッシュアドに出向いているらしい。

二国は隣接するため、比較的近く元々交流があるそう。

そのため二人とも子供の頃からお互い知り尽くしているみたい。


「なんでも彼の作る蜂蜜は格別だとか。蜂蜜の種類は忘れましたが彼が作っている蜂蜜は、他の蜂蜜と違い香り高く華やかなんだそうです。それに蜂蜜を利用し、化粧品からお菓子まで幅広い商品を開発しているのですよ」

「だから蜂蜜王子か」

「えぇ。その蜂蜜王子が作る蜂蜜の中でも、特に希少価値の高く市場に出回らないものがあるんですわ。

数が出ないため、身内に配って無くなってしまう蜂蜜。これを是非ギルアという大国の権威をかざしてゲットして来て下さい」

「蜂蜜如きで国の権威かざさせるな」

「如きって何ですか! 蜂蜜って結構いろいろ使用目的あるんですよ。唇に塗って保湿も出来ますし。

ほらリノアの唇に蜂蜜ぬれば、キスが極上に甘くなりますよ!」

「リノアとのキスは極上で甘い」

「はぁ!?」

「まぁまぁ。これはごちそうさまです」と言いながらニヤニヤとした笑みを浮かべたみんなの視線が私へと集中。

この後、私確実に仕事やりずらくなるわ……




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