表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/114

第五十八幕 彼の想いの先にいるのは

「こういう場所って、あまり好きじゃないのよね」

あの地下幽閉部屋みたいで――

そんな私のぽつりと零れた言葉は、そのまま真っ暗な室内へと消えていく。

この部屋のせいだろうか。身につけている衣服が湿っぽく、不快感を抱きながらの作業をしいられている。

湿度計を見てないからわからないけど、おそらく地下ゆえ地上よりは湿度は高いはず。

煉瓦で出来たじめじめとした、窓すら見当たらない地下倉庫。

私の本日最後となるお仕事はここの清掃だ。


これ終わったら、早めにお風呂入ろうっと~。

定期的に掃除をしているとはいえ、埃っぽく湿っぽい。

しかもついさっき始めたばかりだから、全然手をつけてないし。


いつも掃除しているゲスト部屋等よりも遙かに広大な室内は、まるで図書館ばりにぎっしりと中味が詰まった棚の群れに、積み木のように積み重ねられた木箱が無数ある。これらは全て非常時の備蓄食糧や雑貨などだ。

今私がいる場所が部屋の一番奥端。

こっからだと棚などの障害物などにより、唯一の出入り口すら見えない。

そのため、一人では到底おわすことは出来なそう。

だからメルさんとササラさんが一緒に仕事をするはずだったんだけど、今二人は急ぎの仕事が入ってしまったため、私一人。ササラさん達は終わり次第こちらに来てくれる事になっている。

この広さじゃ三人でやってもおそらく三時間あっても足りないから、明日に持ち越すのは確実。


しかし、暗いな~……

明かりは、床に置いてある燭台だけ。

そのため範囲がかなり狭い。足下のバケツ、それから前後の棚に左側の壁などしか形をはっきりと捕えることはできずにいた。


「……さて、さっさと始めようかな」

さっそく取りかかろうと足下にあるバケツへと雑巾を浸してれば、耳障りな高い金属音が耳に届いてきたため、

たまらずに肩がびくっとびくつく。

その音の数秒後に人の話声が聞こえてきたため、おそらくさっきの音は扉が開いた音だろう。


ササラさん達……?

二人ともずいぶん早いな~。と思いながら腰を上げるも、だんだんくっきりとしはじめたのは全く事なった男女の声。

馴染みのあるその二つの声の主達は、こここへ来る用事などおそらくないはずの身分。

彼ら王族が地下倉庫へ来るということはあまりないだろう。


――リクとスレイア様だ。どうしたんだろう?


「カシノ姫の事なぜ引き受けた!?」

スレイア様の怒号がこの場の空気を震わせ私の元まで届き、私は眉を顰めた。

それは、脈絡のない友人の名前が飛び出してきたため。

カシノはアカデミー時代の友人であり、機械の国・ラッシュアドの第三姫。

発明が趣味という知的な女の子だ。


カシノがどうしたの……?

彼女に何かあれば緊急で連絡が入るはずだが何も入ってない。

こんな所にわざわざ来て話す内容だ。人には知られたくない内容なのかもしれない。

そのためこの場を出ようか出まいか迷っている間にも、話はどんどんと進んでいく。


「こんな所に連れて来たと思えば、そんな事か。どうだっていいだろ、別に」

「いいわけないだろうが。なぜ急にカシノ姫と結婚なんだ!? ついこの間、リノアに結婚申し込んだばかりだのはずではないか!! 大体、彼女の事はどうするんだ。言ってないんだろ? 彼女には」

「……」

け、結婚っ!?

思わず大声を出しそうになったのをなんとか喉までで止め、叫びたい衝動をぐっとこらえる。

だんだんと上昇していく心拍数とは反対に、頭の中ではすっかりと思考停止中。

リクとカシノが結婚……私、全然知らなかったわ……

胸を締め付けられるような不安に襲われながら、私はスレイア様とリクの話の続きを待ちつつ、なんとか落ち着こうと静かに息を数回吐き出してはすったりと思いつく限り何でもやった。


「たしかに機械の国との関係は深い方がいい。だが、それはお前とカシノ姫の婚姻関係を結ぶ意外にも方法はいくらでもある。それなのに、お前はなぜわざわざそちらを選ぶ? しかもリノアは別館を作らせそちらで生活。その一方、カシノ姫は城内だと? 我が弟ながら実に不甲斐ない。それではリノアを追い出すような形ではないか!」

「俺はあいつを愛している。それ以外なにもない」

「あいつというのはカシノ姫の方か? リノアの方か?」

「俺が愛しているのは、たった一人だけだ。悪いが、俺は忙しいんだ。もう行くぞ」

「おい、待て!!」

走り去る足音とバタンと音を立てて閉まる扉に、私はその場にしゃがみこんでしまった。


「どういうことなの……?」

突然のリクとカシノの結婚話。

ギルアは一夫多妻制だから、リクが私と婚姻中に他の人と結婚するのは問題ない。

それに政略結婚は珍しくもなんともない事だ。

でも……――私を別の建物へ移し、カシノを城へと言っていたわ。それって、政略結婚じゃなくてカシノを好きだから結婚するんじゃないのかしら?


「なんだか、胸がえぐられそうだわ」

風邪の症状のように頭がぐらぐらと揺れ、胸が痛く苦しい。

何もかも投げ出しその現実から目を背けたい。この仕事すらも投げ出したい衝動に駆られた。


どうしたんだろう? 好きだと言われていたのに、急に他の人と結婚するって聞いたから?

それともここでも追い出されるって聞いたからかな?


カシノとリクならば、お似合いだろう。

それにカシノは綺麗だし、私と違いこの国にいろいろな利益をもたらすわ……

ラッシュアドがカラクリの国として名が知れ渡っているのは、あれカシノの影響でもある。

彼女が発明品によりだ。


だから、カシノの持つ知識とギルアの持つ経済力を合わせれば壮大なスケールで、それこそ国益規模で利益を得られるし、人々の生活に役立つ便利な物が出来るかもしれない。

お金がかかるって言っていたあのカシノの研究も、リクなら叶えられるわ。

この結婚は、考えれば考えるほどメリット以外存在しなかった。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ