間幕 だって私達は優秀なメイドですから 前編
タイトル変更しました。内容に変わりはありません。(9月7日)
「さすがですわ。たった1日でこれだけのものを集めてしまわれるなんて」
「ほんよねー。これもしかしてリノアに勝てるんじゃない?」
「あ、たしかにそうかも!!」
「仕方ないわよ~。だってあの姿は綺麗すぎだもの」
ササラ達がとある部屋を覗きながら口々に好き勝手にしゃべっているのを、廊下の壁に背を預けながら眺めてから視線を外し俺は深い溜息を吐き出した。
テンションが高いあいつらとは正反対に、俺の心はいま背を預けている廊下の壁の冷たさと同等の温度。
いや、むしろそれ以下かもしれない。
それは至極簡単なこと。それは、今現在あいつらの瞳に映しているのが原因だ。
あいつらが見ているのは、とある空き部屋の室内。
いつもは家具も何も設置されていない二十畳ほどのなんの変哲もない空き部屋なのだが今は違う。
使用されていないとはいえ、メイド達が鏡のように姿が映るまで毎日磨いている床、
その上に大小様々な箱が天井まで届くぐらいに幾度も重ねられていた。
それが室内の三分の二を埋め尽くすぐらいの勢いで部屋を浸食していっている。
この箱の中身はみなバラバラだが、それぞれ唯一共通点がある。
それは、これが俺に対する……いや、女装したメイド姿の俺に対する贈り物ということ。
例のメイド見習いとの一件があり、あの爺さん共はシルクの安全を考え研修期間の終わる一ヶ月間のあいだシルクを元老院側に臨時メイドとして連れ出したのだが、俺にはそれが問題だった。
花壇の一件もあり「全てお前がしっかりしてないからだろうが。反省しろ、若造が」と一喝され、
俺は元老院の建物内はおろか敷地内には立ち入り禁止命令が出されてしまったのだ。
最初はその罰を甘んじて受けたが、ついいつものようにシルクの姿を探してしまい耐えきれなかった。
歩いて行ける距離なのに、会えないもどかしさ。
あいつがいないだけでこんなに落ち着かなく、心が鉛のように重くなるなんて――
だから俺は会いに行くことにした。
女装してメイド姿で。
なぜ女装かと言えば、ササラ達にそそのかされたからだ。
変装をするために手伝えと言ったら、こうなった。
俺だとわからずに変装出来ればどんな姿でも良かったのだとういうことを、
あの時の俺はシルクに会えるならプライドなんてどうでも良かったので気づかず、
後でシルクに言われ知る羽目になった。
結果的に会えたからそれはそれで良しとしよう。
だが、こうなるとは思ってもいなかったんだよ……
さすが誰の目にも触れずにとは不可能。なるべく人目に触れないようにとしたが、
目に留まった奴らに話しかけられたりした。
そこまではまず譲歩する。
でもな、このプレゼント攻撃はなんだよ!?
俺は男だ!!しかもこの国の第一王子だぞ!?
それなのに誰も気づかず熱烈ラブレター付の貢ぎ物かよ……
しかもシルクと一緒にいるのを見られたため、シルク経由で俺に届くという罰ゲームもどき付き。
何が悲しくて好きな女経由でこんな目に……
せめてシルクじゃなく、他のやつに渡せ!!
「リク、モテるね~。すごく綺麗だったもん」って言われてみろよ。泣きたくなるぞ。
ただシルクに綺麗と褒められたのが唯一の救いなのかなと思う自分がいる。
そうとらえてしまうのは、滅多に褒められないので感覚が麻痺しているのかもしれないな。
「しかし、すごい荷物ね」
「一応リノア断っているらしいわよ?でも、相手がなかなか……」
「まぁ。リクイヤード様の美しさってら罪ね~」
そんなササラ達の言葉を受け、俺は頭痛がしてきた。
シルクも事情が事情だからプレゼント類を断ったが、「渡すだけでも」と押しつけられる状況だったらしい。
最初あいつから「大変!!」という書き出しの手紙が届いた時は何事だと思ったが、
まさかこんな状況になっているとは思いは浮かばなかった。
もういっそのこと「プレゼント禁止」と宣言したいが、バレるのが嫌だ。
こんなおもしろい事を、あの爺さん達が見逃すわけがない。
絶対に永久的にネタにされるだろう。
「どうすんだよ、お前らこれ」
おれがササラ達の背にそう問えば、あいつらは振り返って各々口を開いていく。
「えー。私達のせいですか?リクイヤード様の女装が綺麗すぎたのが原因ですわ」
「そうですわよ。だってあの時にリクイヤード様美少女でしたわよ。あれと張り合える人はこの世界でリノアぐらいですわ」
「ほんと、お似合いの美男美女カップルよね~」
いや、女装している段階で美男ではないだろうが。
なんでこんなに温度差があるのだろうか。
ササラ達の声のトーンは弾むようだが、俺は沈むようだ。
「とにかく、もう女装はしない。次からは他の……――」
「大変です!!」
大声でそう叫びながらこちらに近づいてくる声に、俺の話はそこでストップ。
つい無意識に眉をしかめながら声が飛んできた左側へと体を向けると、メイドのミミがこちらに向かって走ってくる途中だった。
なんだ……?
ミミは息を切らせながら俺とササラ達の傍に来ると、疲労からかしゃがみ込んでしまう。
それを見て妙な胸騒ぎを覚え、ササラ達の方を見るとあいつらも俺の方を見たらしく目があった。
「何事だ?」
「部屋が……」
ミミはそこまで言うと、眉をハの字にし目元を潤ませた。
震える唇で耳が告げたのは、耳を疑う事だった。
「――リノアとメルの部屋が荒らされていました。被害はリノアの私物のみです」