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第五十二幕 指輪に誓う

「ちょっと、リノアっ!!それどうしたのよ!?」

そんなミミさんの絶叫に近い声がメイド室に木霊したため、テーブルを囲んでまったりお茶ムードだった部屋の空気ががらりと一変し、皆の視線が声の発生地点である窓際に集中した。

その原因となった私は、それを体全身で受けながらかなり後悔中。


やっぱり、これ外しておけばよかった……


この数秒前まで普通のなにげない休憩時間だった。

休憩時間中私は基本的にみんなとおしゃべりするけど、こうして時折窓際にある一人掛けソファで読書をする。

窓から聞こえる鳥の鳴き声や人々の喧騒をBGMに、紅茶を飲みながらリフレッシュして次の仕事へ向かう。

それが日課となっているの。


だからそれをみんなわかっているので、本を読んでいる時は基本的には声をかけないように気を使ってくれている。

だけど、今回はさすがに無理だったらしい。


本を読んでいたら所にちょうど私に紅茶を入れてくれたミミさんがやって来たんだけど、

アレを見られてしまいさっきのように叫び声を上げられ左手を掴まれてしまった。

そのため、私の膝の上には赤い表紙の本が無造作に落ちてしまっている。


「ちょっと、ミミ~。どうしたのよ?一体」

「指輪よ、指輪。とうとうやったのよ、リクイヤード様っ!!」

掴んでいる私の手の甲をみんなにバイバイするように振りながら、ミミさんが左側にあるテーブルに座っている人達に叫んだため、皆がざわめきながら私達の元へと駆け寄ってきてしまい、そのためすぐに隠す事は出来なかった。


「嘘っ!!気付かなかったわ」

「私もついさっきまで気づかなかったわよ。なんかリノアの手元が輝くなぁと思って見てみたらこれよ!!」

「……なんでこのでっかいのに気付かなかったのかしら?」

「さすが王子ね。これはすごい」

ササラさん達が口ぐちに言うけど、どうして相手がリクだってわかったのかしら?私、言ってないのに。

首を傾げながらみんなを見ていると、急にみんな黙り初めて微妙な表情をし私の顔を見た。


その視線はすさまじく、顔に穴があくんじゃない?って感じ。

何もしてないけど、じわっと妙な汗が毛穴から出始めたのか、妙にじめっとする。


「どうせリクイヤード様のことだから、プロポーズの言葉もなくこれ付けておけとか言われ終わりでしょ?」

「はい」

もしかして覗いてましたか?と聞きたくなってしまうぐらい、メルさんの言葉は当たってた。


「あー。やりそう。もっと女心をわかって欲しいわ」

「ほんとよねー。あのお方、絶対ムード関係なく渡したのよ。きっと」

「だろうね~。なんか想像出来るわ。仕事している時とかに来そうだもの」

どうやらメルさんだけじゃなかったよう。皆もわかってるらしい。

さすがリク付きのメイドさん達だわ。


「――指輪渡す意味わかるわよね?」

「はい」

その言葉に私は自然と手に力が入り、解放された左手の指輪に触れる。

冷たくひんやりとした感触が圧迫するため、私は重くなった。

それはきっと、第三者によりこの石の意味を知らされたからなのかもしれない。

本来ならこの指に付けるのは、こんか感情とは反対側にあるものなんだろう。

今の私には、困惑以外ない。


「リクイヤード様の事、嫌い?」

表情が曇っていたのか、ササラさんはしゃがみ込むと私を下から見上げるようにして静かに言った。

それに対し、私は首を振る。


嫌いではない。ただ――


「もしかして、身分差?それとも男として無理?」

「いいえ……」

「それなら、少し考えて上げてくれない?考えても駄目ならしょうがないわ。その時は断ってもいいの。

城に居にくかったら、メイド長に頼んで新しい職場斡旋してもらうから」

「すみません……私、結構面倒なワケありなんです。きっと私の存在は迷惑にしかならない。

今までもそうだったんです。家族や周りの人を不幸にしてしまった……」

「……リノア」

私の言葉に、ササラさんが悲しそうな顔をした。


「リクとの結婚が嫌というわけではありません。誰であろうと駄目なんです。だから一人で生きて行くために、こうしてメイドのお仕事も覚えました。手に職は強いので」

私がメイドになった理由はそれ。

だって、いざとなったらどこへでも逃げれるから。

メイドならば貴族の家や城など働き口は多いし、身分が明らかにされなくても私はアカデミー出身のため後ろ盾があるから信頼がある。


「ですから……――!?」

中途半端にしか言葉は伝えられなかった。

それは、急激に体温を奪われたと同時に体に纏った液体のせいだ。

ぽたりぽたりと前髪から透明な水滴が、左半分だけ色が濃く変わったスカートの上に落ちてくる。


「え」

なぜ水が?

おそるおそる水がぶっかけられた左側を見ていると、メルさんが花瓶を手にしていた。

御丁寧にお花は、テーブルの上に置いてある。

ということは、これは確実に水をかける事を前提としていること。

つまりは、故意。


「ちょっと!?メル、あんた何してんのよ!?」

「タ、タオルっ!!」

慌てる周りに気も留めず、メルさんは花瓶をテーブルに置くと仁王立ちになり私を指差し口を開いた。


「リノア、あんた湿り過ぎ」

「これはメルさんが……」

「そっちじゃないわよ。いい?誰だっていろいろ背負っているの。自分じゃどうしようも出来ない運命だってあるから。私も未来を諦めていたわ。アレが私の生き方なんだと思っていた。だって私にはそれ以外何も出来なかったし、他の世界を知らなかったから。でもね、人生突拍子もないことも起こるのよ。あの方が私の事を拾ってくれたかのように」

「メルさん……?」

「真面目すぎるのよ、リノアは。全部一人で背負おうとしている。そんなもん、相手に背負わせていいのよ。

だから、ちゃんと見なさい!!」

「でも……」

「でもじゃないわよ。いい?あの病的なぐらい女好きの典型的な遊び人な王子が、リノア一筋になったのよ?

それぐらいあれはあんたの事を愛しちゃってるわけ。だから、あんた一人ぐらいリクイヤード様は受け入れるわ。考えても見なさい。このギルアの王子よ。リクイヤード様の器はそんなに小さくない。……はずよ」

「――はずってなんだ」

声と共にキィっと私達から一番遠い場所にある扉が開き、そこから姿を覗かせたのはリクだった。

そんなリクを見て私を含め頭を下げる中、メルさんだけは違う。


「まだ居たんですか?シーバ国に行くんじゃなかったんでしたっけ?」

リク冷たく一瞥すると、そう吐き捨てた。


「居て悪いような言い方だな。それは明日からだ」

リクは私を見て眉を顰め、ミミさんが持って来てくれたタオルを奪うようにして取ると、

私の頭上にバサリと乗せ髪を水気をタオル地に吸い込ませるように拭き始めた。


「説明を?」

「必要ない。大方聞いていたからな」

「聞き耳立ててるなんて無粋な男だわ」

「呼び鈴ならしても誰も来ないから、俺が直々に来てやったんだろうが!!」

なんだか今日のメルさんはリクに対して辛辣みたい。

メルさんの態度もそうだけど、リクもそんなメルさんを咎めることはしないし。

通常ならそんな口聞く事すら、私達メイドには禁止されているはずなのに。


「ったく、お前らはなんでこうも激しいんだ。もう少し大人しく出来ないのか」

「すみませんねー。どこぞの貴族令嬢みたいに、あははうふふの世界で育ってないんで。

それに、これは元はと言えばどこぞの王子が頼りないからですよねぇ?」

「……わかってる」

リクは顔を歪ませると、私の前に跪くと私の左手を取った。

交わした何処か艶を隠した青い瞳から伝わる意思に、私は両手を上げて降伏したい。

誰かに全てを任せる事は楽だから。

でも、それは出来ない。


リクならきっと他に良い人がいるわ。

それこそ家柄も何も障害のない人が――


「リノア。お前が厄介なのは重々知ってるつもりだ。だからその背負っている物半分じゃなくて全部俺に寄こせ。俺が引き受けてやる。その代わり対価として、お前は俺の傍にずっといろ」

「でもっ!!」

「でもじゃない。これは命令だ。俺はこの国の王子だぞ?俺の隣に立ちたいって女はいっぱいいるんだから、

少しは光栄に思え」

「何、その傍若無人な態度」

「しょうがないだろ、生粋の王子だからな。前にも言ったよな?俺は全力でリノアを愛し守るから覚悟しろって。

ここには爺さん達もいる。だから安心して俺の所に嫁に来い」

リクはそう告げると、左手につけている薬指にキスを落とした。

それはまるで子供の頃に見たお姫様に求婚する王子様のように……




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