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第五十幕 偽物王子様

ずっと以前から疑問に思っていることがある。

それは、私の弟・ラズリのことについて。


ラズリってね、本当に良く出来る子なの。

天使のように優しい心に、暖かな笑顔。

執務も要領よく成果もあげ、民にも人気を誇っている。

でもラズリってば、すごく謙虚。

完璧なんだけど、ただ優しすぎるのがたまに傷なのよねー。


それなのに彼の名を聞くと、バーズ様やうちの騎士達、それにロイは顔色が変わってしまうの。

青色通り越して土色をして、唇を紫にしてぷるぷる震えちゃってるんだ。


どうして、ラズリを見てそんな反応になるのかしら?

そう疑問に思って、何度も尋ねた事があるんだけれども、いつも彼らは肝心な時に口を閉ざす。

もういっその事、ラズリ本人に聞いてみようかな~って思ったけど、

やっぱりこういうのって聞くに聞けないんだよね。


だから、今私の視線の先で行われている争いもまた、不思議でしょうがない――


「わし!!わしが先に出るの!!騎士が主より先に逃げてどうすんの!?」

「何をおっしゃっているのですか、バーズ様。ラズリ様は貴方様のご子息でしょ」

「ほんと、バーズ様はいいですよ。肉親ですから。俺達、容赦なくたたき潰されるんです。

クビならマシですよ。あの方がそんな生やさしい事するわけないじゃないですか……」

「そうですよ。絶対、生かさず殺さずですって。だから、俺たちが先に逃げます」

「ちょっ、そんなの関係ないってば。あの鬼畜がそんな慈悲深いわけないじゃん。

肉親?何それ的な話になるに決まってるだろ。

あいつが、ユリシアとシルク以外に持つ優しさなんて

あるわけないじゃないか。だから、わしが先っ!!」

廊下へと出る唯一の扉をめぐり、只今バーズ様とうちの騎士、

そしてロイによる扉争奪戦が繰り広げられている。

たった一つしかない廊下へと続く扉のドアノブを我先に奪い中なので、

ドアノブを掴む手がころころと入れ替わっている状態だ。


「――醜い争いだね」

窓枠に座っている青年が、紫の瞳でそれを見つめながらクスクスと笑った。

彼の夜風が金糸のような髪を遊び、闇を踊っているかの如く舞っている。

彼が身に纏っている上質な布地や、見る物を魅了する完璧すぎる容姿はまるで

絵本の世界から抜け出た王子様のよう。


――まったく、あいつは今度は何がしたいの?


「リザー。一体なんの真似?私の可愛い弟・ラズリに化けるなんて」

私は窓際にいるその男を睨むと、隣にいたリクは「はぁ!?」とどっから声を出したの

と聞きたくなるぐらい間抜けな声をあげた。


「リザーだと?」

リクの言葉に、私は首を縦に動かす。


「えー。バレてんの?何、それ。すごくつまんない」

ラズリの恰好をしていた奴の周辺に霧が現れ、彼を包みこんだ。

そしてやがて霧がすっと消えると共に、いつも通りなリザーの姿が現れていく。


「大体、バレるに決まっているじゃない。ラズリはもっと天使のように

優しげな雰囲気持ってるわ。それに、精霊の気配が全く感じられないし。

あんた、わざわざラズリの恰好してまで何しに来たのよ?」

「んー。なんとなく。今回僕がここに来たのは、バーズ国王にお願いが

あったからなんだ」

「お願い?」

「そう。ちょっと欲しいものがあってさ。呼んで来てくれない?大事なことなんだ」

「あ、うん。じゃあ、ちょっと待ってて」

私は首を縦に振ると、未だに争っているバーズ様の元へと向かった。




「――ほぅ、ログ家の王子がわし直々に用とはなんじゃ?」

2~3人は余裕で座れる革張りの猫足ソファ。

そこに斜座っている男は、足を組み替えながら反対側に座っている青年に対し、

顎に手をあて斜め四十五度の角度で顔を引き締めドヤ顔を決めてみせた。


さっきの取り乱した姿はどこえ消えたのだろうか。

今ではすっかり、そこがまるで謁見の間にある王座にでもいるようだ。


ただ、普段のバーズ様を知っているから、これがコントか何かのようにも思えてならない。

うん。まぁ、ちゃんと国王様だからお仕事しているんだけど、私そういう姿あまり見たことないしさ。


バーズ様の視線を受けたている青年――一人がけソファに座るリザーは、

口角を上げるとゆっくりと口を開いた。


「ハイヤード華ノ期手記持ってるよね?それ、頂戴」

「ちょっと待って!!それ、うち国宝っ!!しかも、代々引き継がれる

国王だけしか所持する事を許されない代物じゃん!!というか、なぜ知っているの!?」

リザーの発言にバーズ様の凛々しさは一瞬にして飛び消え、

その上リアクションが大きいため勢いよく立ち上がった結果、テーブルへと脛をぶつけてしまう。

それに対し、リザーは何にも反応せずにスルーし、また再度口を開く。


「んじゃあ、貸して」

「ねぇ!?わしの話聞いてた!?」

涙目になりながら、バーズ様は脛をさすりながら返事をする。


やっぱ、リザーって自由よね。

なんか、誰もあの独自の空気には勝てない気がするわ。


「やっぱ駄目かぁ……だから城に侵入して借りようとしたんだけど、

あそこラズリ王子が邪魔で入りにくいんだよね。彼が留守中でも精霊を一体

置いていく慎重さだし。ほんと、簡単に侵入出来るどこぞの大国の城とは大違いー」

ちらりと、リザーは私の隣に座っているリクに一瞥すると、反対側に座っているバルト様も一瞥した。

それの視線を受けリクは顔を歪ませ、バルト様は渇いた笑いで答えた。


「そもそも華ノ期手記って、精霊を介して読むからわしら以外読めぬぞ」

「えー。そうなの?」

「大体、読んでどうする?あれは、ハイヤードの歴史が書かれているだけじゃ」

「うん。知ってるよ。あれには彼女との争いは書かれているはずでしょ?僕はその情報が欲しいんだ」

落ちた精霊……?

リザーの口から出たそれに、私は首を傾げる。

そういえば、前にもあったわね。

たしか、ギルアでリザーが来た時に――


「なぜそれを知っておる?落ちた精霊なぞ、一部の人間を抜かし精霊信仰のディル派

ですら知らぬはずじゃ。華ノ期手記の件といい、おぬし何を探っておるんじゃ?」

「僕はね、ハイヤードの姫が大切なんだ。ね~?」

いや、ね~?て言われても……

私の方を見て微笑むリザーに対し、戸惑う間もなくリクが私を抱き寄せて睨んだ。

それに対しすかさず反応したのは、バーズ様。

こちらに来ると私とリクを引きはがし、リクと私の間に無理矢理自分のお尻をねじ込んできた。


えっ!?何故こちらに?

っていうか、ソファがキツキツなんですが。


「これ以上馬の骨はいらないから!!」

「あっ、ごめん。そういう風に捕らえちゃった?ごめんね、悪いけど絶対ない。マジで無理。

姫可愛いけど、中身が残念だから」

そう言ったリザーの言葉に、今度は私が立ち上がって叫んだ。


「なんで私が勝手に振られてるの!?――……って、そこも頷くな!!」

視界の端でうちの騎士達とロイが頷いるのが見えたため、私は視線で彼らを射抜いた。





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