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第四十八幕 突然のキスのお味は?

「おい」

「え?」

突然後方から声をかけられたため、私の意識は凝視していた扉から反射的に振り向いた後方へと向けられる。

そこはこの部屋にあるバルコニー。

その場所には、竹で編まれたテーブルと、それから同質素材の椅子が二脚設置されてあるんだけど、私に声をかけた人物はそこにいた。

闇夜に散りばめられた宝石のような星々を背景にして、けだるそうに椅子に座りこちらを見ていた。


国内外からみ目麗しい王子と称されているギルアの王子も、今は羊さんにしか見えない。

それはリクが着用しているバスローブ姿のせい。

すごくふわふわとしている素材のため、羊の毛でも身に纏っているかのように見えちゃう。色もベージュだし。

私も同じものを着ているんだけれども、さわり心地がよくふとんに包まれている感じなの。


「それ、食べないのか?」

リクは姿勢をただすと、視線を斜め右下へと動かす。

それは水色のクロスがかけられた、テーブル。

その上には、銀色のスプーンの添えられたシャーベット。

レモン色のそれは、丸いガラスの器に半円状に盛りつけられ、上からオレンジ色をしたソースがかけられていてる。そして、その周りには赤や黄色などの色身を帯びた花が砂糖漬けとなり彩りを添えていた。


これはお風呂上がりに食べれるようにと、リクが宿に頼んでくれていたの。

私達が宿泊しているのは、王室や貴族御用達の『百華』っていう宿。

サーザで年に一度行われる花祭の時期にはかなりの激戦らしいけど、

今はシーズンオフ中なので予約なしで宿泊可能。


室内は豪華絢爛というよりはレトロ調。

部屋に置かれている家具なんかも、年代物なの。

だけど変に古っぽくないのは、ランプなどの家具が全て花のモチーフだったりするからなのかもしれないわ。

引き出しの金具も蔓と花が細工されてあったり、そういった細かい所まで花をあしらっているんだ。


「溶けるぞ?」

「うん……でも……」

私は体を半回転させ、視線を部屋からバルコニーから室内へと移した。

そこには天蓋付きのベッドやサイドテーブルなどが中央に配置されていて、一目で寝室とわかる作りになっている。

その部屋の片隅には、フェンネル達ハイヤードの騎士とロイが、円を描くような格好でなにやら神妙な顔で何かを話していた。

何をこそこそと話しているのかわかんないけど、時折私とリクの方を見ては頭を抱えているのよね。


そんな彼らから視線をずっと壁沿いに向けていくと、私が気がかりで何度も視線を向けていた花が彫られた紺色の扉があるの。気になるのは、その先で繰り広げられているであろう問題。


……一体、お二人でどんなお話をなさっているのかしら?


私が泊まっているのは、宿の三階ワンフロア。

そこには、部屋が十三あるの。

一番中央には大広間。そしてそこから繋がるようにバスルームや騎士の控室など。

ここはその一つの寝室だ。


今、私とリクの父様――バーズ様とバルト様による大人の話し合いが大広間で繰り広げられている。

内容は私とリクの偽装結婚について。


サーザ城でバーズ様との温室での出来事は、途中で中断された。

それはバーズ様も植物の研究で滞在していたし、ココルデ様に迷惑はかけれなかったからだ。

そこで、私達が宿泊する宿に落ち着いてから来て頂いたんだけれども、なぜか後からバルト様も一緒にいらっしゃったの。

どうやら、バーズ様に呼び出されたみたい。


そんなわけで、大人同士の話だからと私とリクを外しお二人で話をなさっているの。

私、まだまだ子供なのかしら?

成人とみなされる年齢は超えているのだけれども……


「いい年した大人だから大丈夫だろ。それに親父がいるから、こちらに有利に運ぶ。伊達にギルアの国王やってないからな。だから、その話は放っておけ。せっかくの二人っきりなんだから」

「二人じゃないよ。ロイ達がいるもん」

「あれらは空気だ。空気。いいか、お前は気づいていないかもしれないが、今かなり貴重な時間を過ごしているんだぞ?あの間者のようなメイド達がいないんだからな。だから、もう少し俺に集中しろよ」

「リクに集中……?」

首をかしげながら口に出したその言葉に対し、リクは手招きをし始めたため、私は彼の元へと足を二・三歩進めた。

何かしら?内緒話とか?


「こういう事だ」

あと半歩ぐらいでお互い触れ合うというぐらいの距離まで近づくと、リクが突然私の右手首を掴んで引っ張った。

「あ」と思った時にはもうすでに遅く、私の体はあっけなくリクの体の上へと倒れこんでしまう。

幸いな事にリクが私の体を安定させてくれたため、膝の上に座るように崩れ落ちたので、私もリクもなんともない。


――危ないじゃない!!


すかさずリクの両肩に掴まり顔を上げて抗議をしようとした瞬間、私の頭は雪山のように真白になった。

それはほんの数秒の出来事。

頭と腰を何か固定されたと思ったら、私の唇があるものによって塞がれたからだ。

それは、リクの唇。


初めての感触。

包まれた柑橘系の香り。

野太い男達の悲鳴。


唇が離されるまでにそれらが秒単位の出来事ではなく、時間単位の出来事に感じた。





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