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第四十六幕 全力で愛するから覚悟しろよ?

男が一人そこに立っていた。

赤毛の長い髪を一つに結わえ、上下黒っぽい平民服を着用している。

少したれがちな目に、すっとした高い鼻……少しほんわかとした雰囲気をまとった男は、四方を強化ガラスで囲まれた温かなその空間の中で、色とりどりの花や見た事もない植物に囲まれながら、彼はただ茫然とこちらを見たまま固まっている。

その手にはついさきほどまで周辺に咲いている草花の手入れをしていたのか、スコップが握られていた。


あの方がココルデ王子かしら?

ふと隣にいるリクを見ると、彼は片手で頭を抱え、深いため息をはき出すと今度は私の方を見つめてくる。

何?

視線と視線が交わるが長年連れ添った夫婦ではないため、彼の意思を読むことは出来ず、首を傾げたら、再度深いため息をはかれてしまった。



今私達がいるのは、サーザ城の温室。

リクの友達・ココルデ王子にお会いするため、王子がいるというこちらに通されたの。

ここに案内してくれたメイドさんが王子を呼んでくれたんだけど、彼は私達をみるなり、まるで時の神に時間を止められてしまったかのように動かなくなってしまったのだ。


もしかして、私が来ることリクが伝えてなかったのかしら?

それなら、急な来客のため驚かれるのも無理はないわ。

だって、リク好みの美女用意していおくって書いてあったし。

連れが居たら、せっかく集めた美女も紹介しずらいですものね。


「あれ?おかしいな。女神スティーアが見える。この中に幻覚作用のある植物なんてないはずなんだけどなぁ~」

固まっていたココルデ王子は、やっと動き出したかと思うと辺りを見回しながら首を傾げている。


「安心しろ。現実に存在するから」

「え?」

リクが私の肩に手を回してくたので、今度は私が首を傾げる。

なぜ、肩に手?


「ちょっと確かめてもいいかい?」

「触る以外の方法でな」

「そんなんじゃ抱きしめられないじゃないか!!こんな綺麗な子滅多にいないよ!!この子の美しさには、女神スティーアもたじろぐって。だから、抱きしめて感触を味わいたいんじゃないか。それに声だって聞きたいし。絶対可愛いよ」

「……お前、どさくさに紛れて俺のリノアになんてことを」

「え?今、なんて言ったんだい?俺のとか聞こえたんだけど?」

「俺のリノアって言ったんだ」

「やっぱり、幻聴・幻覚作用のある植物が……」

「もうその流れは良い。ココルデ。お前に一応紹介しておく。こちらはリノア。俺の大切な人だ」

「は?」

ココルデ様と私は初対面ながら、お互い息があったらしい。

リクの大切な人発言に、二つの声がぴたりと重なりあってしまった。


「マジで!?」

「何をそんなに驚く事がある?」

「だって、あんなに親子そろって社交界を賑わせた男じゃんか!!」

「俺にはリノアがいるから、全ての女とは手を切った。過去は消せないが、俺はリノアを愛しているから他の女と関係を持つような事はもうしない。親父はまだまだ落ち着かないんじゃないか?」

「何、このリクイヤード。なんかリクイヤードの皮を被った別人みたい」

ココルデ王子の言葉に、私は激しく頷いた。

やっぱり、リクっぽくない!!

だって、私のこと愛しているとか大切とか言うんだよ!?


「リノアの事は表に出すつもりはないから、挙式も身内だけの少人数の小さい式にするつもりだ。そのため、悪いが式は呼べない。だから、今回顔合わせも兼ねて挨拶に来たんだ」

「え?式?式ってあの式?教会とかで挙げるあれ?」

ココルデ王子が私に視線を向けるが、それを受け私は首を横に振った。

だって知らないもの!!


「あぁ、言ってなかったか?」

戸惑う様子がリクにもわかったのか、リクはそう私に言葉を投げかけて来た。


「聞いてないわ!!」

「じゃあ、今言っておく。式はドレスが出来てからなので、一年後ぐらいだ。ギルア(うち)で小規模の式を挙げる予定だが、やっぱプサラで盛大に挙げたいか?リノアのことを考えると、あまり大きくは出来ないと思ったんだが……」

「それ今ここで言うこと!?っていうか、私ドレスなんて作って――あ」

思いあたらないと思っていたが、一つだけ思い当ることがある。

それは、キキさんの件。

あの白いドレス、ウエディングドレスだったの!?

おかしいと思ったのよね、白のドレスだったから。


結婚なんてするつもりはないから、それがウエディングドレスだなんて思ってもいなかった。

私は、家族をつくるのが怖い。

父様達――バーズ様達に今まで迷惑をかけて来たのに、新しい家族をつくるなんて……


「私は……」

結婚は出来ない。そう告げようとした瞬間、ふわりと温かいものに包まれた。


「リノア。お前が過去のせいで家族や周りに対して複雑な思いを抱いている事もわかっている」

「……リク」

「今は書類にサインをした形だけの夫婦かもしれない。だが、俺はお前とちゃんと心を通わせた夫婦になりたいんだ。だから、俺は全力でリノアを愛し守るから覚悟しろ。お前に、俺と結婚して良かったと言わせてやるからな」

きつくリクに抱きしめれ、私の思考はだんだんと失われつつあった。


私にその価値はないのかもしれない。

でも、ふとした時に浸食されていく。

私もいつか誰かの傍で寄り添いたいという我儘に。


「――どういうこと!?何これ!?なんなのこれ!?」

ふと突然降ってきた聞き覚えのあるその声に私は意識をはっきりと覚醒させ、その方向を見つめると声を失う。

そこにはメイドさんとやたら顔色の悪い騎士が二人。

それから、樽のようなお腹をしたあの方がいた。


どうしてここに……?













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