第四十三幕 王子VSメイド集団
まるで一触即発。
その情景は、そう例えても良いぐらいの雰囲気だと思う。
温かな陽気が射し込むこの部屋に、それとは相反しての冷え冷えの空気を醸し出している集団。
彼らは、ちょうど部屋の扉の前付近で対峙していた。
どうしてそんなに揉めているのかしら……?
私はドレッサー前に置いてある椅子に座りながら、その様子を見守っていた。
それは彼らが着用している衣装により、彼らの素性をしらない人が見ても王子VSメイドという構図が理解出来る。
リクが腕を組み目を吊り上げてながら、ずらりと並んでいた黒いワンピースに白いエプロン姿の女性達を睨んでいるのを、その女性達も手鏡や櫛を武器かわりとばかりに手にしっかりと握りしめ、氷のような瞳でその視線を視線を受けていた。
実に珍しい光景ね。だってメイドというものは、基本的には主に対し反抗的な態度をとることはないもの。
ましてや、主の命に意を反するような事をするなんてもってのほか。
だから、こんな光景を目にするのは珍しいことだ。
主をこきおろすなんて……
「なんだこれは!!露出しすぎだろうが。俺が用意したドレスがあっただろ。あれに着替えさせるんだ」とリクが問えば、
「お言葉ですが、リクイヤード様。あのドレスやぼったすぎました。なんですか?あのドレス」
「えぇ、本当にあれは酷すぎましたわ。ふざけているのですか?あんな季節感のないドレス。あれを選んだリクイヤード様のセンスを疑います」
「申し訳ありませんが、リクイヤード様。あれはダサすぎましたわ」
と、人数分倍になってリクに返っていく。
「ダサいだと!?」
「えぇ、ダサいです。首元から手足の先まで隠そうとするようなデザイン。他の殿方に見せたくないのは理解出来ますが、あれじゃあダサイですわ」
「もちろん、あぁいうレトロなドレスを着飾らせる事も出来ますわ。自慢じゃないですが、それぐらいの腕は私達にもありますもの。ですが、今回は状況が違いますわよね?それに、あれぐらいで露出なんて大げさです。ちょっと肩が出ているだけじゃないですか」
「そうですわ。それにあのドレスはチロルデザインで、いま姫君や貴族令嬢達の間では絶大なる人気を誇るドレスなんですよ?今日この日こそ、あのドレスを着せるべきですわ」
彼らの口論の話題は、おそらく私の着用しているドレスの事だろう。
執務室からメイド仲間に連れだされた私は、ゲストルームに押し込められ、そこで待機していた残りのメイド仲間に、メイクやら着替えやらをされてしまったのだ。
でも、お花を見に行くのにどうしてこの格好なのかしら……?
ふっとため息を吐きながら、ドレッサーの鏡を見つめると、そこには若草色のドレスを身に纏った銀色髪の女性が映し出された。
そのドレスは若草色の生地の上に白いレース模様の生地を重ねて造られたベアトップタイプ。
足元に向かって徐々に生地が広がっていって、Aライン型になっているの。
――なんか、前にもこんな事あったわよね。あ~、たしかリクとの薔薇園でのお茶会の時だったかしら?
ただ、あの時よりも今回の方が力入っている気がするわ。デコルテ部分にまでお粉はたかれたし。
前回と違い髪も降ろされ、胸元に宝石も付けられていないけど、準備をしてくれているみんなの様子が恐ろしいぐらい張り詰めていた。
口々に目でアイコンタクトしたり、メイクと衣装のトータル面での最終チェックを何度もしたり。
今日は一体何があるのかしら?
って、それよりそろそろ止めた方が良いわよね。あらでも……
鏡からちらりとまだ続いているあの人達の方向を見ると、どうやら勝敗は決まりそうになっていた。
これはリクの負けね。
「良いですか?非公開とは言え、リノアがリクイヤード様のパートナーとしての初のお披露目ですのよ?何事も最初が肝心です」
「そうですわ。女の戦い、なめられてたまるか。――あら、失礼。なめられてはなりません。上流階級の女達は見えとプライドが高いんです。リノアに恥をかかせるわけにはまいりませんわ」
「それに私達もプライドを持って仕事をしております。いかにして着飾らせるか、それは私達の腕の実力も問われるのですから。つまり、一見令嬢VS令嬢に見える図ですが、お仕えしている私達メイドや侍女のセンスも問われますの。ですから、妥協は一切許されませんわ。それに、着飾らせるの好きですし」
身ぶり手ぶりでそう口ぐちにリクを説得しているササラさん達により、リクが壁際に追われていたのだ。