第四十二幕 隣国の王子からの手紙
親愛なるリクイヤードへ
元気か?最近君の女性関係の話をあまり聞かないから心配しているよ。
あんなに華やかな交際で社交界を賑わせていたのに、一体どうしたというのかい?
もしかして、この辺の美女はかり尽くしたのかな?
君に関していろいろ憶測が立っているけど、一体どれが本当なんだろうね。
この話題に関しては便箋何十枚にもなりそうだから、さて、そろそろ本題に入ろう。
『カタリナの華』って知ってだろ?
我が国の国旗としても使用されている、100年に一度しか咲かないあの幻の華だよ。
その華が、今朝開花したんだ。もし良かったら、見にこないか?
一般公開が明後日からだから、今日と明日ならゆっくり見れるからさ。
華の国・サーザ 第三王子・ココルデより
追伸:あ、そうそう。ちゃんと、美味しいお茶とお菓子と、それから君好みの美女を用意しておくから!!
「――いいじゃん、美女。しかもリク好みだってさ」
私はついさっきまで読んでいた便箋から顔を上げてると、視線を少し斜め下の方へ向ける。
そこには椅子に座り、片手に羽ペンそしてもう片手に書類を持ちながら、不機嫌そうに眉をしかめている人物がいた。
何がそんなにリクの機嫌悪くするような要因があるのかしら?
ついさっきまでは笑顔を振りまいているってわけじゃなかったけれど、いつも通り仕事をしていたのに。
「注目するのは、そこじゃないだろ。しかも、楽しそうに言うな」
「あ」
リクはそう言うと急に立ち上がり私からその便箋を奪い取るように取り上げると、乱暴にまた再度座った。
「それより、お前カタリナ見たいか?」
「もちろん、見たいに決まっているわ。だって、100年に一度なんだよ?でも、この華って一体どのぐらい咲いているのかなぁ?私、今度の休日4日後なのよね……」
でも、ちょっと1日休みじゃ無理かしら?連休なら行けたかもしれないけど。
せっかく観光に行くなら、やっぱりゆっくり見たいもん。
ギルア城のメイドの休日は、週に2日なの。
事前に1ヶ月前にみんなでシフトを組んで、交代で休日を取る様になっているんだ。
ん~。でも、100年に一度なのよね。
そんな貴重な華ならほんの少しだけでも見たいわ。
たしか、サーザって日帰り出来なくはないわよね?
ギルア国の領土が広大なため、隣国だけどサーザは遠い。
けれども、夜勤終ってすぐに出発して観光して深夜に馬車でこっちに戻ってくれば、朝番に間にあうかもしれない。
「じゃあ、見に行くか?」
「え?何を?」
「カタリナの華に決まっているだろうが。見たいんだろ?連れて行ってやるよ」
「でも、私仕事あるから無理だよ」
行きたいのは山々だ。
だけど、メイドのお仕事がある。
明日とかなら、シフト交換して貰えたり出来るかもしれないけど、さすがに今すぐとか交換とか無理だわ。
「その件なら心配ない。メイド長にはもう話を通してあるし、他のメイドも知っている。ただし、条件付だけどな」
「えっ!?それってもしかして、リクの世話をする使用人として一緒に行くとか?」
勝手な憶測の私の言葉にリクは、何も言わずに書類を捲っている。
それを私は肯定と受け止め、勝手に舞い上がっていた。
「行く!!行きたいっ!!……でも、本当に急に抜けても大丈夫なのかな?」
仕事結構手いっぱいなんだよね。
来週から各棟にメイドの見習いの子達が来る予定だから、彼女達が試用期間内の各試験に受かって採用されれば少しは余裕出来ると思うんだけど。
どのくらい残るかしら?
ギルアのメイドってお給料良い分、かなり試験も厳しいし、配属先によっては人間関係ドロドロだから。
「――……だそうだ。お前ら、後は任せたぞ」
「は?」
ほんのわずかぼうっとしてたら、急にリクは扉の方へと予告なく声をかけてしまっていたので、私は思わず口から変な声が漏れてきた。
だって、その声は外まで聞こえそうなボリュームだったんだもん。
戸惑いながら一体何が起きているの?と考える間もなく、その声を「待ってました!!」とばかりにバンッと扉が急に開け放たれ、見慣れたメイド仲間達が我が物顔で執務室へと乱入してくる。
それを見て、私は瞬時に悟ってしまった。
これ、ハメられたって――