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第四十幕 早く会いたかったから

やばい。顔がにやけてくるのが抑えられない。

とうとう抑えられなくなった私は、自分でもわかるぐらいに顔の筋肉を緩ませながら正面にあるそれに視線を向けた。

それは私が借りている寝室の壁にかけられているアンティーク調の鏡。

そこには、真っ白いワンピースに身を包んだ姿が映し出されている。


ワンピースの左胸には真っ赤な花のブローチが。

両手には白地に薄いリボンのついた手袋、足元もそれと同じようにリボンのついた靴を着用中。

髪はそのまま下し、真珠のカチューシャをしていた。


これらはみんな誕生日プレゼントとして頂いた物。

昨日、私達がお借りしている館の主・シルビアさんが誕生日パーティーを開いてくれたの。

その時に、みんなから誕生日プレゼントを貰ったんだ~。


ワンピースはロイとスレイア様から。

白ってあまり着ないし、こういうワンピース持ってないからなんか新鮮。

ワンピースは襟元が丸襟になっていて、それから袖口はパフスリーブタイプ。

袖口と襟にはシェルのボタンが飾りとして付けられていた。

丈も動きやすいひざ上。


そして左胸につけられている赤い花を模したブローチ。これは宝石店で欲しかったあのブローチだ。

シドが内緒で買っておいてくれたみたい。

値段が値段だから気後れしたんだけど、「以外と貯蓄してるし、団長になってから給料かなり上がったし。だから気にするな」って言われた。

シドもみんなも遠慮せずにというから、言葉に甘えて頂いた。


あと、それから手袋と靴はハイネから。ロイ達がワンピースにするって聞いたから、それに合わせて選んでくれたみたい。

なんか、イメージとしては「お嬢様風」したいって言ってたっけ。


髪のパールのカチューシャは、シルビアさんから。

光に当てるとゴールドに近い発色をするの。

誕生日のパーティーを主催して貰った上に、誕生日プレゼントまで頂いて……

ただでさえ、館に滞在してお世話になっていたのに。


相変わらず、誕生日は嫌いだ。

あの時の光景が頭をよぎるから――


でも、こうしてみんなにお祝いして貰えるのは正直嬉しいわ。

だから、毎年少し複雑な感情なんだよね……



「いつか、誕生日の全てが好きになれる日が来るといいな」

心のどこかが真っ黒のままじゃなく、いつか全てがクリアになって心から好きになるように。

あの悪夢を見なくなるぐらいになるように。


そうなるためにも、私は強くならなきゃいけないわ――


目を閉じ息をふと吐くと、室内に異常なノック音が響き渡り、私は動きを数秒で止められてしまう。

「な、何事!?」

反射的に唯一の扉を見ると、ドンドンと叩きつけるように何度もノックが繰り返されている。

それは、まるで今にも扉を壊されそうな勢いだ。


何かあればこの寝室に扉一枚で続いている部屋で待っているシド達が動いてくれるはず。

だが、そんな気配は全くない。


……ってことは敵襲とかではないし。


念の為にマギアに手を伸ばしかけた瞬間、バンと扉が勢いよく開け放たれ、ここには居ない人が私の名を呼ぶ声が耳に届いてきたので反射的に振り返った。

それに対し、つい思わず目が点になり、唇を閉じるという行為を忘れかけてしまう。


「リ、リクっ!?」

これは幻覚なのか、幻聴なのか。

ギルアにいるはずの彼が、アルル国にいるんですけど。


「おいっ!!さっさと帰るぞ!!」

ノックの返事もないのにどがどがと入って来たリクは、腕を組みながら両足で地面にしっかりと立ち、私を見下ろしている。

その表情は私がさっきまでしていた表情とは反対に、不機嫌そのもの。

そして何事もないように私の手を握りしめると、部屋の外へと引きずるように連れて行こうとした。


「ちょっと!!何処行くの?っうか、なんでここにいるの!?」

「……俺が居て何か不都合なことでもあるのか?」

「いえ、別に」

なぜ急にそんなに声が低くなって威圧的に?

ただ、どうして一週間ほど前にギルアに帰国なさった貴方様が再度ここに戻ってきたのか、ものすごく疑問に思っただけだってば。


「いつこっちに来たの?」

たまたまこっちに用事があったのかしら?なんて勝手に想像してたんだけど、どうやらそれはリクから出た言葉から違うと否定されたようだ。


「ついさっきだ。議会が終わったらすぐにこっちに来る予定だったんだが、爺共に捕まってしまったから遅くなった。あの爺共も一緒に行くとほざきやがって……

おかげでお前を迎えに来るのが少し遅れたじゃないか。あぁ、先に言っておくけど、その分漆黒の魔女には上乗せしてある」

「え?ハイネ……?もしかして、ハイネにここに連れて来てもらったの?」

「それ以外どうやって、ものの数秒でギルアからアルルにお前を迎えに来れるんだよ?」

「は?迎え?なんで来たの?」

なんか、想像もしていなかった答えが返ってきてちょっと怖いんだけど。

だって、リクが迎えに来てくれたんだよ?

疑問に思うの当然じゃん。


「俺がここに突然来ると何か不都合な事があるのか?」

「いえ、別に。ただ、純粋に疑問に思っただけです……」

なんでそんなにつっかかってくるのかなぁ?今日に限って。

そりゃあ、たしかに迎えに来てくれたのに、「なんで来たの?」って聞いた私もちょっと不躾だったけどさ~。


「――……ったからに決まってるだろうが!!」

急に足を止めたリクが、耳まで真っ赤にさせながら吠えるように叫んだ。

そのため、思わず瞬きの回数が異常に増えてしまった。

おそらく重要だと思われる最初を聞き逃してしまったよう。


「ごめん。最初の方聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれない?」

「うるさい!!もういいから、世話になったシルビア様達にあいさつして帰るぞ。お前に見せたいものがあるんだ」

「えっ!?何それ。すっごく気になる!!何?」

「ギルアに戻ってからだ。だから、早く行くぞ」

「うん」

私は頷きながら、リクに合わせて足を速めた。






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