第四幕 姫君、喧嘩を売られる
――こういう趣味の王子なのか?
「ん〜っ、んん!!」
一体何言ってんのよ。
何か言葉を発しているようだが、布で口を塞がれているのでよくわからない。
そのため布を取りはらってやり、ついでに結ばれていた足と手の縄を切ってやる。
晴れて自由の身になったそいつは手と足を軽く動かすと、
「どこの誰だか分りませんが、ありがとうございます」
と深く頭を下げた。
薄い茶色のクセのある髪に丸眼鏡の青年。
これが女好きの王子? どう見ても、図書館とかで難しい本読んでそうなタイプじゃん。
「別に礼なんていいわ。でもなんでそんな格好してたわけ? やっぱ趣味?」
「んなわけないでしょうが!! これは――」
その人は途中で何かに気づいたらしく、顔色を変えながら話を途中で強制的に終わらせた。
かと思えば、いきなり外に向かってあの女騎士の名前を叫んだ。
「スレイア様っ!」
「どうした、スウイ」
「王子が居ないんですよ! 俺を縛って逃走したんです!」
なんだ、やっぱ王子じゃなかったんだ。っうか、護衛気づけよ。
「あいつは、何を考えてるんだ!」
頭を抱え、スレイアさんは地面を足で蹴っている。
「王族が出れば問題ないからって……」
「私に出ろと!? 無理だろうが!」
「取りあえずその辺の町で女の子と遊んでると思うので、さっさと探しましょう」
「あの〜、私も手伝いましょうか?」
手伝いがてらに、ここから逃げれるかもしれないし。
「すまない。頼む」
「いいえ」
それに、困ったときはお互い様ですもの。
「ウィル。私の鞄と布にくるまれている長い荷物取ってきてくれる?」
『いいよ』
建物の中に置いてきてしまった荷物を、ウィルに取ってきて貰うように頼んだ。
『はい、シルク様』
「ありがとう」
「姫様、それ何ですか?」
騎士の興味は、長い布に巻かれたものに向かっている。
「ああ、これ私の愛剣」
そう言って、布を取り払う。宝石で植物や花の文様が装飾された手首ぐらいの太さのゴールドの剣。
一見武器というよりは、美術品などの鑑賞むきだと思うがこの剣あなどれない。
これは我が祖国・ハイヤード公国では国宝級の代物なのだ。
「これって『マギア』じゃないですか!? 俺、儀式でこれの模造品使ってるの見たことあるんですけど!」
「う〜ん。これね、マギアであってマギアじゃないんだよね」
だってこれ……――
「マギアってあのマギアかよ。たしか大昔に消失したって話じゃなかったか?」
「主と認められないと、剣は重く鞘から抜けないんだったよな」
『マギア』とは、精霊王が愛した人間の娘に送った剣。
その人間の娘こそ、私達の遥か昔の先祖だ。
名はルチル様。
けれどもその剣は姫が亡くなってしまった後に原因はわからないけど消失してしまったらしい。
私は諸事情によりこの軽く伝説となりかけたマギアを手に入れた。
「姫様、これは急いで国民にお披露目しなければなりません。国王様の耳にお入れしないと!」
騎士は興奮気味に建物の中に走って行った。
そういえば、パーズ様遅いんだけど。
どうせ螺旋階段辺りでへばってるんだろうな〜。
「――ッ」
呑気にそれを眺めていた私の横を、急に鋭い刃物がかすめる。
――ちょっと、何!? とっさによけて、難を逃れたからよかったものを!!
その剣はさっきまで友好的だった人物のものだった。