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第三十六幕 魔女の呪いと王子様

ちょっと長めです。

「本当にごめんね、リノアちゃん。うちの馬鹿息子ときたら、リノアちゃんが駆け落ちしたって噂を信じ切っちゃって人の話も聞かなかったんだ……一応ちゃんと事情を話したんだよ?それなのに物壊しまくって暴れまくるし、第一・第四・第六騎士団に捜索命令を出す始末でさ。もう手がつけられなくて」

「だから、閉じ込めちゃったんですか……?」

何て言うか結構強引ですよね?バルト様。


軽く頭痛のする頭を押さえながら、少し先を歩くバルト様に視線を向けた。

薄暗い廊下の壁にはところどころ蝋燭が灯され、私達の足元を照らしてくれている。

地下ともあってか、ひんやりとした空気が私達の肌を撫でていき、ほんの少しばかり寒い。


ここはギルア城にある塔の地下室。

私は一旦アルル国に行き、久々の再会の間もなくすぐにハイネの転移魔法によりギルアに戻ってきた。

ハイネの転移魔法だと数秒もかからずにギルアまで戻ってこれるから、普通に馬車で戻るよりも断然早く済む。


最初リクが捕まったって聞いた時、「何事っ!?」って思っちゃったわ。

それが話を聞いていくと、私が駆け落ちしてギルアを出て行ったのが理由って話じゃん。

なんでそんな思考回路に繋がるか、正直わかんない。


リクってあんな大量の執務を一人でこなせるから、頭良いはず。

だから、そんなの違うってわかりそうなんだけど。

だって、スレイア様もロイも一緒なのよ?

本当に駆け落ちするなら、連れて行かないわ。

っていうか、まず相手いねぇし。


「しかし、えらくギルアの王子というのは妄想家の上に達が悪い奴だのぅ」

私の隣りを歩くその少女は、肩にかかった髪を払いのけながら顔を歪め口を開いていた。

年の頃は8歳から10歳ぐらいの彼女は、腰より下まである長いつやの漆黒の髪を風に靡かせながら歩く。


彼女が身につけているのは、髪と同じ色の何の飾りもない漆黒の丈の長いワンピース。

ただそれだけなのに、その姿は花があり、可愛いって思う。

それは彼女の人形のような可愛さを持っているからかも。


彼女は『漆黒の魔女』こと、ハイネ=グランス。

ハイネとはアカデミーの在学中に知り合い、友達になった。

卒業後は魔女狩りで唯一生き残った国・グランス国の女王として、政務を取り行いながらグランス国にいる。

魔女狩りの生残りや子孫は存在しているけど、国として形が残っているのはハイネが率いるグランスだけ。


ハイネは漆黒の魔女って呼ばれてるんだけど、それは髪の色が黒だから。

黒い髪はハイネ以外この世界には存在しない。

古代の文献にある通りに黒髪というのは稀なもの。

黒髪は魔力が桁違いらしく、全魔術を使用することができるらしい。

だからハイネは数少ない者しか使えない治癒魔法も使えるんだ。

だから、私も会った時に骨折を治してもらったの。


強力な魔力を持つ漆黒の魔女の存在は真実と噂も混ざり合い、自国他国を問わず恐れられる存在となった。魔術師が恐れるぐらいハイネの魔力が強すぎるんだって。

そんなんだからハイネってば、最初とっつきにくかったのよね~。

まだ仲良くない時なんて、めっちゃ睨まれたし。


「リクイヤードと言ったかのぅ。ギルアの王子だがなんだか知らぬが、そんな迷惑極まりない奴はわらわが灸をすえてやろう」

「ハイネ、ここギルアだから」

いくら漆黒の魔女だからってそれはマズイ。

ここギルア国内だし。しかも、ここにリクの父親のバルト様がいらっしゃるし。


「別にかまわぬだろ」

そんなハイネの言葉に対し、バルト様はただ苦笑いで答えていた。









知っていたが、実際見てみると違う。

ほんとに捕まってるし!!

思わずその光景を見て、そう叫びたくなった。


牢の中にいるその人物は、手枷と足枷をされ、両手足の自由を奪われている。

着衣も汚れ、ところどころ切れているよう。


何してんのよ!!あのバカっ!!

しかも大人しくしていればいいのに、それに抗おうと腕と足を大きく前後左右に動かしているし。

怪我でもしているのか、彼の両手足首には包帯が巻かれていた。

静まりかえった世界には、金属のぶつかりあう音とリクの叫び声だけがむなしく響く。



「リクっ!!」

「シルクっ!?」

私を見つけるやいなや、リクは一瞬動きを止め大きく見開き私を見詰める。

たがそれもほんの数秒の間だけ。また暴れ始めてしまった。


「動かないでよ!!それ怪我してんでしょ!?」

も~、ちょっとは大人しくしてないさいよ……

また怪我するじゃんか。

急ぎバルト様から預かった鍵を使用し中に入り、リクの傍に駆け出す。


「戻ってきたのか!?浮気男も一緒か!?相手は誰だ!?ロイかそれとも他の奴か!?」

「だからその話はもういいから、大人しくしてて。後で話すから」

暴れると鍵外せないんだってば~。

私は中腰になりながら、さっきから何度か鍵穴に刺そうと試みている。

だけども、リクが暴れるからそれが出来ない。


「リク、動かないでよ!!も~、めんどくさいことばっかりして!!」

「めんどくさいって何だ!?いいか、お前は俺の……――にゃあ!?」

「あ」

リクの言葉はそこで途絶え、彼の姿が私の視界から消えてしまう。


「……ハイネ」

突如目の前で起こった異変に、私は彼女の名を呼び体を半回転させる。

すると、口角を上げたハイネの姿が視界に入ってきた。

彼女が見つめる先は、リクを拘束していた足枷がある場所。


「に、にゃ!?にゃあ!?」

その足枷のある少し手前に、鳴き声をあげながらせわしなく辺りを見回している猫がいる。

金色と茶色の間の毛色の海色の瞳。

毛並みは良く、ふさふさと柔らかそうな毛質。


「ギルアの迷惑王子よ。お主に呪いをかけた。わらわ達の久々の再会を邪魔した罰じゃ――」

魔女は猫にそう言葉を残し、黒い扇子で口元を覆い隠しクスクスと笑った。





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