間幕おじいちゃん閃くっ!! 後編
「シルク=ハイヤード。名前ぐらいは聞いた事あるだろ?」
「わしを馬鹿にしているのか?ディル派でなくても知っておるわい。あのハイヤードの幽閉された姫じゃろ?ハイヤードの王族は皆ハニーゴールドの髪だが、その姫だけは銀色のため銀の悪魔とよ……――」
気付いたのか、じいさんの顔が瞬時に変わっていく。
目を大きく見開きながら俺を見ている。
「まさか、リノアちゃんがシルク姫……?ありえん!!ただ同じ髪色というだけではないのか!?現にリノアちゃんは幽閉なんかされておらんし、あんなに庶民的じゃ!!それにハイヤードの姫が、護衛もつけずにギルアになんているわけがあるまい!!しかもメイドとして働いておるなんて……」
「いや。リノアはシルクだ。言わずともわかると思うがこれは極秘事項だ。シルクがうちにいる事はなぜか、敵方には知られていないらしい」
「まさか……そのようなことが……」
「今は俺と結婚してハイヤード家ではなく、ギルアの人間になっている。もちろんこれはあくまで、あいつに何かあった場合ギルアの人間として守れる保険的な契約結婚だ」
「け、結婚じゃと!?」
さすがのギルアの影の支配者と呼ばれる者も容量を超えた話には頭を抱えたようだ。
深く深呼吸すると、顔を上げ俺を見据えながら口を開いた。
「わしらは、リノアちゃんのウェディングドレス姿を見ておらんぞ!!」
「なんでそっちの方にいくんだよ……あと、テーブル叩くな」
じいさんの抗議に今度は俺が頭を抱えたくなった。
「契約結婚だって言っただろ?式なんてあげるわけないだろうが。知っていると思うが、あいつは忌み嫌われ命を狙われている」
「契約結婚という事は、もしそのリノアちゃんが抱えている問題が解決すればリノアちゃんは帰ってしまうのか……?そんな事になったら、わしらがリノアちゃんと会えなくなるではないか!!年寄りの楽しみ奪うのか!?」
「別に会えるだろ。俺はシルクとの婚姻関係を解消する気はない」
最初の約束で離縁すると言ったが、それは無効だ。
情が移ったのかよくわからないが、俺はあれを傍に置く。
シルクが居ない生活なんて考えられないからな。
「あれは俺のだから手元に置く。シルクがハイヤードに帰るのは一時帰国だ」
「それは若造の気持ちじゃろ。リノアちゃんは帰りたいはずじゃ。時々寂しそうに空を見ておるからな……」
「もしそうだとしても、俺はあれを手放せない。どんな方法をとっても俺の傍に繋ぎとめておく」
「ずいぶんと勝手な事を抜かしおって。リノアちゃんを監禁でもする気か?わしらがそんな事させるわけなかろうが。少しはまともな考えを持て。そうじゃのぅ、たとえばシルクちゃんが若造の事を……――そうじゃ!!その手があった!!」
急に立ちあがったじいさんに、俺は俺は首を傾げた。
なんだ?急に。
「わしは冴えておるぞ!!そうじゃ。ふぉーりんらぶ大作戦じゃ!!」
「はぁ?」
「こうしちゃおれん。元老院に戻って皆と作戦会議じゃ!!これは女子の意見も聞かねばなるまい。至急メルティを呼ぼう」
じいさんはスキップをしながら、扉の方へと向かって行く。
かなり機嫌が良いらしく、鼻歌交じりで。
シルクなら「おじいちゃん、今日機嫌いいね」で済ませられるが、俺らは済ませられない。
こんなの恐怖以外ないと思うのは、俺だけじゃないはずだ。じいさんの事を知っている連中だってそう思うだろう。
「ちょっと待て!!話はまだ終わってないぞ!!」
思わず思考がフリーズしてたが、大事な話の最中である事を思い出し急ぎ呼びとめた。
「わかっておる。ディル派及びハイヤードについてじゃろ。調べておく」
俺もシルクの敵について独自で調べているが、まったく何も出て来ない。
人を雇って変に探りを入れても敵に身元がバレてしまう。
そんな事になれば芋づる式にシルクの居場所まで知られてしまうかもしらないので、下手なことはできない。
それで今回こういう事に強い、じいさん達に頼むのが一番だと思ったのだ。
……だが、なんとも言えない不安があるのはなぜだ?
「本当にわかっているのか?」
「わかっておると言っておるじゃろ。あの子は――リノアちゃんいや、シルク姫は良い子じゃ。若人達はわしらを堅物で古臭い口うるさい老人だと煙たがるが、シルク姫嫌な顔しないで最初から接してくれた。じゃからわしらの目が黒いうちは好き勝手にさせんわい!!若造っ!!情報収集はわしらがする!!貴様はすぐさま男を磨け!!男の魅力をあげるのじゃ!!」
「はぁっ!?」
じいさんは俺にそう言うと、また鼻歌を歌いだし扉の外へと消えてしまった。
一人俺を取り残して。
女に困ったことがないぞ!?それなのに、男の魅力を上げろ?男を磨け?
一体なんだ、それはっ!?