間幕 おじいちゃん閃くっ!! 前編
「若造!!貴様、よくもわしらの可愛い孫娘のリノアちゃんを危険な目に合わせておきながら、のうのうと良くわしの前に顔を出せたな!!しかも『メルティ』の報告では、真夜中にリノアちゃんの部屋に訪れたとか。年頃のしかも嫁入り前の娘の部屋に、そんな時間に入るとはなんたる事じゃ!!」
煩いのが来た……
勢いよく扉が開いたかと思ったら、老人が杖を振りまわし怒鳴りこんできた。
あまりの激しさに被っていた黒いシルクハットが頭からずり落ちるが、構わずに地面を鳴らすようにしてこちらに向かってくる。
「ノックぐらいしろって。あと顔を出すも何も、勝手に入って来たのはじいさんだろ。それに何度も言うが、リノアはお前らの孫娘じゃないだろうが」
俺のため息交じりのその言葉も、その老人には届かない。
むしろ逆に油を注いだのか、ヒートアップしてしまう。
「青二才めが!!口ばっかり達者になりおって!!」
猛禽類のような鋭い目に筋の通っ高い鼻、長い白髭の白髪老人はそう強く言うと、俺の首すじに杖をつきつけた。
「杖をどけろ。とりあえず話は座ってからだ」
――アスラ公爵を見て俺は、手にしていた書類を置き手でソファへと促す。
シルクには猫かぶるが、俺達にはこんなのだ。
今回もノックも無しに俺の部屋に乱入して、貴様呼ばわり。
普通なら処罰ものだが、このじいさんはそれが許される。
それはこの大国ギルアを、そして王族を数千年前の建国以来ずっと支えている五大貴族がいる。
その一つ・ロロアラ家の現当主だからだ。
彼らの作りあげた功績は測りしれないもの。
時代が変わり当主の代が変わっても、この国を支えているという自負と王族に匹敵する権力は変わらない。
ギルアという大国があるのは、裏で動いている五大貴族達の力もかなりあるだろう。
それは国内外の不穏分子を排除するという役割から、各国を繋ぐパイプとしての役割など様々。
いくら大国と言えども、ただその座布団の上にあぐらをかいてばかりでは国の維持出来ないのだ。
だから俺達はこの五大貴族をないがしろに出来ない。
そのため、ある程度の無礼講は許している。
「来るとは思っていたが、まさか一人で来るとはな。他のじいさん達と一緒に乗り込んでくると思ったんだが?」
「事を大ごとにして表に出す気はないからのぅ。他の者は元老院で待機しておる。事が世に広がればギルアに隙があると思われる」
「たしかにな」
じいさんが座ったソファとは反対側にある席に座ると、俺はテーブルの上にあったベルに手を伸ばした。
これから話す内容は人に聞かれないようにしなけらばならない。
そのために人払いをする必要がある。
「人払いのためのベルならせんでもいいぞ。もうさせてある。それに念のため影を数人監視させておるから、誰かが近づけば連絡が入るじゃろ」
「準備いいな」
「当然じゃ」
「まぁいい。深夜の事はもう報告している通り。猫の盗賊がリノアに会いに来ただけだ。そして俺がリノアの部屋に行ったのは、リノアに変装した猫の盗賊のせい」
「猫の盗賊のせいとはどういう事じゃ?」
「……そこにはあまり触れるな。重要じゃない」
話せば長くなるから省くが、簡単に言えば色仕掛けに引っかかったのだ。
しかもあれはシルクじゃなくて、シルクに変装した猫の盗賊だし。
今にして思えば言動がありえなかった。ありえなかったのに引っかかったのは、男の性なのかもしれない。
考えるまでもなく、シルクはあんなに色っぽく男を誘わないしな。
というか、そんなスキルは無いと思うから男なんか誘えないだろう。
「つまりこれ以上話す事がないと言う事か?わしがそれに納得するとでも?」
「納得するも何も話はない。ただ、その件に関してはだが」
含みを持った俺の言い方にじじぃは眉を顰めると、ソファにふんぞり返った。
「他に何があるのじゃ?」
「――……じいさん達に頼みがある」
「ほう。若造が頼み事とは、雨や雪でも降るのかのぅ」
「なんとでも言え」
このじいさん達の情報収集力はギルアで一番だ。
そのため、俺よりもこいつらの方がこの件に関しては向いているだろう。
この件に関しては俺が自分で動きたかったし、じいさん達に借りを作るのは嫌だ。
だが……――頭の中に浮かんだのは、シルクの笑顔。守ってやりたい。
それにはこのじいさん達共の力を借りなければならない。
本来ならしたくないが、重大な秘密を本人の了承なく勝手に話してしまっても――
長いので分けます。




