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第二十六幕 姫君と猫の盗賊

気が付けばここに居た。

たった一つの蝋燭を持って。


何処?ここ……


辺りを見回すが、私がいるのは闇に支配された空間の中。

真っ暗ではなく、ほんのわずがだが足元を照らす分には問題ないぐらいの明かりがあるのが幸いだ。


その空間では、何かをひっかくような耳障りな音がひっきりなしに耳に届いてくる。

私はその原因を探るため、手元の明かりを頼りにその音の元となる方向に歩み寄って行く。


人……?

するとそこに居たのは、扉の前に座り込んでいる一人の少女の後ろ姿だった。

元々の色なのか、それとも汚れてしまったのか、わからないようなくすんだ色のドレスを身に纏っている。

彼女の無造作に伸ばされた手入れがなされていない長いの髪が、動きと共に揺れ動く。


「――けて」

離れていた時には気付かなかったが、彼女は何かを呟いているよう。

耳に入ってくるのだけでは聞きとれず、もう少し近づいて聞くためにしゃがみこむ。

その時だった。

完全には聞こえなかったその声は、何の予兆もなくしだいに大きくなったのは。


「助けて。誰か助けてよ!!ここから出して!!」

彼女は狂ったかのように泣き叫びながら、扉を爪で引っ掻いている。

爪先はボロボロになり、扉には無数の爪後が残っていた。


その声は最終的には悲鳴に近い叫びで耳に届いてくる。

聞いている私の方が、胸を締め付けられるぐらいに悲痛に。


「助けて。父様、母様、ラズリっ!!」

あぁ、これは――

それが何なのか分かった瞬間、何者かの気配によって私の世界は急速に反転した。







「あれ?自分で起きちゃったの?うなされているようだから、起こしてあげようと思ったのに」

まず最初に瞳を開けて視界に飛び込んできたのは、昼間の猫と同じエメラルドグリーンの瞳の少年。

彼は全身を覆うようなダークグリーンのフードを被っている。


目覚めて飛び起きるぐらいの悪夢だったんだけど、それが出来ないのはこの男のせいだ。

なぜなら私の首元にそいつによって鈍い光を放つナイフがぴったりとくっついているから。

その上こいつは不躾な事に、ベットに仰向けで眠っていた私に馬乗りになっている。


……最悪。

悪夢もこの状態も。

私は深いため息を吐くと、その少年を睨む。


「勝手に人の寝込み襲わないでくれない?――『リザー』」

その声に私に馬乗りになっている奴は、おどけるように肩を顰めるとフードを外す。

するとカーテンの隙間から入ってくる月明かりにより、彼の端正な顔がすべて照らされた。

耳が隠れるぐらいの長さの黒い髪に大きなエメラルドグリーンの瞳、そしてはっきりとした鼻立ちに、何が楽しいのか常にあげられている口角。


「もしかして寝起きで機嫌悪い?それともずいぶん顔色が悪いしうなされてたから、悪い夢でも見てたから?」

「お前には関係ない。いいから退け」

「酷いな~。久しぶりの再会なのに。っていっても、昼に一回あったから正確には久しぶりってわけでもないけどさ」

こいつがここにいるって事は、ロイ達捕まえる事出来なかったのか。

お茶会の後こいつがギルアに来ているってロイに連絡したから、騎士たちが見回ってるはずだったんだけど……


「知るか。それより重いから退けってば」

「相変わらずキミ、口悪いね。せっかく綺麗な顔してるのに。実に残念だよ――ハイヤードの姫」

「良いから退けなさいって言ってるでしょ!!」

私は自分の寝ている左側に置いてあるマギアを取ろうと、手を動かす。

何かある時のために、私はマギアを寝るときは常に傍に置いて眠っている。

これはもう癖のようなものだ。

今みたいに寝込み襲われる事もあるし。


「――なっ」

私はマギアを掴み取る事が出来なかった。

手を動かして掴んだのは剣の堅い感触じゃなく、ノリの効いたシーツのごわついた感触。


先を越されたか。

時すでに遅かったらしく私の視界には、ふわふわと空中に浮いたマギアが入っている。

これは『猫の盗賊』リザーの魔力によるものだ。


猫の盗賊というのは、世界中を騒がせている盗賊。

盗む物は過去の魔女狩りによって滅んだ『ログ家』のゆかりの品物ばかり。

それ以外は盗みをすることはなく、人に危害を与える事も絶対にしない。

ログ家の紋章は猫が杖を持っている図柄。

そのため人々は、彼の事を猫の盗賊と呼んでいた。


「魔法使うなんて卑怯よ!!私使えないんだから!!」

そう、こいつは魔法を使う。

そのため魔法が使えない私では圧倒的に不利。

精霊がいるラズリや魔法使いのハイネならこいつとなら戦えるけど。

せめてマギアがあって、右手が動けば勝算はあったかもしれないのに。


「ごめんね。これ魔石埋め込んでいるし、それにマギアも厄介だから捨てさせて貰うよ」

リザーがそう言うと、そこには誰も居ないはずのにカーテンと窓が勝手に開け放たれてしまう。

その上宙に浮いたマギアが窓の外まで移動したかと思うと、今まで浮いていたのが嘘のように重力に逆らわずに外に落下してしまった。


「ちょっ!?なんて事してくれんのよ!!あいつすっごく煩いんだからね!!」

「だってせっかくだし、ゆっくり話したいじゃん。僕、聞きたい事あるし」

「私は無いんだけど?」

あ~っ、もうマギアどうすんのよ!!

落として傷なんてつけようものなら、怒られるっうの。

まぁ、刃物同士ぶつけても傷なんてつかないぐらい頑丈だけど。

でもあいつはナルシストの自分大好き人間だから、大切に扱えとかうるさい。


美しい自分大好きだから、繊細に扱えって口うるさく言うし。

自分を美しく見せるために元々ついてなかった魔石をマギアに埋め込んだのも、マギアからのリクエストからだったしね。

魔石の美しさなら、「自分をもっと綺麗にひき立てられるはずだ」とかなんとか言ってさ。

あ~、絶対後でごちゃごちゃ言われるじゃんか~。











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