第二幕 包囲
「ちょっと待って。どうして剣抜いているわけ?」
おかしいだろ。丸腰の人間に対してその行動は。
というより、自国の軍に剣を向けられる姫ってどうなの?
飛び降りた私をバーズ様の精霊ウィルが助けてくれた。
彼が私の周りに風を起こして浮かせてくれたのだ。
そのおかげで何事もなく逃げられると思ったのに――
不覚にもどこかに隠れていた騎士達によって包囲されてしまった。
先読みされていたか……
「すみません、姫様。絶対に手荒な真似はいたしませんから」
「もう剣抜いてるだけで充分だと思うけれども?」
「威嚇です。威嚇」
しないでよ。一応、これでも姫なんだからさ〜。
姫って守られなきゃいけないか弱い生き者なんだよ? 世間一般的には。
「言っておきますけど、普通の姫とシルク様とではまったく異なりますからね」
よく私が考えてる事がわかったわね。
「さぁ、大人しく部屋へ戻りましょう」
「悪いけど嫌」
結婚なんて冗談じゃない!!
「なら、実力行使でいかせてもらいます」
そう言って奴らは、剣を構え始めてしまった。
仕方ないな〜と、私は嘆息を漏らすと太ももに隠しておいた短剣に手を伸ばす。それはもしもの為に、ベルトで固定しておいた物だ。
「まさか姫、武器を……?」
「一応、命狙われてる身なんで」
「ありえねぇ!! 姫に武器持たせたら終わりだろ!!」
騎士達は少し後ずさりし始めてしまった。
だろうね。私には、暁の獅子仕込みの剣技があるのだから。
たぶんここにいる奴らより強い自身はある。
ただ、長剣と短剣じゃ話が少し違うようになってくるが。
「怯むな!」
「そうだ。俺達だって団長と姫様がいない時、負けないようにあんなに鍛えたじゃないか。きっと姫様より強くなっているはずだ!!」
「そうだ!!」
「お〜っ!!」
意気揚々と一人が叫ぶと、それに続くようになにやら吠え始めた。
へ〜。それは見てみたいかも。
「なら、かかってきなさい」
短剣を構え、騎士達に挑んだ。
どのくらい強くなってるか楽しみだわ。
「姫、覚悟!!」
ちょっと待て。その台詞違うとおもうんですけど?
騎士団の一人がそう言ってかかってきた。
それを短剣で受け止めると、すかさずしゃがみ込んで片足をすくうように蹴りあげた。
するとバランスを崩した男が、よろめきだったのですぐさま剣を奪う。
「長剣ゲット」
「卑怯ですよ!!蹴るなんて」
「しょうがないじゃん。短剣と長剣とじゃリーチが違うしね。それにこれでまともに戦える」
「最悪だ」
彼らは片手で顔を覆うようにしたり、こめかみを押さえこんでいる。
「言うの忘れたけど、私アカデミーでグレン様に剣術習ったから」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。なんでメイド科で剣術なんですか。しかも三大剣豪のグレン様なんて!!」
「ほら、結構トラブルに巻き込まれる星の元にいるからさ〜。シドも習ってたよ。学生だったし」
あの方は強い。暁の獅子……シドも名のある剣豪だけど、あの人とは格が違う。
三大剣豪の一人グレン様は、アカデミーの騎士科の先生。見た目弱々しいおじいさんなんだけどね。
「仕方がない。全員でかかれ!!」
「はぁ!? なんて卑怯なのっ!」
騎士達は本当に全員でかかってきやがった。
いくらなんでも一人に対して二・三十人は勝ち目なんてない。
その時、少し離れた所にある門に馬車が入ってきた。
――あれ、少し拝借しようかな。