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第二十四幕 勝手に応援団

へ~。リクってこういうの読むんだ~。意外。

私はソファに座りながらテーブルの上に重なっている数冊の本に手を伸ばすと、

一番上にあった本を取り膝の上に乗せた。


盗賊グリードとリリアン姫。

これは2・3年前に流行った恋物語の本。

私は読んだことないけど、読んだ人に聞くとかなり砂吐くぐらい甘いらしい。

でもそこがいいらしく、アカデミーでも女の子達の間で流行ったっけ。


この本以外にもテーブルに重なっている本のタイトルをざっと見るかぎり、どれも恋物語の本ばかり。

一冊だけだと思ってたのに、全部って……リクってもしかして恋物語マニア?意外すぎて顔がちょっと引き攣る。

いや、別にいいんだけどさ。なんていうか、女遊びする私生活なのに純愛の恋物語って矛盾してない?


「言っておくけど、俺のじゃないからな」

「え?」

体を斜め後方に向けると、この部屋の主がペンを止めこっちを見ていた。

じゃあ、誰のなんだろう?こんなに大量に。

数冊ずつ重ねられている本が、三つずつ分けられ執務室の中央を陣取っているテーブルの上に乗っている。


「メイド長や女官長が持って来た」

持ってきたって事は、オススメだから読めって事じゃん。

でもよりによって、選んだのが恋愛系って。

しかもメイド長や女官長が?

ますます意外すぎ。

常日頃、主とは節度ある距離感をとるようにが口癖の仕事一筋の人達なのに。


「なんでだろうね?」

「知るか」

「聞けば良かったじゃん」

「聞いたに決まってるだろ。よりにもよって持ってきたのがアレだぞ?あいつら『これを読んで良く勉強なさって下さいませ』とだけ言って去って行ったんだ。一体何を勉強しろと?」

リクは私の所まで来ると、反対側にあるソファにドガッと乱暴に座る。

そして本の束を忌々しそうに見つめ顔を顰めながら、また一旦閉じた口を開く。


「……これが関係しているからなのか、最近メイド達の様子がおかしい」

「そうなの?全然わかんないや。リクの気のせいとかじゃなくて?」

メイドの仕事はお休みしていても、私が療養するために借りている部屋にみんな様子を見に顔を出してくれている。

その時も普通に話しているけど、おかしい様子なんて微塵もない。


「気のせいのわけあるか。『頑張って下さい。東棟メイド一同応援してます』とか言われるんだぞ。

今まで気軽にメイドが俺に声をかけてきた事があったか?ないだろ。俺は使用人とそんな気さくな関係じゃないからな。それなのに急にあいつ等はどうしたと言うんだ?その上頑張れって何を頑張るんだ?」

「仕事とかじゃないの?」

だってそれ以外他に考えられないし。

まぁちょっとリクと他の使用人の距離感を考えると、違和感はあるけどさ。


「いいじゃん。応援してくれてるんだし」

「お前、人ごとだとお――」

リクの声は扉をノックする音で途切れてしまう。

舌打ちをすると、リクは「入れ」と入室を促す。

その声に「失礼いたします」と言って、扉を叩いた人物が入室してきた。


「リノアっ!?」

そう私の名を叫ぶように言ったのは、メイド仲間のササラさんだった。

彼女はメイド服を着て、ティーカップとポットがのっている銀のトレイを持っている。

カップは2つ。

もしかして、スレイア様が?

私と入れ違いにスレイア様がいらっしゃったので、メイドにお茶を持ってくるように頼んだのかもしれない。


マズイ。非常にマズイ。

私は顔を俯かせた。

どうしよう……

メイドがこんな気軽に主の部屋でくつろぐって事はまずありえない。

それは身分的に出来ないから。

それなのに、私はやってしまっている。


こうなったら、濁してフェードアウトするっきゃない!!

バレたらメイド長のお説教どころの話じゃないもん。

私が口を開きかける前に違う人が言葉を発してしまい、私は口を閉じてしまう。


「リクイヤード様。こんな所でお茶なんてムードも何もないですわ!!薔薇園ですわよ、薔薇園」

「は?」

私もリクもササラさんの言葉に思わず声が重なる。

てっきり怒られると思ったのに。

そんな呆気にとられる私達をよそに、ササラさんはテンションが高く今にもトレイを放り投げそうな勢いだ。

……ごめん、リク。前言撤回。やっぱ変だわ。


「そうと決まれば、リノア。そんな格好してないで早く着替えないと。そうね、ほらサミ侯爵様に頂いたドレスあったじゃない?あのピンク色のドレス。それから、リウル伯爵様に頂いた髪飾りと、靴。リノアは綺麗だからお化粧しなくてもいいけど、せっかくなんだしお化粧もしましょう!!」

うきうきと楽しんでいるササラさんをしり目に、リクは眉間に皺を寄せ機嫌が悪い。


「ちょっと待て。お前、あの元老院のじじぃ共に貢がせてんのか?俺にはドレスや宝石は要らないって言ったくせに?」

「違う……います。あれは元々はおじいちゃん達のお孫さん達の物ですわ。サイズを間違えて買ってしまったらしく、捨てるには勿体ないから私にと」

危ねぇ。ササラさんがいるのに、いつもの口調になる所だったよ。

私はいつもリクとは砕けた話し方をするけど、それは他に人が居ない時。

いてもロイ達事情を知っている人の前だ。

それ以外はちゃんとメイドとして接している。


「あのじじぃ共はお前が可愛くて作ったんだ。考えてもみろ、採寸してサイズ間違えるか?」

「あ」

そうだ。貴族令嬢やお姫様って採寸してオーダーで作って貰うんだった。

私、いつも既製品ばっか買っているからすっかり忘れてたっ!!








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