第十九幕 忙しさの原因
え~と、後はゲストルーム3室。
それからリクの執務室に寝室、それにメイド室。
雑巾やほうきなどの掃除道具を持ちながら、私は綺麗になった室内から早足に出た。
各部屋の掃除が全て終わったら、今度は洗濯担当の人達に回収したシーツや衣類などを渡しに行かなければならない。
「あ~、温泉行きたいな~」
だって肩は凝ってるし、足はパンパンだし。
少しは体を労わって、休息したい。
そういえば、ギルアって温泉地ってあるのかな?
お城の大浴場も悪くないんだけど、やっぱ温泉がいいよね。
ほら、なんか疲れ取れそうじゃん。
近くにあるかな?もしあるなら、次の休みにでも行きたい。
あ、そうだ。リクに後で聞いてみようっと。
「リノアっ!!」
その声にすっかり温泉でいっぱいだった頭が、すっきりと霧が晴れたかのように仕事モードに切り替わる。
振り返るとそこには、膝に手を当てて息を切らせたメイドが立っていた。
あれ?ササラさんじゃん。
「どうしたんですか?何かありました?」
「大変、リノア。フリージア様が、あんたを指名してんのよ」
「フリージア様ってたしか、第二姫の?」
「そうよ。あの我儘姫」
フリージア=ギルア。
この国の第二姫で、リクとは腹違いの妹。
リクとスレイア様は正室で、それ以外の方達は側室の子らしい。
私はまだお会いした事ないんだけど、城内の噂話を聞くとあまり宜しくないんだよね。
まぁ、所詮は噂話レベルだけど。
「指名って、もしかして専属のメイドとしてですか?」
「そう言う事」
ついこの間、フリージア様付きのメイドが一人を残し全員辞めた。
一気に辞めるなんて前代未聞だって思ってたけど、前にも何度かあったんだって。
「私、一応リクイヤード様の専属って形を受けているのですが……」
専属って言っても、お茶入れとかしかしてないけど。
だってメイド長が、リク優先にして良いからこっちも手伝って欲しいって言うんだもん。
「そうなのよ。リノアは王子専属なのに。それにそもそも専属の掛け持ちなんて聞いた事ないわ。うちらリノアに抜けられると困るのよ。西棟なら西棟内で変わりのメイド決めればいいのに、東棟巻き込むなっうの」
「たしかに、一人でも抜けるとキツイですよね」
メイド達は、北・東・西・南・中央の五つによってわけられている。
棟は階に関係なく各メイド長がその管轄を仕切っており、人手不足を補うヘルプもその棟ごとに行われるのが普通だ。
だけどフリージア様の専属の人がいっきに4人も辞めてってしまった上に、パーティやお茶会などのイベントの準備のためにますます人が足りない状況になっていた。
そのためここ数日私達の忙しさが加速している。
うちの棟からも他棟や西棟に穴埋め応援としてヘルプを出しているので、通常業務にシワ寄せが来のだ。
「メイド長は何と?」
「今、各棟メイド長を集めて会議中よ」
「……そうですか」
会議中なら今姫様の所に行くより、後で結果が出てから移動した方がいいわよね。
それに私も仕事が山ほど残っているし。
「――あ、あのっ」
「え?」
突然かけられた声に私とササラさんは、視線をそっちに向ける。
するとそこには顔色の少し悪い女の子が立っていた。
黒い長い髪は一つにきっちり結われ、全体的に見て年はわたしより三つぐらい下の15歳前後のように見える。
彼女の着ている衣服は私達と同じメイド服なんだけど、唯一違うのはブラウスのリボンの色。
黄色は、西棟だ。
「リノアさんですよね?」
彼女の吐き出す言葉は消えてしまいそう。
疲れきっているのか、なんか彼女を纏っている空気が弱々しい。
誰だろう?この人。
私は首を傾げ彼女見ながら返事をした。