閑幕 王子と謎の訪問者 2
「なぜお前がこれを持っている?」
自分の腰に下げていた剣に手をかけ、男の反応を見た。
すると、男はそんな俺の様子を見て奴は喉で笑う。
「まだわかんねぇの?――これ俺」
「そんな戯言信じるか。剣が実体を持つなんてあるはずないだろ」
「戯言ってね……悪いけど、俺をその辺の剣と一緒にしないでくんない?俺はあのお方が創りし物」
マギアは俺をよけると、室内へと入る。
そしてソファへと体を埋めた。
「あのお方……?」
俺は扉を閉め、マギアとは反対側の席へと座る。
「もしかして知らないのか?シルクの旦那のくせに?」
「偽物のな」
俺はそもそも愛だの恋だのという感情は持った事がない。
俺が今関係を持っている女達も割り切って付き合っている奴らだ。
誰かと深くかかわるなんて面倒。
……だったんだが、なぜか俺はシルクを匿ってしまっている。
普通ならこんな厄介な話、即刻親父に押しつけるのに。
それなのに自ら首を突っ込んでいるという、異常事態だ。
「偽装結婚って言ったって知っておけよ。自分の嫁の事だろ。あのお方というのは、精霊王・ツェルドラード様だ。俺はあのお方が、最愛の姫君を守るために創られた剣。姫は剣なんて使えないからな。護衛の騎士を付けるしかない。だがあのお方はルチル様を寵愛なさっていたので、人間の力だけじゃ信用がおけなかったらしく、俺を他の精霊同様姫の護衛に加えた」
「どっかのメイドをする庶民的な姫は剣を振りまわすが?」
こいつが本当にマギアなら、こいつの主は姫なのに剣を使う。
しかも口が悪いし、気づけばあいつのペースになっている。
誰かあいつに慎ましさというものを教えてやって欲しい。
「……あれは別だろ。別。お前、あの暴走女を姫のカテゴリーに入れるなって」
マギアは声を大にして言った。
暴走女って、お前の主だろうが。
わかるなら、少しなんとかしろよ。
「普通の姫は剣なんて持てないから、俺が今のような姿でお守りしていたんだ。今は力が弱っていて実体を常に持つ事が出来ない。だが今日のような満月の時だけは、こうして一時的だが実体を持つことができるんだよ」
「あぁ、今日は満月だもんな」
窓からは見事な満月が雲に隠れる事無く、地を照らしている。
「だからこうして挨拶に来たんだ。せっかく動けるんだからな。あと、それから宝石貰いに」
「は?」
後半は何だ、後半は。
マギアは本体の剣をテーブルの上にのせた。
そして一か所を指差す。
「ほら見てみろよ。俺の本体。魔石無くなってるだろ?あいつバーズ様に誰かと結婚させられそうになってさ~、途中でこれ使ったんだよ。こんなんじゃ、俺の美しさが半減するだろ」
「結婚?あいつが?」
急に胸が締め付けられるような感覚に陥ったかと思うと、今度は真っ黒の黒い感情に襲われる。
あいつが俺以外と結婚だと?
誰だがわからない相手に俺は、苛立ちを覚えた。
「へ~。なんだ、そういう事」
マギアは俺を見て、口角を上げる。
そしていきなり笑い始めてしまう。
「なんだ?」
「ん~、芽が出たんだって思っただけ。頑張れ。かなり振りまわされるから」
「何言ってんだ?」
「その内わかるさ。まぁ、うちの姫をよろしく頼むよ」
そう言ってそいつは目を細めまた笑う。
その意味に俺が気づくのはこれからまだ先の話。
俺がシルクの事を自覚した時だ。