閑幕 王子と謎の訪問者 その1
あのじじぃ共め。毎日欠かす事なく俺の元に送り続けているなんて、どんだけ暇なんだよ――
俺は机の上にある二つの積み重なった書類を忌々しく睨む。
それはもうすっかり見慣れたものだった。
ここ一週間ばかりずっと送り続けられる雑用の書類。
それは元老院からの嫌がらせともとれるものだった。
こんなの俺じゃなくても出来るはずなのに、なぜわざわざ俺に寄こすのか?
理由は言わずと知れた事だ。
それは俺がシルクにメイドを辞めさせ、無理やり囲おうとしたという噂が広まったせい。
理由も知らない連中達によって俺は一躍悪役へと仕立て上げられ、
シルクの事を気に入っている連中達や各棟のメイド長及びメイド達を一時敵に回した。
じじぃ共もそうだ。
あいつらもシルクの事を気に入って、孫娘のように可愛がっている。
シルクに「様づけなんて他人行儀じゃないか。おじいちゃんって呼んでおくれ」と言って「おじいちゃん」と呼ばせているそうだ。
他人行儀も何も貴族とメイドだし、他人だし。
しかし、想像しただけで寒気がしてくる。
元老院にいる奴らは由緒ある貴族の古株連中。
そのため頭が固すぎる生真面目連中なのに、目じりを下げてシルクを可愛がっているなんて……――
俺には風当たりキツイくせに。
この間の俺の議会での発言なんて、「根拠がないから根拠を出せ」とか「そんなわかりにくい説明だと伝わらない」とか散々言いたい放題だった。
――もう今日はこの書類明日に回してそろそろ寝るか。
俺はランプに息を吐きかけ室内の明かりを消すと、月明かりをたよりに扉に手をかける。
さっき見上げた闇夜は綺麗な満月だった。
どうせまた明日には新しい嫌がらせの書類が届くんだろう。
深いため息を吐くと、勝手に扉が開いた。
……誰だ?
「お、いるじゃんか」
扉を開けたのは、見ず知らずの男だった。
銀色の長い髪に美しい造形をした顔。
一見女に見えなくもないが、喉ぼとけや骨格などから男だと判断する事が出来る。
この派手な男は一体……
着用している外套の下の衣服には宝石が一緒に縫われているらしく、煌びやかというか悪趣味というか、とにかく目立つ。
「もしかして、俺の美しさに見とれているのか?」
俺が黙っている事に対し、その男が前髪をかき上げそんな事をほざいた。
なんだ、この自意識過剰男は。
たしかに美形だが、自分で言うか?
最初冗談で言っていると思ったが、本気だと言う事は男の次の言葉でわかった。
「まぁ、わかる。俺は美しすぎるからな」
こいつ、鏡があったら何時間も自分を見つめているタイプだ。
「……お前は何者だ? うちでは見かけない顔だな。まさか、その派手な格好で族や暗殺者と言うわけではあるまい」
「あぁ、そうか。『この格好』では初めましてだな」
男はマントを軽く退け、腰元を見せる。
するとそこには、あの女の愛剣が下げられていた。




