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第十八幕 これでも新妻

「……まさか、サインしたんじゃないだろうな?」

「したよ」

私は後ろにいるロイを見ず、目の前にある棚を見ていた。

え~と、元老院のおじいちゃん達は少し渋めが好みなんだっけ。

じゃあ、今日はこのお茶にしようっと。

棚からオレンジのラベルが貼られたビンを取りだすと、蓋を開けてスプーンですくい、あらかじめ温めておいたポットへと入れる。

ポットとカップって、暖めるのと暖めないの全然違うんだよね~。


結局私はメイドの仕事をこうやって今みたいに続けられるようになった。

それはメイド長達が国王様に直訴してくれた事、それから元老院のおじいちゃんやおじさん達からのクレームなどによって、リクがしぶしぶ認めてくれたから。

今頃リクはクレームと仕事の処理に追われてるだろう。

元老院のおじいちゃん達さっき、「リノアちゃんに手を出そうとした罰だ」と言ってリク宛に大量の書類を嫌がらせのように届けさせてたもんな~。



「おま――っ」

慌てて私の元へ来たリクはテーブルか椅子にぶつかったのか、鈍い音と痛みを訴える声が耳に届いた。


「大丈夫?」

「……平気だ。それより、お前結婚だぞ? 結婚!!」

そんなに大声で言わなくても聞こえるのに。

私は小さくため息を吐くと、ポットへとお湯を注ぐ。

そして、テーブルの上にあった砂時計に手をかけた。

さかさまにした真っ白の砂がさらさらと零れ、時間を刻み始める。


「でも問題が解決すれば、離縁するって話だよ」

だから、別にバルト様でも良かったんだけど。

バルト様にうちの息子にしてくれないかって言われて……


「結婚の事は内密に処理するらしいわ。でも、その方がいいかもね。リク、女の人いっぱいいるからバレるといろいろ面倒だし」

だから、ごく一部の人達しか私達の結婚は知られない。

ただの紙切れにサインしただけ。

そこには愛も何もない。ただの契約。


「今からでも良い、断れ。こんなことお前一人で決めていいはずない。バルト様からバーズ様に内密にご連絡を取って貰い、お伺いを立てた方がいい」

「今さら無理だよ」

えっと、あとシュガーポットとスプーンと……

銀のトレイを持ちまた違う棚に移動しようとしたら、両肩をロイに掴まれてしまい、身動きが取れなくなってしまう。


「ちょっと、ロイ。紅茶の蒸す時間って大事なの!!」

「今はお茶なんてどうでもいいだろ! それよりも結婚の方が大じ――」

ロイの説教タイムはそこで終わった。

それは突然メイド室の扉が開いたから。


「……え」

私とロイの視線の先にはみつあみ姿のメイドがいる。

あ、ミミさんだ。

彼女は私とロイを交互に見ると、なぜか顔を赤くして「ごめんなさい」という謝罪の言葉を残しまた扉を閉めてしまった。


「ちょっと待て。まさか、この状況を……」

「勘違いしちゃったんだろうね。私とロイが出来ているって」

結婚って単語出てたし、ロイ説教しようとしてたから、やたらシリアスモードだったし。


「なんでそうなるんだ!?」

「さぁ? それより、追いかけて口止めしなくて良いの? ミミさん、かなりのゴシップ大好きだからすぐに広まるよ。ロイがメイド室に忍び込んでメイドを口説いてたって」

「忍び込んでないだろ! お前が忙しくて手が離せないって言うから、こうしてしゃべっていただけだぞ。それなのに口説くなんて――」

ロイは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

あれもしかしてロイ、好きな子でもいるの?

だから勘違いして欲しくなくてそんなに落ち込んでいるのかも。


「……俺、騎士団に入れなくなる。せっかく試験受かって入ったのに」

「恋愛ごと禁止だっけ?」

「違う。そう言う事じゃない。ただ、噂の相手がお前なのが駄目なんだよ」

「何、レベルが低いって言いたいの? 失礼ね」

口を動かしながら、ちゃんと手を動かす。

別に私は噂なんて気にしないし。

それに仕事をこなさないと溜るし、なにより紅茶が冷めてしまう。


「違う、逆だ逆。お前はかなりの人気なんだ……絶対皆騙されてるって。リノアは、顔だけだっていうのに」

「失礼な」

そんなにはっきり本人の目の前で言うか?

あ、でもうちの騎士にもそう言えばそんな事言われたような。


「俺とお前が友達だと知られた時の反応ですら、大変だったのに。どうすればいいんだよ、俺」

「そんなのちゃんと誤解といてあげるわよ」

「本当か!?」

ガシッと両手を握られ、キラキラと目を輝かせたロイと目が合う。

うわ、すげぇ犬みたい。

尻尾作ってあげようかな。


「うん。そのかわり、今度の休みに買いものに付き合ってね」

「あぁ。何買うんだ?」

「ん~、お酒とハーブティー。ほら、もうすぐ私の『誕生日』でしょ? 効かないと思うけど、一応ね……」

あの忌々しい記憶が薄れる事はない。

消えて欲しいのに。


「シド呼ぶか?」

「ん~、大丈夫。今、シド動かすとあっちに私の事気付かれちゃうかもしれないし。それに、これ以上うちの騎士団長に迷惑かけれないもん」

「シドは迷惑だと思ってない。それに騎士は主のために働くのが仕事だ」

「とにかくいいの。平気だから」

私はロイに微笑むと、温めていたカップのお湯を捨てた。


出来ればずっと来ないで欲しい。

でもその日はもうすぐやって来る。

一年で最も私が嫌いな日が――






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