第十六幕 気がつけばもうすぐ朝
「またお前は勝手に城を抜け出して!!」
「……ごめんなさい」
「謝れば許される事ではないだろうが!!」
肩を落とし反省しているオリンズ様と、怒鳴り声をあげているリク。
まるでさっきの私とロイのようだが、きっとこっちの方が怖いと思う。
だってロイは最後の最後で許してくれるけど、こっちは許してくれなそうだもん。
リクってねちねちしてそうだから、きっと反省文とか書かされたり罰として勉強時間増やされたりしそう。
「リク。もういいじゃん。オリンズ様泣いてるし」
「お前は黙ってろ」
「リ、リノア…を怒らないで…僕が…悪いんだから……」
オリンズ様は涙をぼろぼろと流しながら、私とリクの間に割って入った。
あ~、可愛い。
こんな時なのに、私の事庇ってくれるなんて。
ハグしたいけど、やったら絶対リクに怒られるな。
「今度は何が見たかったんですか? ちゃんと声かけて下さいってこの間お話いたしましたわよね?」
しゃがみ込んでオリンズ様と視線を合わせれば、潤んだ瞳と目があった。
オリンズ様は好奇心旺盛な方らしく、たびたび脱走を図る。
この間は湖が見たいからという理由だった。
一言断って護衛をつけさせて外出すればいいんだけど、即行動という性格らしく勝手に抜け出してしまう。
「……ごめ…んなさい。お…花……さが…してて」
「花ですか?」
私の言葉にオリンズ様は頷く。
「……うん。リノ…アの髪と……同じ、プラ…チナの……色の花を……探してたの……」
「もしかしてツェルドラードの華ですか?」
もしそうなら、困った。
あれを探すのは困難というか、ちょっと無理なんだよね。
「名…前は忘……れちゃった。内緒で…探して……リ…ノアにあげ…ようと思って……」
そう言って差し出されたのは、一冊の本。
中身をめくっていくと、どうやらこの本には文献などに書かれている珍しい物ばかり集めて書いているようだ。
文字の大きさとイラストから、子供向けになっている。
「おい、ツェルドラードの華ってなんだ?」
「あぁ、リクはガル派だから知らないか。ツェルドラードの華って、精霊の王様ツェルドラードの名をとってそう呼ばれているの。ツェルドラードの髪と同じ銀色の花びらをしてるんだって。その花が咲いた時、精霊王がこの地に姿を現すという幻の花らしいよ」
マギアと同じでこの花も古い文献に書かれているので、実在するかわからないのだ。
まぁ、マギアも存在したから、もしかしたらこの花も存在する可能性もあるけど。
「精霊にも王がいるのか?」
「うん。精霊には二種類いて、一つは森や古い建物などに宿る精霊。そしてもう一つは、火や氷など自然の要素を司る精霊がいるの。王はその全てを統べる存在。私達、ハイヤードの王族は彼とハイヤードの姫君ルチル様の子孫だと言われているんだ。だから彼のおかげでハイヤードは精霊の加護を受けている」
昔寝る前に母様――ラピス様が私とラズリに読んでくれた絵本。
精霊王とハイヤードのお姫様の恋物語。
内容はある日人間界にやってきた精霊の王が、ハイヤードの姫に恋をするという話。もちろん姫も王の事を愛するんだけど、身分と種族が違うため結局離れ離れになってしまうという悲恋物。
ラスト納得出来なくて、ラピス様に抗議しまくって困らせたっけ。
「なぁ。お前の髪が珍しいプラチナなのって、その王と関係があるんじゃないか?」
「ないと思う。だって、私の髪って元々バーズ様と同じハニーゴールドだったんだもん。でも、地下に居た時の生活でこうなっちゃった」
食事に仕込まれていたさまざまな毒物のせいか、陽の光があたらなくて退色したのか。直接の原因は不明だ。
「まぁ、でもプラチナも悪くないでしょ?珍しいし」
「リノアの髪綺麗~」
「ほんとですか?ありがとうございます」
ん~。オリンズ様可愛いな。
ほっぺたプニプニしたい。
「お前はなんでそんなにあっけらかんとしてんだよ。普通なら恨――」
「王子。そろそろ戻りましょう」
リクが何か言いかけると、ロイがそれを遮ってしまう。
空は薄く明るくなり始めている。
あと二・三時間もすれば早番の人達の仕事が始まるな~。
――って私、早番だし!!
……どうしよう。私の睡眠時間。