第十五幕 水面下
しんと静まり返った森の中、さっきまで鳴いていた虫や獣の遠吠えすらかき消すぐらい大きい声が響いていた。
それは言わずと知れたあの真面目な男の声――
これ耳ふさいだら、もっと怒鳴られるだろうな~。
一応俯き反省した振りを見せているが、相手にはもうとっくにばれているだろう。
やだなぁ。ロイの説教長いんだよね。
平気で一時間とかするし。
「リノア!! 人の話はちゃんと聞けっていつも言ってるだろ!!」
見たくもないが、私は一応顔を上げその人を視界に入れる。
そこにいたのは仁王立ちでこっちを睨んでいる、ロイだ。
髪には葉っぱをつけ、頬には枝で出来たと思われる小さい傷が出来ている。
そんなに眉間に皺よせると、とれなくなるよ? なんて言おうものなら、説教タイムが伸びまくってしまうので、心の中にしまっておこう。
私は城を出る時に、ロイに伝書蝶を放って置いた。
それに気付いたロイが、スレイア様を引き連れ、私達より数分遅れで森へとやってきた。
ロイ達が私達に追いついたのはいいんだけど、事後報告で知らせたのがまずく、動く前に知らせろとぐだぐだとお説教が始まってしまったのだ。
「大体、お前はいつもそうだ。すぐ勝手にほいほい決めて行く。お前は人一倍命狙われているんだから、もっと用心して行動しなきゃならないだろ。しかも相変わらず、また厄介事に巻き込まれて――」
巻き込まれるも何も、夜光華狩りにあったのはしょうがないじゃん。
それは私が悪いわけじゃないって。
……と、反論しようとしたが口を開くのを辞めた。
だって、絶対倍になって返ってくるもん。
「ロイ。お説教の最中、悪いんだけど」
後でいろいろ面倒になるの嫌だから、言ってしまおう。
それにどうせ怒られるなら一回でがいい。
「なんだ?」
「リク達に私の秘密バレちゃった」
正確には、自分でバラしちゃったんだけど。
あははと乾いた笑いを浮かべれば、ロイの顔色が急速に変わっていった。
「――っ」
痛い。
二の腕がにロイの手によって潰されるんじゃないかってぐらい握られた。
「まさか、あのお縄になった連中にもじゃないだろうな?」
ロイの視線は少し離れた所にいるリクとスレイア様、それから縄で縛られている夜光華狩りの連中に向けられている。
「……ごめん」
「リノア!!」
一瞬雷かとおもうぐらいロイの声は畏怖するものだった。
思わず身が縮こまる。
「ロイが心配してくれるのは、わかってるよ。でも、あいつらと戦うって決めたの。だから、遅かれ早かれ私の存在は世間に現れる。それが早くなっただけだよ」
どうせハイヤードの帰ったら、私の存在が明るみに出る。
私はもう幽閉される気もないから、自由に生活をさせて貰うつもりだし。
「わかってない。状況はお前が思っているより、最悪が方向に進んでいるんだ。あいつらはもう幽閉なんて生緩いやり方はしない。今度こそ――」
ロイはそこで言葉をやめてしまう。
もうそこまで言われれば、答えなんて考えなくてもわかる。
「――今度こそこいつを殺すのか?」
「……リク」
いつの間にか、リクが私の傍に来ていた。
ロイと同じでその表情は硬い。
「……シルク。しばらくこの国にいろ。幸いな事に、あいつらはお前の消息をプレサで失ったらしい。だから、ここにいる事は知られていないんだ」
ロイはリクの問いには答えず、そう告げる。
プレサって、私が飛ばされる前にいたところだ……
まさか、後つけられてたの? それとも、間者がいた?
卒業という事とハイヤードに戻れるという事で気を抜いていたのか、まったく気付かなかった。
これは完全に私の落ち度だ。