第十四幕 忌み子
「おい、ちょっと待て。どうやって華を手に入れたんだ? デデの華は、キラ国にしかない。しかも、王国管理区域にしか咲いてないはずだ」
そう私に話しかけてきたのは、リクとさっきまで戦っていた賞金首だった。
もう剣は降ろして、すでに私達の会話を聞く態勢をとっている。
「たしかに貴方の言う通り。だから外交という名目でキラ国に滞在し、隠れて禁止区域に侵入して無断で華を密かに掘りおこしたの。そして、何食わぬ顔をして自国に持ち込んだ」
「なんて奴だ!! デデの華の花粉は毒性が強ぇんだ。俺達は生まれた時から免疫持ってるから華に近付いたり、触っても問題ねぇ。だが、他国の奴らは違う。だから王族の奴らの手によって、隔離されてんだ。他の国のやつらが、珍しがって持ちださないように」
「そう。それなのに、国王は持ちだしてしまった。自分の思惑通りにデデの華を入手した王は、自国に戻るとさっそくデデを妃や家臣などいろいろな人に見せて自慢を始めたの。みんなデデの美しさに魅了された」
ウイルスは知らず知らずの内には空気感染、直接感染などによりだんだん城を浸食していった。
そして原因不明の病に伏せってしまう人が増加していく。
その感染は強く早い。
ハイヤード公国に連絡が入った頃には城の連中はおろか、街の人々にまで病が広がっていた。
「そこからは皆に知られている通り。すぐに父様……バーズ様とラズリによって原因究明が行われ、事実発覚。そしてすぐにアカデミーに応援を頼む連絡が入れられたの。そしてそれを受けたアカデミーの薬学の先生達、それからハイネとカシノを含む生徒の研究によりワクチンが作られた。それが真実よ」
全て話終わったけど、男は何も話すこともないし動きもしない。
まるで人形のようだ。
「リノア。お前は本当にハイヤードの姫なのか? ハイヤードの姫は幽閉されているっていうのは、ディル派じゃない俺でも知られていることだぞ」
「表向きはね。でも、幽閉はされてたよ。7歳の誕生日からずっと、15歳の時までにね。今まではアカデミーに入っていたから、大丈夫だったけど」
7歳の誕生日に私は神官の手により、明かりもない地下牢に幽閉された。
シドに助けられるまで、8年間ずっと。
その間は地獄だった。
「地下の真っ暗な部屋の中、頼りになるのはたった一本のろうそくだけ。湿気が強いせいか、木の机なんかはカビが生えてたっけ。それに、食事には毒が入れられてさ。それを考えると、ギルアの地下牢って良いよね。ランプあって、ごはんおいしいし」
クスクスと笑っていると、リクの怒号が耳に届いた。
「何笑ってんだ!! なんでお前がそんな目にあわなきゃならないんだよ!?」
「……それは、私に精霊がいないから」
ハイヤードの王族には7歳までに自分を守護する精霊が現れるんだけど、私には精霊が現れなかった。
これは前代未聞のこと。
神官達はこれを不吉な事とし、私は凶の源とされた。
「たったそれだけでかよ? それだけで、嬢ちゃんはそんな目にあったのか?」
「あぁ。賞金首さんは、キラ国出身だっけ? キラ国はガル派だもんね。でも彼らディル派にとっては違うの。精霊は崇める存在だから。精霊がいないイコール、私には精霊の祝福がない忌み子ってなるの」
「ハイヤードの国王はどうしたんだよ!? 自分の娘がそんな目にあってるのに、助けなかったのか?」
「――幽閉はバーズ様が決めた事なの」
私の言葉に、リクをはじめ全員が息をのんだ。
「言っておくけど、バーズ様が悪いわけじゃないよ。あの時、そうしないと私殺されてたし」
バーズ様は神官達に今すぐ処刑するか、幽閉するかどちらかの選択をせまられていた。そして、バーズ様は幽閉を選んだ。
「お前、金が貯まったら帰るって言ってたよな? 大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないだろうね。あいつら、また私を幽閉するか処刑するかして欲しいっていう嘆願書送っているみたいだし」
「それなのになんでだよ!? わざわざ自分で敵地に出向くなんて、馬鹿か!?」
「それでも帰りたいの。今まで家族とちゃんと過ごした事なかったから、一緒に過ごしたいんだ。それに別に心配しなくても平気だよ。私ちゃんと鍛錬して剣術とか身に付けたから、強くなったもん。あの頃とは違う」
だからむざむざと幽閉なんてされないし、処刑もされない。
それに今はシドもラズリもユリシアも、騎士のみんなだって国にいるから。
「――っていうか、なんか完全に話それたよね」
なんか、いつの間にか身の上話になってしまっちゃったなぁ。
「かかって来ていいよ。じゃないと捕まえちゃうけど?」
そう言ったんだけど、誰ひとりとして剣を動かす人はいなかった。
え、何この空気。すっごく重い。
いや、作りだしたの私だけどさ。