第十三幕 銀の悪魔
男と女なら、女の方が弱い。
それは力の強さや、体の大きさの違いから言われることだ。
でも実際は、個々の能力を見なければわからない。
武術にすぐれた女にとって、男一人を倒す事すら容易な時すらあるんだから。
「ちょっとリク!! なんであんたがそいつと闘ってんのよ!!」
複数の剣の太刀を交わしながら、少し離れたところで戦っているリクに怒鳴った。
動物や虫の鳴き声に交じって、金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。
「知るか」
冗談じゃない。なんでリクばっかり賞金首と闘ってるのよ!!
相手の戦力は全部私に向けられている。
おそらく、人質にでもとろうと思ったのかもしれない。
大体リクがあいつを倒したら、賞金がリクのものになっちゃうじゃん。
どのくらいの賞金額かわからないけど、無一文の私には天からの助けだ。
それを横取りされるなんて――
「こっち早めに切りあげて、賞金ゲットしてやる」
私はこっちのやつらを倒し、リクが賞金首を倒す前に私が賞金首を倒すことにした。
幸いな事に、こいつら数だけで弱いし。
筋が悪いわけじゃないから、ちゃんと鍛錬積めばそれなりになるのに。
勿体ないな~。
一人二人と倒していくと、様子がおかしい奴が目に入ってきた。
他の連中は私に向かって来るんだけど、そいつだけはただ私を見て震えている。
「おいっ!! こんな時に何ぼさっとしてんだ!!」
「……無理だ」
青白い顔をした男は、ゆっくりと腕を上げ私を指さす。
「俺達この女に殺されちまうんだよ」
いや、殺してはいないって。
みんな、みね打ち。
「――この女は銀の悪魔なんだ!!」
その男の声があたり一面に木霊する。
あまりに異常な声音に、少し離れた所で戦っていたリク達の動きまで止まってしまった。
「銀の悪魔って……ハイヤードの呪われた姫のことか?」
「そうだ」
「俺はディル派じゃないから良くわかんねぇけど、姫は何年も城の地下牢で幽閉されてるって聞いたぞ。たしかにこの女銀色の髪だけどよ……」
「俺だってそう聞いてる! でもこいつの持っている剣はマギアだ。まさか、実在するなんて」
どうやら、誤魔化すのは無駄のようだ。
マギアを知っているから、こいつは精霊信仰のディル派の国の出身らしい。
「あんたディル派?」
「そうだ。お前が滅ぼしたウラナの出身だ」
前にウラナという国があった。
今は地図上からは、その存在が消えてしまっている。
天変地異が起こり一夜にして滅んだとか、戦で滅んだとかではない。
「――ウラナね。あのバカ王の居た国か」
ウラナを滅ぼしたのは、あろうことか自国の国王。
だが、それはあまり知られていない。
彼らの国を滅ぼしたのは、私になっているのだから。
「陛下をバカにするな! あのお方はお前のせいで死んだんだぞ」
「死んでないわよ。あんた達国民にはそういう話になってるの? あの事件の後、あのバカな国王はさっさと自分の国を見捨てて、他国へと亡命したんだけれど」
――あの事件。
それはウラナ滅亡の原因となった奇妙な伝染病。
今はその病原菌についての研究も進み、ワクチンや治療薬も存在しているから、発症しての死亡率はかなり少ない。
だけど、あの頃はそんなに進んでなかった。
発症してからの死亡率が、90%を超えていたのだ。
「お前の言うことなんか信じるか! ウイルスをばら撒いた張本人のくせに。俺らの国になんの恨みがあるんだよ!」
「恨みなんてないわよ」
「だったらなんでみんなを殺したんだよ。俺の家族もあの時、全員お前に殺されたんだ」
男の崩れ落ちるように地面へとしゃがみ込む。
雫が地面に落下した。
「知られていないけど元々の原因となったのは、虹色に輝くデデの華。そのウイルスを国内に持ち込んだのは、あんたの所の国王よ」
ある日ウラナの国王は、商人から虹色に輝くデデの華の話を聞かされる。
王はその話を聞き、なんとして手に入れたいと思った。
それが自らの首と統治している国を滅亡へと向かわせるきっかけ。
「花のウイルスだと? バカにするな。そんなウイルスで、あんなに人がたくさん死ぬかよ!」
「あまり自然を馬鹿にしない方がいいわよ」
生き物には菌や良い悪い関係なくウイルスが存在している。
それは植物だって言える事。
「これは一部の上の連中の間では事実として認識されている。でもそんな事がバレてしまえば、国のメンツにも関わってきてしまう。だって他国から勝手に禁止植物を持ち込んだ上に、それが原因で大量感染を引き起こしてしまったんだもの。だから、私の存在を利用したのよ」
都合良く、ディル派に忌み嫌われていた私の存在を。
案の定私の呪いと噂は広がり憎しみの矛先は私に向けられ、真実は闇に隠れ誰も事実を知る者はいなくなった。