第九幕 王子VSメイド
ルーベンスアカデミー。
その学校は、入学倍率がかなり高い。
ここが人気なのには二つの理由がある。
一つは、入学料・学費共に無料な事。
そのため一般庶民から王族までさまざまな身分の人に入学資格が与えられる。
ただしその他の寮費などは自腹の上、親などからの仕送りは一切受けてはならない。自分の必要なお金は、全てバイトで賄うという条件付きだ。
そしてもう一つが、人材の育成力。
卒業生は各分野で世にたくさんの業績を残す人材が多い。
そのため、この学校を卒業するという事は一つのステータスになる。
庶民から城務めの官人になるのも可能になのだ。
もちろん授業はかなりハードだからついていけない奴や、王族や貴族なんかは優雅な生活から自分で労働という生活になるため、耐え切れなく辞める奴も多い。
私はそんな所をつい三週間前に卒業した。
ハイネ達と別れる時、「また逢おうね」って笑いあって別れたけど、まさかこんなに早くあうなんてな~。
私が見つめている先にいる青年――甲冑に身をつつんだその人は、手にしていた書類が散らばるのを気にも留めず、こちらを見てただ茫然としている。
彼の髪はとかしてないの? とつい聞きたくなってしまうが、それは彼の強烈なくせ毛がそう思わせているだけだ。
「お前なんでこんな所にいんだよ!? しかもその格好!!」
彼は散らばった書類を踏みしめながら、こちらに足を進める。
「久しぶり、『ロイ』。三週間ぶり~。ロイが騎士団の試験受かったのって、ギルアだったんだね」
彼は、ロイ。
私とは学科は違うけど、アカデミーの時の仲の良い友人の一人だ。
「何、初耳みたいな事言ってんだよ。ちゃんとお前らに真っ先に受かった時言っただろうが。人の話、ちゃんと聞いとけよ。校長先生にもさんざん言われ続けてただろ」
「あ~。校長元気かな?」
「お前ら卒業して、運動不足になってるんじゃないか?」
「お前らって……ロイも追いかけられてたじゃん。真っ先に掴まってたけど」
「廊下は走ったらいけないっていう校則があるからな」
出た。ロイの真面目さ。
いくら校則であるからって言ったって、追われてたら逃げるじゃん。普通。
掴まったら、校内草むしりと校長室掃除がまってるし。
それなのにこのロイは、バカ真面目に競歩で逃げていたのだ。
「お前はたしかうちの騎士団の新入りだな。たしかロイ=テオドラ」
「はっ。これはリクイヤード様。挨拶もせずに申し訳ございません。どうかご無礼をお許し下さい」
ロイは膝をおり、礼をとる。
ロイが騎士っぽくしてんの初めて見た~。
「そんなにかしこまずとも良い。それよりお前、さっきこの女の事シルクって呼んでなかったか?」
リクイヤード王子はロイに立つように促すと、私の方に視線を向ける。
あっ、そうだった。ロイのやつ、私の事本名で呼んだんだっけ!!
「……あ、いえ。それは」
どうやって誤魔化したらいいんだ!? とばかりにロイはこっちを見つめている。
今回はしょうがないか。たぶん、咄嗟に出たんだろうし。
アカデミーの時、私は自分の素姓を隠していた。
そのためリノアという偽名で通ってたんだけど、ロイのように仲の良かった一部の人物や校長などは私の事情を知っているため本名を知っているのだ。
「何をおっしゃってるんですか?ロイはちゃんとリノアと申したと思うのですが。ちゃんとリノアと聞こえましたよね? ねぇ、メイヤ様」
「えっ!?」
ごめんなさい、メイヤ様。
巻きこんじゃいます。
「そう言われてみれば、リノアと聞こえたような気がいたしますわ……」
「――だそうです。王子の完全なる聞き間違いですね。早急に耳のお掃除をする事をお勧めいたしますわ」
これぐらい言ってもいいだろう。
さっき、さんざん嫌な事言われたんだし。
「なんだと?」
「聞こえなかったの? さっさと耳掃除してくれば?」
「リノア~! 王子になんて口のきき方を!!」
急遽間に入ったロイの目が涙目だけど、気にしない。
「たかがメイドのくせにその口のきき方はなんだ。クビにするぞ」
「すれば? ただし、あんたにその権限があればね。私は国王様に雇われたの。あんたはただの王子でしょ」
「リノア!!」
私のその言葉に、ロイの悲鳴じみた声が響く。
「ただのメイドが偉そうに。お前は俺が誰だかわかっているのか!!」
「王子、違うんです。リノアはメイドであってメイドじゃないんです!!」
「じゃあ、なんなんだ」
「それはその……」
「私が何者でもあんたに関係ないじゃんか」
「お前は少し黙れ」
「あんたが黙りなさいよ」
結局私たちの口論は、話を聞きつけた人達が止めに入るまで続いた。
これが私とリク――リクイヤードの最初の出会いだった。