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バレンタイン企画 バレンタインにはやっぱり手作りで☆

「今日の会議、長すぎだろ……」

「そうですね。いつもに増して白熱した議論でした」

「バレンタインだからな~」

「いえ、それは関係ないかと思いますが」

「あるだろ! お前、バレンタインだぞ。バレンタイン。この言葉だけでもテンションが高まるだろうが!」

そんな事をスウイと話ながら執務室へと向かえば、扉のドアノブに何やらおかしなモノを発見した。

二人して首を傾げながらそれを確認するため足を進めていく。

するとそれはどうやら紙袋のようだ。


「なんだこれ?」

それを手に取り、袋を開ければどうやらラッピングされた物が入っている。

そして手紙が一通。

「誰だ?」

取り出し差出人を見れば何も書いてない。ただ宛名には、『リクへ』と書かれていた。

その文字は紛うことなきシルクの筆跡。どうやらあいつがここへ来たらしい。

執務室は留守の間、防犯対策も兼ねて施錠してある。だからだろう。


クリスマスのように、また漆黒の魔女にでも連れて来てもらったのか?

どうせならもう少し待って俺に会って行けばいいのに。


……まぁ、でもあいつも忙しいからな。


シルクは来月に行われる精霊祭で踊る舞の練習に明け暮れている。

しかも今年はあいつが主になり、全てを動かさねばならないらしい。

そのため寝る間も惜しんで準備に勤しんでいた。


そんな身でありながらチョコを届けてくれるなんて、愛ゆえに出来ることだな。

と感動を胸に、俺はその紙袋を室内へと運んだ。

スウイに茶の用意をするように言付けを残して。





「――おい。全滅じゃないか」

ラッピング紙を解き、現れたのは小箱。

そこまでは良かった。あぁ、至って普通だから。

問題は中に入っていた物体だ。ハート形のクッキーが数枚ほど入っていたのだが、割られている。

ハートが真っ二つ。しかも全て。


「なんて不吉な……」

だが、見る限り手作り。きっとこちらに持ってくる間に割れたのだろう。

時間が無い中、急いで来たため型崩れした可能性が高い。


――あいつ、そんなに俺の事を。


胸が熱くなり、クッキーが割れている事なんて吹っ飛んでしまった。

茶が到着するまでシルクからの手紙でも読もうと、封筒を取り出し便箋を読んでいく。


「えーと、なになに……リクのために甘さ控えめにしたよ! 全部食べてね! って、可愛いじゃないか」

しかも俺のシルクは字も綺麗だし。


だがちょっと引っかかったのは、あいつが珍しくシンプルな無地の封筒と便箋を使っている事だ。

こういう文具にはこだわりを持っているらしく、ダマスク柄等の模様が施されたものを使用している。

そのため無地なんてシンプルな手紙は今まででに一度もない。


バレンタインだからだろうか? 貴方色に染めてと――

いや、そんな事を考えるような奴ではない。


「しかも、なんだよこれ?」

便箋が二枚入っていたのだが、二枚目が何も書いてない。

つまり白紙のままだ。もしや、間違えて入れてしまったのだろうか? 

しかも何やら柑橘系の良い香りが漂ってきている。


「何故この1枚だけから……?」

そう呟いた時だった。


「リクイヤード様。お待たせ致しました」

と、トレイに紅茶セットを乗せたスウイが戻ってきたのは。


「どうかなさいましたか?」

「いや。なんだか……」

俺はそこまでいいかけるが、途中で止めた。

頭に過ぎったのは、あの諸悪の権現。鬼畜腹黒シスコンの姿。

まさか有るはず無い。あのシスコンが関わっている可能性があるなんて。

ちゃんとシルクの字だしな。


――だが、なんだこの言いしれぬ不安は!


「さぁ、どうぞ」

「あ、あぁ……」

飲み物もやってきたので、早速議会の疲れを癒すためにクッキーを一つ掴み口へと運ぶ。

だが、すぐに口内に広がった違和感に紅茶へと手を伸ばした。


「苦っ!! 苦い! なんだよ、これっ!?」

「え? 紅茶がですか?」

「違う。クッキーだ。クッキー」

「まさか、シルク様が失敗なされるなんて……いえ、でもそもそもシルク様はそういったものを人へプレゼントするということは……」

「シルクの名を語った誰かだと言いたいのか? そんな奴極刑だ! 今すぐ俺の前へ連れて来い!

裁いてやる!」

俺の愛する者を語る偽物なんて、すぐさま叩き潰す。


「そんな事より、お体大丈夫ですか? 毒かもしれません。僕、ルナさんを呼んで来ます!」

スウイは慌てて執務室を飛び出して行った。


言われてみれば、毒味も無しに食ってしまった。

シルクからの手紙が入っているから、問題ないかと……





「ただのタンポポ入りのクッキーです。ですから無害ですわ」

「は? タンポポ?」

「えぇ」

メイドのルナは、クッキーの入った小箱を俺へと戻すとそう断言した。


「食えるのか?」

「花も葉も茎も食べられますよ。民間薬……つまり、薬として利用もされているぐらいなので。これは茎を乾燥させ煎られたたモノが入っています」

「なるほどな。薬草だったのか」

道端に生えている雑草としか思っていなかったので、食用として利用出来る上に、薬にもなるとは知らなかった。

もしかしたらシルクは俺にいつまでも健康で居て欲しいという願いから、作ったのかもしれない。


――あいつ、離れていても俺の身を案じているのか。


今すぐ抱きしめてやりたい。

あぁ、距離がもどかしい。

なんて愛おしいんだ!


「それより、そのクッキー誰に頂いたのですか? シルク様以外の食べているなんて珍しいですね」

「は? これはシルクからだぞ」

「……何をおっしゃっているのですか? シルク様のは、つい先ほど預かったばかりですよ」

「じゃあこれ誰からのだよ!? シルクからの手紙も届いているぞ! そっちが偽物じゃないか!」

「いいえ。ラズリ様が直接メイド室へとお届けに来られましたので。なんでもシルク様が手が離せない状況らしく、代わりにと」

「……今、誰って言った?」

聞いてはいけない名前が耳に入ってきたため、俺は固まった。


「えぇ。ですからラズリ様と。お忘れですか? シルク様の弟君でございます」

「覚えている! そもそもあれをどうやったら忘れるんだよ!? 強烈すぎるあのシスコンを! 俺だって忘れたいよ!」

嫌な予感はしていたんだ。

あのシスコンがこのイベントに手を出さないなんて、そもそも可笑しいと思っていたんだよなぁ。


「まさか、このチョコクッキーあいつの手作り……」

背筋がぞくっとした。下手な怪談よりもこっちの方が怖い。


「おい。本当に毒は入ってないんだな? あいつなら、確実に俺を仕留めるぞ。しかも絶対にバレないようにして」

「えぇ。特別可笑しげな物は入ってないかと思いますわ。それにラズリ様ならば、シルク様に罪が被ってしまうような真似はなさりません。やるならば、事故に見せかけてでしょう」

「だよな……」

呟きながらクッキーを見るが、さっぱりあいつの考えている事がわからない。

いや、考えるだけ無駄な事。

あの重度のシスコンの思考回路なんて、そうそう普通の人間が理解出来るはずがないのだからな。


「あぁ、そうだ。ついでにこれも見てくれ。なんだか、柑橘系の匂いがするんだ」

そう言いながら俺が差し出したのは、あの便箋。

真っ白で何も書いてないように見える。

それを受け取ったルナは、心当たりがあったらしく、「あぁ」と呟いた。


「リクイヤード様。これ、たぶんあぶり出しですよ」

「あぶり出し?」

「えぇ。ちょっと待って下さい」

ルナはそう告げると、暖炉の方へ向かって足を進める。

そしてその紙を爆ぜている火へと近づけると、こちらへそれを差し出してきた。

先どまで何も書いてなかった便箋には、茶色っぽい文字が記されている。

それはシルクの筆跡と違っていた。


『49位さんへ。姉上からだと思いましたね? 残念でした。姉上の字に似せて僕が書きました。やはり貴方の姉上に対する愛は生ぬるい。どうせ貴方の事ですから、気づかずにこのクッキー喜んで食べた事でしょう。姉上の手作りチョコマフィンより先に。あぁ、貴方の悔しそうな顔が目に浮かびます。本当はタンポポではなく、トリカブトにしようとしましたがやめました。今、凄く気分がいいので』


「あのシスコンめ! トリカブトは毒だろうが!」

それを見て俺が叫んだのは言うまでもない。


「というか、字が似すぎじゃないか? シルクの筆跡と一緒だぞ。シスコンすげぇな」

もはやその芸当が、キモイを通り越して尊敬する。

この特技を俺も持ちたい。そうすれば、シルクと文通している気分がいつでも味わえるからな。


「だが、49位ってなんだ?」

小首を傾げながら疑問を口に出せば、「あっ」というスウイの漏れた声が耳に届く。

そして「あ~あ」という、ルナの声も。


「なんだ、お前ら。何か知っているのか?」

「やはり読んでないのですね……メイジア新聞を」

「メイジア? あぁ、経済専門の新聞か。まだ読んでないな」

するとスウイは俯き、ルナは背を向け扉へと向かい始めてしまう。


なんだよ、一体……




「ふざけんなよ! なんであのシスコンが1位で、俺が49位なんだ!」

手にしていた新聞をビリビリに破れば、はらはらと花びらのように床へと舞い落ちていく。


「ちょっとー。まだ読んでないんだから、破かないでよ」

親父――バルト国王は、眉を顰めて地面へ落ちたそれを広い上げれば嘆息を一つ漏らす。

そしてゆっくりとソファへと足を進めると、俺に座るように促した。


俺はつい先ほど国王執務室へとやってきた。

ここならば全ての新聞が閲覧出来ると踏んだからだ。

案の定メイジア新聞もありそれを読めば、すぐにわかった。

『世界に影響力を持つ王子50』という見出しで、でかでかと一面にあのシスコンの写真とインタビュー記事が書かれていたから。


「いいじゃないか。この世に王子はどれぐらいいると思っているんだい? その中の49位に入れたんだよ? たいしたもんじゃないか」

「あの鬼畜腹黒シスコンが1位じゃなかったらな!!」

「別に張り合う事なんてないじゃないか。1位と言っても、別に何も変わらないよ。僕も昔ランキング勝手に入っていたからね。あぁ、そうなのかという感じだよ。自分のペースで頑張っていけばいいんだ」

「張り合ってねーよ! 納得できないだけだ! というか、親父は1位だったのか!」

「あー。まぁ、なんていうか五年連続だったかな。国王になってから、王子じゃなくなったから」

「やっぱりこのランキング適当か?」

「それ、どういう意味?」

そもそも基準が不明なんだよな、このランキング。

だが、敗北感が……なぜあのシスコンに負けるんだ。こんなに大差を付けられ……


「あーっ! もういい! シルクのマフィン食べて癒されてくる。ホワイトデーにリベンジするぞ。というわけで、その辺り俺はハイヤードへ向かうから。精霊祭も終わって、疲れているシルクを俺の愛で労ってくる」

「構わないよ。ただ事前にスケジュールだけは提出してくれ。調整入れないとならないだろうからね」

「あぁ」

俺は頷いた。


――よし! ホワイトデーこそは、あのシスコンに邪魔されずにシルクといちゃつくぞ!


と意気込み、俺は執務室を出た。





☆おまけ☆


バーズ(シルク父)「ちょっとなんなの! なんでラズリが1位なわけ!? 誤植! これ誤植っ!」

フォード(シド父)「落ち着いて下さいませ! この世に王子の数はどれほどいらっしゃるとお思いにっているのですか? 大変素晴らしい事ではありませんか」

バーズ「何処が!? わしだって、このランキング昔やられたよ。でも、このわしとて最高48位だったのに、なんでラズリは1位なわけぇ? しかも三年連続。可笑しくない? あんなに腹黒なのに」

フォード「あぁ、自分を越されたのに納得いかないんですか……ほら、リクイヤード様もランクインしてますよ」

バーズ「はぁ!? 48位以上とかじゃないよね!? さすがに越えられると花嫁シルク父としての威厳が……! なんだ。49位か。ギリギリでランクインではないか。ふん。まだまだ青い若造だのぅ。49位なんてわしにまだまだ追いつけないではないか」









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