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番外編 悪いけれども  後編

「――リノア!! ロイ、カシノ、シド、ハイネ!!」

「おや、この怒号は……」

急に耳に届いた懐かし声に、思わずバルトの隣の窓を開けその姿を確認する。


その響かせた主の姿を確かめるために視線を少し左へずらすと、想像通り校長のランス先生が仁王立ちになっていた。

顔を真っ赤にさせ、頭から湯気がでそうだが大丈夫なのか?


ワイシャツに蝶ネクタイ。

その上にベストを羽織り、下はズボンと革靴いう格好はあの頃と変わらない。

ただ月日が経って変わったのは、トレードマークのオールドバックが白髪に変わり、裸眼が丸眼鏡に変わったりと年月により多少の変化はある。


「お前達、今度は海賊退治に行ったのか!? たった今ヴィ小国から使者が来て、陛下の感謝状と寄付金を置いて言ったぞ!! お前達は、少しは大人しくしている事が出来ないのか!!」

生徒達は先生の姿を見ると一目散に蜘蛛の子を散らすように逃げ出して行く。

それを先生が全力疾走でおいかけて行った。


……しかし、校長先生お若いですね。

俺らの担任だったので、結構お年がいっているはずなのに。


「いいなぁ~。わしも一緒にかけっこがしたいのぅ」

「あれの何処が掛けっこなんだい? どう見ても悪い事して怒られている図だろ」

「悪い事じゃと? わしの愛娘を侮辱するのか!?――……って、あれバルト?」

目をぱちくりとさせ小首を傾げながらバーズは、俺を見ていた。





「――というわけじゃ」

「じゃあ、シルクちゃん幽閉を解かれていたんだね?」

やっと俺に気付いたバーズと共に、ソファに座りながらお茶を片手に会話をしている。

内容はこれまでのシルクちゃんの境遇についてだ。


「そうなんじゃが、まだ完全ではない。卒業してハイヤードに戻って来ても、シルクの命が狙われる可能性が高いんだ。現に神官側の連中から嘆願書が届いておる。わしの可愛い娘をみすみす傷つけるわけにはいかん。もう、あんな思いなど二度としたくはないんじゃ……」

バルトは両手を合わせ貝のように組み、そこの額をくっつけ顔を歪めた。

シルクちゃんにとってもだが、彼女の家族にとっても二度と味わいたくない出来ごとだろう。

あの出来ごとの後、シルクちゃんは一時口がきけない状況だったそうだ。

無理もない。

まだ幼き心には深すぎる傷をおったのだから。


「バルト。わしはシルクに笑っていられる場所を与えてあげたいんじゃ。そんなことぐらいで、罪滅ぼしにもならないかもしれないが……」

「罪滅ぼしなんて、バーズが悪いわけじゃないだろ。あの頃は幽閉しなければ、シルクちゃんの命は無かったじゃないか」

「それでも幽閉を決めたのはわしだ。それに、あの子に会うのが辛くなってしまって、だんだん足が遠のいてしまった。そのせいで、シルクを余計追い詰めてしまったんじゃよ……だから、わしはシルクには出来る限りの事をしてあげたい」

「バーズ……」

その気持ちは痛いほどわかる。

俺にも息子と娘がいるから――


「せめて問題が解決出来るまで安心出来る場所があれば……」

「なぁ、それなら俺の元はどうだい? ギルア(うち)ならもし仮に見つかったとしても、奴らやすやすと手出しは出来ないはずだ。あの元老院がある。そうだな、その上リクイヤードと婚姻を結びシルクちゃんをギルアの王族へと入るというのはどうだい?」

気づいたらすらすらとした願望を言葉として発していた。

無論、困っている親友を助けたいのが第一だ。



「わし、まだシルクを嫁に出すつもりはないぞ。それに、もし仮にシルクを嫁がせるなら国内で手元に置くつもりじゃ。最有力候補は、シドだ。あやつにならシルクを任せられるし、あのシスコン鬼畜王子も同意しておる」

「大丈夫。偽装結婚というやつだよ。籍だけ入れて、シルクちゃんの件が解決したら離縁すればいいんだ」

「そんなわしにだけ好都合な事が……だが、たしかにそれなら……いや、駄目じゃ。お主に迷惑をかけるわけにはいかぬ」

「何言ってんだ、バーズ。俺達は親友だろ?気にするな」

その言葉に嘘偽りはないし、彼の助けになりたいという気持ちにも嘘偽りはない。

ただ、こっちはこっちでちょっと案があるのでそれを進めたいというだけだ。


「だが、リクイヤード君の気持ちも聞いてみないとならぬのでは?」

「あぁ、大丈夫。うちはハイヤードと違って一夫多妻制だから。一人や二人の側室どうってことないよ。なんなら、リクイヤードが断ったら俺が――」

「それは断る」

なんでそうあっさりと言うかな。

結構これでも女性の扱いには慣れているんだけど。


それにさすがに親友の娘には手を出さないよ。

出来るなら、うちの義娘にと考えているのだからね。

楽しみだな。シルクちゃんに『義父様』と呼ばれるの。


「大丈夫。リクイヤードは断らないよ」

それは確信めいたものというより、俺の願望に近い物。

その望んだ結末に向かうように、こちらもある程度は仕組むが。


「……だがな、バルトよ。こいう事言いたくないんじゃが、リクイヤードくんはお主とそっくりじゃ。

だからその……手出されると困るんじゃ。うちの子、わしに似てかなり容姿が整っていて、すごくすごくすごーく可愛いから心配なんじゃ」

「あぁ。それなら問題ないよ。リクイヤードは恋愛に関してドライだから、割り切った相手としか付き合ってないからね。それにシルクちゃんの方が相手にしなそうじゃないかい?」

そう言ってにっこりとほほ笑むと、バーズはほっと息を吐いた。


忘れたのかい、バーズ。

アカデミーの頃、「そういうバルトの微笑みは、何か企んでいる時だから嫌だ」という台詞を何度も口にした事を。


「済まぬ、バルト。この礼は必ず」

「礼だなんて、そんな事言わないでくれ」

「バルト……」

「安心して預けて欲しい。シルクちゃんはうちで大切にするよ」

うちの息子の嫁として。という言葉を胸の中で呟き、深々と頭を下げるバーズに対し、そっとバーズの肩に手を置いた。




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