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第八十四幕 敵襲

真夜中だというのに、騒然とした城内。

慌ただしく駆け巡る騎士や役人達や、緊急の会議を開くために忙しなく動き回るメイド達によりかき回されている。

そのため普段ならこの時間は薄暗いはずの廊下も、今は燭台により煌々と火が灯されていた。


「姫様。お体の方は如何ですか?」

「えぇ、大丈夫」

私は後方にいる護衛の騎士を振り向く事無く、長い廊下に敷かれた赤い絨毯の上を歩いていく。

本当はこの敷物にすぐに横になりたいぐらいに具合は最悪だ。

頭痛のためか、吐き気がする。


落ちた精霊・イザラの結界がまた壊された。

精霊の居ない私はこの間のようにそれによる歪みがダイレクトに体に襲い掛かってしまっている。

しかも結界崩壊以外に、二ケア村にも火が放たれたという事件が起こっていた。


そのため先ほど結界修復にバーズ様が。

そして二ケア村にはラズリが先ほど向かったばかり。

双方とも騎士を数名引き連れていった。


ラピス様は大臣を集合させ会議、ユリシアは神殿にてラズリやみんなの無事を祈っている。

そんな中で私だけじっとしているわけにはいかない――


「姫様。顔色が優れません。部屋にてお休み下さい」

「平気」

「姫様!」

突然腕を掴まれた上に体調不良もあって、私の体は地面へと崩れ落ちていく。

毛足の長い絨毯が誘惑する。このまま横になればと。


「ほら、これぐらいで倒れられてしまうんですよ? じっとしていられない気持ちはわかりますよ。これは明らかに作為的ですから。それにラズリ様やバーズ様、それに騎士達も心配なのは俺達も一緒です。

ですから、そんな時こそちゃんとお休み下さいませ。その調子ではいざいという時に逃げる

事も戦う事も出来ません」

その言葉に私は雷に撃たれたように衝撃を受けた。

なんて自分は足手纏いなんだろうって。

あの頃と違って剣を扱えるようになっても、今の私では完全に百パーセントの力は発揮できない。

正直、体を横にしたい。


――今は体を整える方が大切なのかもしれないわね。


「寝室にてお休みを」

騎士は私を抱き上げ、そう口にした。

自分で歩けると言いたい所だけれども、結構ガタがきているらしい。

腕を持ち上げる事すらできなくなってしまっている。


「……わかった」

そう告げれば、騎士はやっと安堵の表情を浮かべた。




「後でメイドにお茶をもって来させますね」

「……うん。ありがとう」

私は私室のベッドに横になりながら、運んでくれた騎士にお礼を告げた。

彼はただ微笑み、深く腰を折るとすぐに退出。

部屋に残されたのは、私だけだ。


眠りやすいように部屋には、開けられたカーテンからこぼれ落ちる月明かりだけ。

ただ城の周りにはかがり火がたかれてるためか、真っ暗ではない。

先ほど遠くに見えたオレンジの炎は今は見えないから、恐らく消火が済んだのだろう。


少し体を横にさせるだけでも大分違うわ。

体が楽だけど、早く回復してくれるといいな。

このままだったら、戦えない。

マギアと添い寝するような形を取っているけど、万全の戦闘は不可能だから。


だから外の護衛騎士達任せだ。

騎士達もバーズ様やラズリが数人ずつ連れて行ったし、城内の警護もあるため私に割ける人員は限られていた。

そのため今は二人で警護をして貰っている。

いつもより少ないけれど、この状況ではしょうがない。

シドが居てくれればいいんだけど、今は数日前に国境沿いで発生した山賊討伐に出て留守。

だからちょっとだけ心細い。


「出来すぎているのよね……」

シドの不在の中で起こった二つの出来事。

これを奇妙に思わないはずがない。

明らかに意図的だろう。


「――狙いは私か」

ぽつりと呟いた言葉が虚しく響く。

あれだけ神殿側が大人しかったのも、今では頷ける。

もういっその事神殿に出向いて全て捕縛したい。でも動けない。

私を毒殺しようとした犯人は全員捕まっているが、決して神殿との関係を告げなかった。

だから神殿側の連中は野放しのまま。


……何か決定的な証拠があれば別だけど。


はぁと短い嘆息を漏らせば、何やら廊下が騒がしい事に気づく。


「なに……?」

一体何があったのだろうと、体を起こしマギアへと手を伸ばした。

そして扉の方へと向かえば、何やら騎士の尋問するときのような責める声が扉越しに耳に届く。


「君は誰? 見たことないけれど」

「新人です。言われた通り、姫様へお茶をお持ち致しました」

「たしかにお茶は頼んだけれど、それは君にじゃないよ」

「今このように皆混乱している状況ですので、私がいつもの方の代わりに参りました」

「そんなはずないね。姫に接するメイドも侍女も全てラズリ様が選ばれた者だけ。

他の者がすべき事ではない。仮に人で不足だろうが、顔も知らない新人を寄越すなんてしないはずだ」

取っ手を握り締めたまま、私は凍り付いた。

外で起こっている事もそうだけれど、メイドの声が知っている人のだったから。

しかもここに居るはずがない人物の。


どうして? あの人が……――


確認のためゆっくりとドアノブを引き、廊下と室内を遮る板を無くそうとした時だった。

ガシャンと左側から窓ガラスが砕ける音が聞こえ、私は反射的に鞘から剣を抜き構えた。


「……やっぱり私なんだね」

原因となった三人のフードを被った男達が月明かりに注がれ、姿を現し始める。

もうすでに隠す気は無いらしい。

そいつらは身軽になるために上に羽織っていた衣を取れば、必然的に顔が見えてしまう。

全員神殿で見たことがある、上位神官ばかり。


「お久しぶりですね。シルク姫。貴方の体を戴きに参りました」

「悪いけど、この体傷つけないってリクと約束したの。だから諦めてくれないかしら?

いい加減に何年もしつこい」

「それは無理な願い。貴方様の体は落ちた精霊の器となるのですから」

「器……?」

そう言えば、神殿で書籍を探している時に聞いたわね。イザラは人間の遺体に憑依すると。


まさか――


「貴方の体はハイヤードの王族特有である精霊の加護を受けているから、他の人間よりも器が適しているんですよ。ラズリ様達ですと契約精霊がいるため難しいんです。貴方は幸運な事に契約している守護精霊がいない。つまりは、イザラ様のために生まれてきた器なんですよ」

「勝手な……!」

思わず顔が歪む。


「私達も慈悲深い。ですから、今まで見逃してあげていたでしょう」

おそらくこいつらが言っているのは、アカデミーの事だろう。

どうして私の人生がこいつらの物にならなければならないわけ?

冗談じゃないわ。


「姫様っ!」

中の騒ぎに気づいたのか、騎士達が扉をぶち破って入って来た。

こちらの様子を目視で確認し、彼らは目を大きく見開くと「やはりお前らの仕業か!」と唸りをあげた。


「王族に対する反逆行為として捕縛する」

「出来るものならやればいい。だが、弱り切った姫を守りきりながら我らの相手など出来るのか?

それに――」

神官達は私達の後方へと視線を向けたので、その視線を追うように振り返れば最悪の状況だった。


「リサさん……!」

腰元を神官服姿の男に押さえられ、首には刃物を突きつけられている。

ギルアでメイドをしていた頃、後輩だったリサさん。

やはりあの声は彼女のものだったようだ。


「助けて……っ!」

泣き叫ぶリサさんに、心が抉られた。

恐怖で歪む顔に、震えている小さい体。


「姫様。あの女は知り合いですか?」

「うん。ギルアでちょっと……」

「ですが……」

「わかっているわ」

彼女もまた何かしら腹に抱えているという事を。

メイドとして侵入するなんて、もしかしたら内部に手引きする者が居たのか――


「話が違うわ! どうして私が殺されなければならないの!? 王子をたぶらかした汚い

銀の悪魔の方でしょ!?」

「我らはあの方さえ蘇ればどうでも良い。使えるものは使う。使えぬものは捨てる」

神官の言葉にリサさんの拒絶は大きくなった。


「さぁ、姫とその騎士達よ。この娘を助けて欲しくばその剣を捨てよ」

「――っ」

リサさんは敵かもしれない。

でも傷付けたくない。どうしよう……――


「やはりこの娘程度では駄目ですね。人質の価値がないようだ」

「がはっ」

まるでゴミでも捨てるように、神官はリサさんを床に放り投げた。

リサさんは拘束を解かれたが、背中を打ち付けたため急き込んでいる。

私は慌てて鈍い体を引きずり彼女を元へと向かうと抱き起した。


「大丈夫!?」

急き込み涙ぐむ彼女の背を私は撫でた。

倒れている者が知り合いならば、誰だってそうしただろう。

それは体に染みついた性質だったと思う。

だから気づかなかったんだ。


「シルク! そいつから離れなさい!」

と突然割って入った第三者の声。

それに反応仕掛けた時、脇腹に熱い痛みが走った。




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