第七幕 牢獄の中
どうやって逃げ出そうかなぁ。
私はパンをちぎりながら、ここから脱獄する方法をなんとか探し出そうとあれこれ思考を巡らせていた。
いやあ参った。参った。
まさか、あの子がこの国の第二王子だなんてね。
私は王子誘拐未遂で掴まってしまい、ただいま地下牢屋生活一週間目。
オリンズ王子も違うって言ってるのに、駆けつけた女官が「この人が王子をさらったんです!!」とのたまったせいで、一躍犯人に仕立てられてしまった。
ちゃんと「濡れ衣です!」って言っているのに、あの騎士達がなかなか信じてくれなくて、結局私はここへ放り込まれてしまった。
絶対、あの王子の事見てなかったわよね。
責任逃れしたくて、私に罪押し付けたわ。絶対……
まぁあのまま騎士と戦ってもよかったんだけど、街中だったから他の人に迷惑かけちゃうから大人しく掴まった。
アカデミーの時に結構いろんな騒動に巻き込まれたから、牢屋生活も別に問題なくやっていけるし。
それに牢屋暮らしの方が『あの時』よりは天国にも思える。
ランプはあるし、食事には毒も入ってないもんね。
……ん?
食事を続けていると、何か音が近づいてくるのが聞こえた。
どうやら、それは足音と話声らしい。
看守かなぁ?
走っているのか、足音が激しいように感じる。
さしあたって自分には関係ないと思い、残りの食事に手を付けようとした時だった。ガシャンという柵を握る音が聞こえてきたのは。
「……本当に居た」
男は柵を握りながら、中にいる私を目を大きく見開いて凝視していた。
その男はかなりガタイが良く、年齢はバーズ様とそう変わらなそうだ。
顔立ちも男らしく、お腹もうちのバース様のようにたるんでない。
バーズ様もお菓子ばっかり食べてないで、少しは運動すればこういう体になると思うんだけどなぁ。
「あなた誰?」
私が声をかえた男は貴族なのかよくわからないが、身なりの良さからかなり上の人物だと言う事が推測できる。
「それは後だ。それよりまずここから出よう。君をこのままここに置いておくわけにはいかない」
出してくれるなら、ありがたいけど。
でも、誰? と首を傾げていると、その答えはバタバタと走ってきた看守が答えを教えてくれた。
「国王様! 一体どうなさったんですか!?」
へ~。ギルアの国王様ってこの人なんだ~。
この世界はおおざっぱに分けると、三つの勢力に分かれている。
精霊信仰のディル派。魔力を持つジル派。そして、その二つ以外のガル派。
ギルアはガル派の最大勢力で、膨大な国土を誇る大国だ。
「早く、この子を出してあげるんだ」
「は、はい」
看守は鍵の束からここの牢の鍵を見つけると、鍵穴に刺しここを開けてくれた。
*
*
*
「驚いたよ。諸事情で国外に出てたんだが、オリンズの誘拐事件の話で急遽戻ってきたんだ。その上犯人が銀色の髪の少女と言うじゃないか。銀色の髪なんてそうそういない。まさかと思ったら、本当にシルクちゃんだなんて!」
対面するように座っている、私を助けてくれた中年の男性。
彼は、この国の国王・バルト様。
どうやらうちのバーズ様とはアカデミー時代からの親友だそう。
そのため私の事も知っていたらしく、話を聞いた時は青ざめたらしい。
……まぁ、一応私も姫なので。他国間の火種になる可能性もあるしね。
「さあ、遠慮せずにお菓子と紅茶飲んで」
「ありがとうございます」
カップに口をつけると、林檎の良い香りが鼻腔をくすぐった。
アップルティーか。
「あの。私、誘拐の犯人じゃないです。偶然街中であっただけで……」
「もちろん、シルクちゃんがそんな事するわけないっていうのはわかってるよ。それにオリンズが城を抜け出すのは、なにもこれが初めてじゃないんだ」
「はぁ……」
じゃあ、何か対策打てばいいじゃんか思うのは私だけ?
「それで相談なんだけど、シルクちゃんに頼みがあるんだ」
「なんですか?」
「うちでメイドやってくれないかな? もちろん、お給料は支払うよ。この城、メイドが辞めるの多くて人手不足で困ってるんだ。しばらくの間、代わりのメイドが見付かるまでうちで働いてくれないかい? アカデミーでメイド科にいたシルクちゃんなら、出来る内容の仕事だとは思うんだけど……」
メイドかぁ。どうしようかな。
ハイヤードに帰るにも馬車代とかいるし、ある程度お金稼いでた方がいいかも。
「あの。お引き受けする代わりに条件というか、私の名前とか家の事とか秘密にして貰っていいですか?」
身分がバレてやりにくいのは、嫌だ。
でもそれ以上に嫌なのが、ディル派の奴らにバレてしまう事。
あいつら、私の事目の敵にして殺したがっているから。
「それはもちろんだよ。バーズにはこちらから、連絡を入れよう。一つ先に言っておくけど、ギルアはガル派だから大丈夫だと思うけど念のために外出時には護衛をつけさせるね」
「はい」
「じゃあ、今日はもう休んで貰って明日からお願いするね。そうだ。服と部屋を用意させよう」
バルト様は、鈴でメイドを呼ぶと指示した。