序章
ハイヤード公国 国王バーズ様
『銀の悪魔』の処遇について。
この世のものとは思えない美しさとしなやかな白い肢体で災いを運び、白夜よりも輝くプラチナの髪は闇すらも魅了し配下とさせる。
彼女の薄い淡い薔薇の色の唇で告げるのはただ破滅の言葉のみ。
その宣告を受けし国は一夜にして滅びるだろう。
精霊の加護を受けし唯一の国ハイヤード公国で、精霊王の祝福を受けぬ悪魔の子。
ハイヤード家の呪われし姫君 シルク=ハイヤード
もうすぐその者がハイヤード公国、精霊王の国に舞い戻ってくる。
その状況はハイヤード公国にも、ディル派同盟国にもよき事ではない。
故に我々は再び幽閉もしくは、処刑するべき事が妥当であると考える。
その日は一刻も早い日であることを望む。
さもなくばウラナ国の二の舞いになるであろう。
精霊王に愛されし姫の眠るラステナ神殿 司祭一同
「――下らない。何もかもまた姉上のせいか。ウラナが滅んだのは、自国の王の責任だろ」
青年はそう吐き捨てると窓を開け放った。
「もしもう一度あいつらがあの時のような行動に出るのなら、その時は必ず葬り去ってやる」
開け放たれた窓から流れてくる風により、ハニーゴールドの髪が揺れ動く。
彼の琥珀色の瞳には、活気あふれる城下が広がっていた。
「フレイ」
『はい、ラズリ様』
視線はそのまま街並みを見渡したまま、誰かの名を呼んだ。
すると青年の背後に火の塊が現れたかと思うと、それはだんだんと人の形になり赤い髪の女へと姿を変えた。
彼がさっきまで読んでいた紙から手を放せば、それはゆっくりと風に乗って窓の下へと舞い落ちていく。花びらのように。
「燃やせ。灰すらも残らないように」
『畏まりました』
女が小言で何か言うと紙が自然と燃え上がり跡形も無く消えてしまった。
「いっそアレも燃やすか」
『ラズリ様……』
青年が視線でさしたのは、城からちょうど右側にある山の麓に建っている神殿。
クリスタルで出来ているのか、湖が光によって反射するように煌めいている。
「つまらない風習のせいで……僕たち家族が……姉上が……」
言葉にする事の出来ない思いに、ただ唇を噛み締めている。
「姉上に害をなす者は誰であろうと僕が許さない」
もうあの時のように何も出来なかった子供ではないのだから――