第一話「女の子の体」
――薄暗い中、仰向けの状態で少女は高さ5メートルはあろう天井を朦朧とした瞳で見つめていた。
ぼやけていた視界は徐々にはっきりとした形を映し出し、石を掘られて装飾されたであろう古びた天井を見ていたことに気づく。
(何処だここは・・)
そこは全く見覚えのない場所だった。
酒でも飲んでまた変なところで眠ってしまったかと直前の記憶を呼び起こそうとするが、ふと地面に浮かび上がる光る文字のようなものを目にし辺りを見回す。
(魔法・・陣?)
そう魔法陣だ。
アニメやゲームで見てきた魔法陣そのものが地面に描かれ、そこの中心に寝ていたのだ。そしてその光は今にも消えそうなほど弱弱しくゆっくりと点滅を繰り返している。
(何かのドッキリか?)
(いや、待て。こんなドッキリ一般レベルで出来るわけがない。)
(夢・・の中か?)
そう夢の中だ。
夢の中であればこの状況とも辻褄が合う。
そうとなれば話は簡単だ。いつも夢の中にいるとわかった時点で自力で夢から目覚める方法を知っているからだ。他の人も出来るのかは分からないが一応特技と自負している一つである。
混乱する状況にいた少女はうむを言わさずこの夢から出ようと目を瞑り体に力を入れる。
「ふぬっ!」
・・・
「ふぬっ!」
・・・
「あれ?」
おかしい。いつもならこの方法で夢から覚めるはずなのに何も変化が起きない。困惑した様子の少女は、ふと自分の体に違和感を感じ恐る恐る目を下の方に向ける。
「なっ?!・・・おっぱい?」
そう、おっぱいだ。服の隙間から谷間が見え大きく膨れているのだ。
(どういうことだ?!)
少女は自分の大きな胸を見て気が動転する。正確に言うと大きな胸を見て動転した訳ではない。女性しか持ち得ない膨らんだ胸が自分に付いていることに動転したのだ。それもそのはず少女は男としてこの世に生を受け真人<マナト>という名前を親からもらい、26年間ずっと男の体で生きてきたからである。
(やっぱりここは夢の世界か?)
(だが夢から覚めようとしても覚めれないし、意識も夢の中とは思えないくらいはっきりしている。)
(だとすればここは現実なのでは?)
(現実・・ならこの胸についているおっぱいは?)
(・・・やっぱり夢だろ。)
マナトは眉間にシワを寄せここが現実なのか夢なのか思考するがループにハマる。
夢から覚めない→ここは現実→現実なのに自分の胸に女の子のおっぱいが二つ→夢→けど夢から覚めない→ここは現実→現実なのに自分の胸に女の子のおっぱいが二つ→夢→けど夢から覚めない→ここは現実→現実なのに自分の胸に女の子のおっぱいが二つ→おっぱいを触りたい
≪≪≪おっぱいを触りたい≫≫≫
頭の中が混乱したのも束の間、男の本能が急に沸いて出てきた。
そして静まりかえった中、辺りを見回し誰もいないのを確認すると自分の胸に手を差し伸べる。
「や、やわらかい・・」
これはおっぱいだ。
正真正銘、女の子のおっぱいだ。
手に収まりきらないE~Fカップはあろう大きな胸が自分に付いているのである。
そして無我夢中でおっぱいを揉むこと1分、2分・・いや3分は経過したであろうか、そこでようやく体の変化は胸だけに止まらず手、腕、体全体に及んでいることに気づく。
「なっ!?」
「女の子の体になってる・・」
ここで事の重大さに気づく。
仮にもしここが現実世界だとしたら知らない場所へ連れ去られ性別を変えられてしまったことに。
そこであらゆる可能性を思考する。
(何処かの国の工作員に拉致されて人体実験されたのか?いや、そしたらこの魔法陣のような光景は・・?まるでFFのゲームのような・・もしかしたら最新のゲームでリアルに中に入れるとか・・けどそんな技術無理だろ、聞いたことないし可能でも数百年後だろ・・だとしたら、、)
「あっ!」
そこで前に読んだ小説を思い出す。
内容は異世界へ召喚や転生された話だ。
(あのファンタジーと今の状況が一番近いが、召喚されたのだとしたら女の子の体になってるもはおかしいし、転生だとしたらこんな胸が成熟した女の子にいきなり育ってるはずがない。それにそもそもあれはファンタジーだ。)
・・・
考えても埒があかないことに気づき、置かれている状況を事細かく知る為に建物の外に出ようと歩き出す。
扉を開ると奥の方から外の光が差し込めていた。
そして出口を出て眩しい光に目が慣れ眼下に広がる光景を目の当たりにし息を飲む。
見渡す限りの森、森、森。
(何処だここは!!)
そう、森の中に崩れかけた神殿らしき建物がポツンとあり、その中に居たのだ。
マナトは途方に暮れ力なく膝から崩れ落ちる。
こんな場所に一人取り残され、帰る方向もわからず、今後どう生きていけばいいというのだ。
途端にホームシックに襲われ涙目になった時であった。
森の中から何か白いものが見えたのだ。
すぐに涙で滲む目を擦り、凝視する。
(煙?)
その白いものが煙だと判明するや否やすぐに神殿の階段を下り、煙の方向へとひた走る。
(誰かいるかもしれない!)
それはすぐに確信へと変わる。
走ること数十秒、小屋らしき建物が見えてきたのだ。
神殿から見えた煙はその小屋の煙突からあがっており、外には薪が積まれていた。
マナトは小屋の玄関に着くなり思い切り扉を叩く。
ダンダンダンッ!ダンダンダンッ!
「すみません!どなたか居ませんか?」
・・・
中からは何も反応がない。
ダンダンダンッ!ダンダンダンッ!
「すみません!どなたか居ませんか?」
・・・
(誰もいないのか?)
マナトは徐に扉のノブに手を掛ける。
(鍵が開いてる・・)
そして恐る恐る扉を開け中の様子を伺うと・・小屋の中は静まり返っており、台所には火にかけられた鍋から水蒸気が上がっていた。
(留守・・か)
と思った矢先、背後から誰かに声を掛けられた。
「エマ××?」
振り返るとそこには可愛らしい少女がたたずんでいた。
「エマ×××!××××××?××××!××××!×××××××××××××××!!!」
その少女はマナトの顔を見るなり日本語でも英語でもない言葉を発しつつ満面の笑みで飛びついて抱きしめてきた。
どうやら誰かと間違えているらしい。
そしてその日本語とも英語とも違う言葉をなぜか理解している自分に気づく。
要約するとその少女はマナトのことをエマと呼び、目覚めてここへ来たことを物凄く喜んでいたのだ。
「エマちゃん急に来たからビックリしちゃったよ。20年以上も全く起きないんだもん。けど目覚めたって事は目的果たせたって事だよね?あっ、積もる話はあると思うけどずっと寝てたんだからお腹空いてるよね?すぐご飯の支度にするからちょっとそこの椅子でくつろいで待っててね!」※以後翻訳
少女はそう言うと台所へと行き途中であったであろう料理の続きをし始める。
(なんだ。一体なんなんだ。俺はそのエマとかっていう女の人の体を乗っ取ってるのか?この置かれている状況からして他人の空似って訳じゃないだろうし・・それにそのエマは20年以上もあそこに眠っていたのか?もう訳がわからない。)
そうこうしている内に料理が出来、テーブルへと並べられていく。
「じゃじゃーん、完成!エマちゃんの好物のアレもあるからいっぱい食べてね♪」
「あ、あの・・ぅん、ありがとう」
色々聞きたい事があるが満面の笑みで早く食べてほしそうな顔を見て食事の後に聞くことにした。
「ふぅ~、御馳走様。すごい美味しかったよ」
「ホントに?やったぁ~エマちゃんに褒められちゃった♪」
「あ、ところでさ」
「ん?なになに?」
「目が覚めてから記憶がちょっと混乱してるんだけど、俺・・あ、私って何であの場所で寝てたの?」
「え?何でって魔法の力で異世界に転生してたからでしょ?」
「え?」
「え?」
お互い驚いた顔で見つめ合う。
「エマちゃんもしかして・・覚えてないの?」
気まずそうにマナトは小さく頷く。
「そっかぁ~、起きたてだからちょっと記憶が曖昧になってるのかもね!けどすぐ思い出すよ♪」
少女はそう言うと食器を片付け始める。
(魔法の力で異世界に転生してた)
(魔法の力で異世界に転生してた)
これはマナトが異世界へ転生させられたのではなく、エマが異世界へ転生してたということだ。
(どういうことだ?その魔法とやらで俺がこっちの世界にいるエマの体に転生させられたというならまだ話はわかる。が、俺ではなくエマがここではない世界に転生していたとは・・全く状況が掴めない。少女が嘘を言っている様子はないからエマは異世界に転生したのは本当であろう。だとしたら転生して空になっている体に俺が転生したのか?どうやって?そんなことありえるのか?魔法とやらでエマが転生している以上、俺がエマの体に転生するには同じ魔法が必要ではないのか?)
マナトは少しでも自分が置かれている状況を把握する為に頭をフル回転させ思考する。
「あっ!」
そこでふと以前母親から言われた言葉を思い出す。
「あんた小さい頃、変なことばかり言ってたのよ」
そう、母が言うには自分は女の子でここではない世界から来たと言っていたらしい。
だけど頭を大けがする事故に遭ってから一切その話をすることはなくなったと。
そしてここでようやくエマが転生した話と自分の幼少期の話が結びつき一つの結論に至った。
(エマは魔法の力で俺の母親のお腹の子に転生して新たに生を受けたが、事故で記憶を失いそのままずっと桐谷マナトとして生き何らかの原因で元いた世界に戻ってきたのでは・・)
「ということは俺は元々エマという女の子だったのか・・」
状況を理解し呆然とするマナトに珈琲のような飲み物を差し出し微笑みかける少女が目に映った。
次回、第二話「お風呂」
リゼロを読んだのがきっかけで、自分も書いてみたくなりノリで思いついた設定で書いてみました。今まで小説を書いたことはないので、処女作になります。誤字脱字、語学力の低さ等、至らぬ点が多すぎるとは思いますが、需要があるようであれば続きを書いていきたいと思います。