序章編ー1
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玄関で革靴を履き、晴天の空の下に出ようとする黒髪の少年、ハルト・ディバマリス。
「いってきます」
「いってらっしゃーい」
その返事を聞いた少年は学生鞄を片手に玄関のドアを開けた。
心地よい春風が吹き、スズメの鳴き声を聞くとより春らしさを感じる。
「おはよハルト」
「おはようユズキ」
挨拶をしてきた茶髪でセミロングの彼女は彼の隣に住んでいるユズキ・カゲミガン。
彼と同じく世界でも3本の指に入ると言われる名門校『リクライネイト高等学校』に通う2年生。
「はい、お弁当」
「いつもありがとう」
女の子らしいナフキンに包んである弁当箱を受け取ったハルトは彼女と一緒に学校に向かう。
妹と2人暮らしをしている彼はいつもこうしてユズキに弁当を作ってもらっている。
「今さらだが毎回学校がある度、お弁当を作ってもらって悪い」
「ううん、好きでやってることだから気にしないで」
「料理ができるように努力はしているが、上手くいかない」
「ハルトは本当に料理が苦手だよね。今日の晩ご飯は何がいい?」
「ユズキが作るものなら何でも」
「なら、今日はシチューにしようかな」
「ユズキの料理は美味しいから楽しみだ」
「えへへ、帰りに買い物に付き合ってね」
「あぁ」
昼の弁当だけでなく、ほぼ毎日と言ってもいいくらいユズキに晩ご飯を作ってもらっている。
彼女は母親と2人暮らしだが、母親が仕事で遠くにいることが多く、ほとんど家にいない。
だからハルトの家で過ごすことが多いのだ。
「おっはよーユズキ、ハルト」
「おはよリアン」
「おはようリアン。今日は起きれたんだな」
「ちょっと!あたしが遅刻の常習犯みたいな言い方しないでくれる?!」
彼女の名前はリアン・センレテア。
ユズキと中学1年生の時に知り合ってから現在に至るまで親友と呼べるほどの関係を続けている。
「あら〜?もしかしてハルトは新学期早々愛妻弁当なのかしら?」
「周りに誤解されるようなこと言わないでよ!」
「実はそんなこと思ってないくせに」
「も、もうやめてよリアン!」
「あははは!でもさユズキ…」
リアンはユズキの耳元に顔を近づけ、小声で呟く。
「ハルトは人気だから早くしないと誰かに取られちゃうよ?」
「へ、変なこと言わないで!」
ハルト自身は全く自覚がないが、同じクラスだけでなく、全学年の女子から人気が高い。
ラブレターを渡す者や直接自分の気持ちを伝える者、中には携帯電話でハルトを盗撮し、それを待ち受けにしている者もいるくらい。
「それにしてもあんたたちっていつも一緒にいるわよね。席だって隣同士だし」
「別に離れる理由もないだろ」
「相変わらずバカップルよねー」
「俺とユズキはそんな関係じゃない」
ハルトとユズキは常に一緒にいることから付き合っていると周りに勘違いされることが多い。
しかし、決してそんな関係ではない。
ハルトにはユズキのそばにいなければならないもう1つの理由があるのだ。