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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
最終章 勇者だから、みんなが甘やかすからなんとかします!
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14話 モニカレベル29 ノアレベル211 アルマレベル211 キリカレベル200

 クルミとモニカ達の戦いの始まりは、魔力の竜巻による轟音から始まった。

 ほぼ同タイミングで武器を振り下ろしたモニカ達。彼らはクルミにも匹敵するであろう力を持つイリヤとシルハを打ち破ってきている。本来なら、そんな存在を前にしたことで多少なりとも警戒や萎縮するはずだ。例えそれが、魔王であり勇者であり邪悪を統べる王だとしてもだ。

 そのはずだが、クルミはあまつさえ薄く笑みを見せながら愛した夫の剣を振りながらその場で回転斬りを行う。クルミを中心に円のように軌跡を描きながら振るわれる刃をまともに受けたモニカ達は、カルプルヌスから放たれる魔力の衝撃波に吹き飛ばされる。


 「――きゃぁ」


 悲鳴を上げるモニカをノアはすかさず体で受け止めて壁への衝突から防いだ。そして、クルミにとっては挨拶程度の魔力の衝撃の波に耐えたアルマとキリカは一瞬だけたじろぎはするもののその前進を止めることはない。

 後方にいたキリカはクルミの首元へと刃を走らせ、アルマは足元へと刃を薙ぐ。白の剣と黒の剣が、焼けつくような魔力を剣として振るう。


 「君たちの常識で私を見るな!」


 クルミの瞳が赤くギラリと輝けば、その場からクルミの姿が搔き消えた。

 何らかの魔法かと思いアルマは目を凝らすが、そんなものではないことに気づく。これは単なる、クルミが本来持つ身体能力の結果。迫りくる二つの刃からクルミは、ただ視認できないほどの速度で回避しただけだ。


 「あぶないっ!」


 思わぬ方向から突き飛ばされたアルマは、軽く数メートル後方へと強引に体が移動をする。すぐに自分が立っていた場所を見れば、立ち位置を入れ替わるように現れたキリカがクルミの剣を受け止めているところだった。

 さも楽しそうにクルミは口笛を吹いた。


 「随分と変わったね、キリカちゃん。身を挺して、モニカちゃんでもない誰かを助けるなんて」


 「ボクは勇者であり、モニカの友達だというだけだ! そして、友達の友達もボクの守りたい者なんだ!」


 「へえぇ……。でも、アルマちゃんを助けるためにアンナス・セイバーを片手だけにしたのはまずかったかもよ?」


 瞬間、無理やりな体勢で剣を受け止めていたキリカの右手が弾かれた。懐に潜り込んできたクルミは一切の躊躇なく、下から上に剣を振り上げる。その狙いは、空いた左手へと――。


 「私を忘れるというのも、まずいことだろ?」


 次に弾かれたのはクルミの体だった。カルプルヌスが質量を無視して、剣先がクルミの頭上へと持ち上がる。

 一瞬の隙をついて、飛び込んだノアがクルミの剣を払いのけたのだ。そして、キリカと入れ替わり、ノアは高速の剣技を打ち込む。

 突き、突き、突き、右から、左から、左、左、右、頭、足。今のアルマでさえも目で追うだけでやっとの速度で攻撃を行うノアはその手を止めることはない。ただ、モニカ達の中でも最速のノアのスピードでさえもクルミは確実に剣で受け流す。

 あまりの動きの早さに追いつけない代わりに、規則的なリズムで刃と刃がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。


 「なるほど、これならシルハちゃんだって倒せそうだね」


 「戦闘中にお喋りかっ!」


 「ただ、それはアブソリュート・フォースの恩恵に過ぎない」


 クルミの呟きがノアの耳まで届けば、さらに速度を上げて剣の勢いも増していく。さらには、シルハとの戦闘で見せた瞬間移動を駆使した速攻も組み合わせる。

 本音を言えば、クルミだって今のノアの戦いは正直舌を巻いていた。

 短い間にノアは己の力量を達人レベルまで持ち上げてきた。一部では伝説的な扱いすらあるシルハを倒してきた実力を遺憾なく発揮している。ただそこで見え隠れするのは、やはり経験の甘さ。アブソリュート・フォースが無ければ確実に敗北していた未来も透けて見えてくる。

 剣を交わせば、そこから会話し意思の疎通が取れる。剣士達は口々にそんなことを言い、シルハもそういうことを言っていたのをクルミは戦いの最中だというのに思い出していた。

 ――しかし、それは剣士の話だ。

 圧倒的な力を持った人間からすれば、会話なんて発想は思い浮かぶこともなく、己の掌の上で暴れている相手を眺めるような第三者的な気分に陥る。ノアはシルハとほぼ同等の力のはずが、そこにはクルミを震え上がらせるようなシルハの持っていた威圧感は感じさせない。

 それもそのはずだ、ノアという少女の中身は変わっていないからだ。

 その場から一歩も動くことなくノアの剣をいなすクルミに対して、痺れを切らしたノアが一気に間合いを詰めた。


 「でやああぁぁ――!!!」


 「底が知れているよ、ノアちゃん」


 ノアによる渾身の突きを剣の先で軽く受け流したクルミは、左手に魔力の塊を発生させるとがら空きになったノアの背中にその破壊的な威力を持つ魔力を叩きこんだ。


 「――ぁ!」


 あまりの激痛にまともな悲鳴すら上げることのできないノアは、前のめりに地面に叩き落された。


 「ノアちゃんは、凄い剣士だよ。でも、凄いからこそ、隙も目立つのさ。……シルハちゃんてさ、強い突きをする際に大振りになるから、一度剣先の狙いを足元に定めたように見せてから敵の頭部を狙うんだ。……ノアちゃんもよっぽど熱心にシルハちゃんの剣術を学んでいたんだね。――シルハちゃんと同じ癖まで真似していたよ」


 聞こえているのか意識があるのかどうかさえ分からないノアを見下ろしながらクルミがそう言えば、脇腹の辺りに違和感を感じて振り返る。

 そこには、クルミに剣を突き立てるモニカの姿があった。


 「お母さん……私のことも忘れないでね……」


 肩で大きく不規則なリズムで呼吸をするモニカ。

 クルミはモニカが、悩みに悩んで実行した攻撃だということを容易に察することができた。だが、あまりに大きすぎる気配とうるさいぐらいの足音ではクルミに刃を届かせることはできない。


 「モニカちゃん、よくがんばったわね。がんばりは褒めてあげるから、もうお家に帰りなさい」


 「う……そ……」


 剣はクルミに触れる数センチ直前でピタリと停止していた。モニカも思い切って力を入れてみるが、その刃がクルミを辛くどころか全く動く気配すらない。


 「私はね、時間を操ることができるんだ。さすがに過去や未来を飛ぶような真似はできないけど、対象の時間を止めることができる。その力の名前は、『生命イノチベルコトワリ』……それが勇者としての私の力」


 モニカの立っていた場所から反対方向へと何気なく手を振るクルミ。気配を殺して、接近していたキリカの姿がそこに現れる。モニカと同じように、自分の剣であるアンナス・セイバーを構えているが、静止画のようにピクリとも動く様子はない。その目を剥いたキリカの顔から驚きだけは伝わった。


 「私を前にすれば、命に関わる理を全て停止できる。忘れたかな? モニカちゃんとキリカちゃんの戦いを止めた時もこの力を使ったんだよ。あれもあれでね、結構神経が使ってね、まず魔力の流れを停止して肉体を停止させた。……こんな風に」


 再び腕を振るえば、その手は壁際に立っていたアルマへと向けられた。宙に浮かんだ魔法陣が半円で止まる。それは、魔法陣が完成する前にその時間を止められていたのだ。

 そのままで動きを止められていたアルマの額から流れた汗が顎のところでその流れを止めていた。今、クルミに敵意を向けた人間達の動きは全て止められていた。

 モニカとキリカに挟まれた状態から歩き出したクルミは悠々と語りだす。


 「昔は触れたものしか止めれなかったり、触っている間しか無理だったり、制限時間んとかあったんだけど……今の私にはそんなの関係ない。息を吸うように、近くの存在を停止できる。……こんな力を前にして、まだやるつもり?」


 クルミが指を鳴らせば、モニカとキリカの体勢が崩れ、その場に膝をついた。


 「アルマちゃんはダメだよ。また魔法でも使われたら面倒だし」


 呆然とするモニカとキリカに向き直ったクルミは言葉を続ける。


 「――まだ、やるつもり?」


 キリカの耳にはモニカが生唾を飲み込む音が聞こえた。横にいるモニカは、圧倒的すぎる力の前に思考すら追いついていないようだった。

 頭を振ったキリカは立ち上がる。自分が動かなければ、このままでは心を完全に折られてしまう。それに、今モニカを鼓舞できるのは自分だけだ。半ばやけくそで、キリカはクルミを睨んだ。


 「うん、やるよ」


 「もうモニカちゃんは頑張れそうには見えないけど?」


 「関係ない、憎しみの連鎖は摘むだけだ」


 じっとキリカの顔を見つめたクルミは、深く溜め息を吐いた。


 「……キリカちゃんだって、お母さんが戦う時は協力してくれるって言ったじゃない」


 「……あの頃とは違う。何も知らないボクはいない、ここにいるのは成長し自分で考えるようになったボクだ。……ねえ、今からもうやめるつもりはないの?」


 モニカの気持ちが立ち上がるまでの時間稼ぎという部分がなかったわけではないが、キリカ自身が母の本当の気持ちを知りたいと思っていたのも事実だ。

 縋るような眼差しのキリカを前にクルミは一度目を閉じると、口を開いた。


 「そう簡単にやめられないわ。想像し辛いかもしれないけど、自分の愛した人達がいる世界が愛した人に住み辛い世界だとして、それをどうにかできる力があるなら……きっと人は過ちにだって手を染めることができる」


 「あんなに母さんは優しかったじゃないか! ボクを愛してくれた貴女が、どうして誰かを傷つけようなんて思うんだ!」


 軽く首を横に振ったクルミは、モニカへと顔を向けた。


 「私ね、モニカちゃんの世界の私の気持ちも分かるし見ているものを見ることができる。あっちの私はさ、テレビのニュースで戦争や悲しい事件が起こる度に、世界を変える力が欲しいと思っていた。それはね、愛した貴女とお父さんのいる……モニカちゃんのいる世界を温かなものにしたいからなの」

 

 見覚えのある母のその表情にモニカの手から剣が落ちた。カランカラン、と響く剣の落ちた音にキリカは声を荒げる。


 「モニカ! 早く武器を取らないと!」


 「……無理だよ、相手は私のお母さんでキリカちゃんの……」


 モニカの前に立ったクルミは、モニカの右手をそっと握った。


 「私に勇者の力を、アブソリュート・フォースをちょうだい。すぐに元の世界へと帰してあげるから」


 「元の世界……」


 「ええ、元の世界よ」


 ぼんやりとした顔をしたモニカをクルミは全てを包み込むような笑顔で見返す。

 モニカはこれからのことを考えていた。

 クルミには守りたいものがある。彼女はそれを全力で守ろうとしているだけだ。例えそれが、間違った道だとしても。誰かを愛する気持ちは間違いか、誰かのために頑張るその姿は邪悪か、きっとそれは愚かなことではない。クルミのその姿だって、勇者だ。


 「モニカ……!」


 クルミとの間に入ろうとするキリカだったが、体が動くことはない。幸いにも顔は動くようだが、クルミの力によって首から下を完全に停止されているようだった。

 どうすればいい、どうすればモニカを救うことができる。

 焦り悩み考えるキリカをよそに、モニカの右手を自分の右手で握ったクルミはその中にある勇者の印を奪おうと左手を伸ばしていく。

 焦る気持ちのままにキリカは周囲を見回せば、そこにはモニカの守りたい者達、そしてモニカの戦う意味がそこにはあった。キリカは、力の限り思いつく言葉を叫ぶ。


 「――モニカ!!! 自分にわがままになるんだ! 果てしない未来の世界よりも、今目の前にいる大切な存在が側にいるだろ!? キミの友達がこの世界にいる! 彼らの守りたい者を壊してまで、キミは何を守りたいんだ! 勇者としてじゃない、モニカとしてキミの守りたい未来を選び取れ!!!」


 「――ぁ」


 モニカは息を呑んだ。そして、ほぼ無意識かつ反射的にクルミへと伸ばした右手を引っ込めた。


 微笑を見せたままのクルミは小さく「え」と声を漏らす。


 「モニカパンチ」


 風が吹いた。クルミはそんなことを頭の片隅で考えていた。モニカの拳がクルミへと放たれれば、クルミの体は数メートル後方へと飛んだ。


 「どういうことかな……」


 結果的にはクルミはモニカの拳を受けることはなかった。だが、直接的に体に触れることはなくても魔力を乗せた拳はクルミの体を浮かして吹き飛ばした。それでも彼女からしてみれば、軽く地面を蹴ったようなもの、下手をすれば攻撃とすら認識されない。しかし、それは明確なモニカがクルミを否定した姿だった。


 「ごめん、キリカちゃん……。怒られるまで、大事なことを忘れていたよ」


 モニカは己の右手の甲を高く掲げ、キリカに穏やかな笑みで笑いかけた。


 「……恩返しできたようだね。モニカ、ボクらはキミの友人であり仲間だ。――キミの信じた道を共に歩ませてくれ」


 温かな光がモニカの右手に集まっていく。

 神を信じない者は神を信じるような、奇跡を知らない者が奇跡を願うようになり、祈りは何も変わらないという冷めた者は祈ることで得るものがあることを知る。そんな神聖な光がモニカの右手から強い輝きを放出させる。

 あのクルミでさえ、見たことのない眩しい光を前に黙って見ていることしかできずにいた。


 「もう迷わない、私は私の選んだ道をいくんだ。ダメならダメで、誰かの力を借りる。でも、どれだけダメな私でも、間違った道を選んじゃったら……本当にダメな奴になっちゃう。……それでもきっと私には、正しい道なんてわかんないから、みんなが選んだ道を共に歩いていきたいんだ。これが、一番私に見合った答え。――繋ぐ絆、アブソリュート・フォース」


 そして、右手の輝きが周囲を明るく照らし出した――。

 

 

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