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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
最終章 勇者だから、みんなが甘やかすからなんとかします!
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11話 モニカレベル29 ノアレベル90 アルマレベル92

 キリカの眼帯で隠していた方の瞳が赤く宝石のように輝きだす。それは、魔力の流れている証明であり、魔王の血がその眼をさらに煌かせる。キリカは受け入れいていた。――自分が勇者と魔王の血を持つ存在であることを。

 堂々とした面持ちで現れたキリカには、居場所を探していた頃の幽霊のような雰囲気はない。だからなのだろう、思わずクルミは目の前にいるはずのよく知っている存在に間の抜けたことを聞いていた。


 「本当に、キリカちゃん……?」


 「そうさ、ボクが……――勇者キリカだ」


 勇ましいキリカの一言にクルミは不思議と納得する。変わってしまったキリカの姿を前に、自然と理解ができる。あの日、強大な敵を前にして立ち向かった自分も同じことを言っていた。生き方が変わってしまっても、この子は娘なんだと実感した。

 望んだ形ではなかったとはいえ、自分と重なるようになったキリカを前にクルミは自然とこぼれる笑みに口元を押さえた。


 「助けにきてくれて、ありがとう。キリカちゃん」


 キリカは礼を言うモニカの顔を見れば、満足そうに微笑みを返した。


 「どういたしまして、昔の恩を返せて良かったよ」


 「恩? 何かあったかな……」


 首を傾げるモニカには思い当たるところがない。考えれば考えるほどに、自分はキリカに助けてもらってばかりいる。それだけではない、喧嘩だってしてしまった。ああそれなのに、私は――。


 「ごめんなさい! キリカちゃん! あの時はたくさん叩いたり蹴ったり……本当にごめんなさい!」


 キリカはきょとんとした表情をすると、そういえばモニカという子はこういう子だったということを思い出した。


 「自分の善意は忘れているんだね。……まったく、モニカらしいや」


 表情の変化が大きくなったキリカを嬉しく思いつつ、モニカはおずおずと質問を行う。


 「あのさ……キリカちゃん……。私とキリカちゃんのことを知ってる?」


 最初は質問の意図が分からずに、モニカの顔を見つめてしまったキリカだったが、大した驚きもなくすぐに返事をした。


 「知っていた、いや、違う。――思い出したんだよ、全てをね。昔、キミのことは母さんから聞いていたんだ。別の世界に、ボクの姉妹がいるんだってね」


 「モニカが姉妹て……嫌じゃない?」


 心配そうに聞いてくるものだから、返答に困ることかと思ったがキリカにとっては何てことのない問いかけだ。


 「嫌じゃない、それどころかボクみたいな間違ってばかりの奴が姉妹でもいいのかい?」


 ぱあぁとモニカの表情が明るくなれば、大きく頷いた。


 「もちろんっ! ……あれ? でも、どっちが、お姉ちゃんになるんだろう……。私が妹っぽいから、やっぱりキリカちゃんがお姉ちゃんになるのかな?」


 「さあね、でもボクはモニカをお姉ちゃんと呼びたいかな? ……どっちが上か下かなんてのは、身内の暴走を止めてからにしよう」


 モニカとキリカが同時に目の前のクルミの視線が射抜いた。到底、子供から向けられるとは思えない眼差しを前にしてもクルミの笑みは絶えることはない。むしろ、二人でじゃれ合う子供を見る親のそれすらある。


 「二人で、私を止められるかな? よく子は親を超えるもの、なんて言うけど……。まだまだ、その通りにいくには早い気もするよ」


 カルプルヌスを掲げて見せれば、刃から発生する魔力が震え、獣のような不気味な声を上げる。圧倒的な力の差を誇示するようなクルミを前にしても、キリカもモニカも肩の力を抜くことはない。絶望的な状況に身を投じることになるかもしれない、そんな緊張感の中でモニカはある違和感に振り向いた。

 キリカが小さく笑っていた。


 「――それは、どうかな?」



                    ※


 ノアとアルマは、圧倒的な力の前に倒れていた。意識は消え、ただ、全身を支える力は不安定なものになっている。

 このまま消えてしまうのか、このまま死んでしまうのか、いや、それ以上に恐ろしい出来事がこの先には待っているはずだ。

 旅が冒険が、全てが無駄になってしまうのか。否、それだけはだめだ。

 たくさんの出会いと別れ、それから希望を繋ぐ様々な思いが無限に溢れる魔力のように体内を渦巻き始める。弱り切っていたはずの感情が、生を求め、力を感じ、再び躍動を始める。まるで、互いに合図をしたかのように、ノアとアルマはほぼ同時に立ち上がった。


 「「まだだ」」


 ――私達はダメだからこそ、三人だった。そう認めたからこそ、ノアとアルマを絆の力が繋いだ。



                    ※



 最初の部屋、アルマとイリヤが戦っていた空間に染み込むように響いた声。

 イリヤは己の口に手をやるが、自分が喋ったものではないことに気づく。となれば、ここで喋れる人間といえば一人しかいない。


 「……おとなしく眠っていればいいのに」


 呟きながら反転したイリヤの目に映るのは、足だけになった勇者像に手をつきながら立ち上がるアルマの姿。


 「もう迷わない」


 「え……?」


 驚くほどはっきりとした声にイリヤは眉をひそめた。今の弱ったアルマが出せるとは思えないほどの芯のしっかりとした声だった。


 「お姉ちゃんとかモニカのお母さんとか……そんなのもう関係ない。私は私の愛した人達や愛してくれた人達。そんな……――より良い明日が欲しいと望む人達の明日を私は守る!」


 アルマは世界に祈るように求めるように、その右手を伸ばす。


 「――繋ぐ未来、アブソリュート・フォース!」


 瞬間、一瞬の煌きの後、アルマの全身を魔力が駆け巡る。今、彼女の肉体にはモニカとアルマの二人の力が宿る。


 「アルマ・アブソリュート。……行くわよ」


 驚愕するイリヤの顔を見ながら、アルマはすぐさま魔法を発現させれば先ほどよりもずっと大きな魔力で出来た翼を背中から出現させる。


 「ノア、アンタの力も借りるわよ」


 腕をすっと横に振れば、いつの間にかその手には魔力の粒子が幾重にも重なった光の剣が握られていた。キリカの持つアンナス・セイバーとよく似ているが、その剣には名前なんてなく、高密度の魔力の束を握っているようなものだった。それ故、その剣は折れることもなければ斬れないものなどない。アルマの強い心、ノアの折れない気持ち、モニカの真っ直ぐな想いが具現化したようだった。

 アルマは翼を広げる。先ほどまでの単なる力のみの翼ではない、飛びたいと望んでものできなかった少女の姿に重ねる。あの少女のように、強い翼を広げたい。ただ壊すだけでもただ飛ぶだけでもない、私が、私達が飛翔を決して止めることのない翼を。

 切なるのアルマの願いを叶えるのは、奇跡や偶然ではない。アルマ自身によるものだ。背中から生えた左右の翼の下側から今生えているものよりも二回りほど小さな翼が現れる。それは天使の翼でもなければ、悪魔の翼でもない。あの少女の生やしていた獣のような翼が出現した。その獣の翼こそ、明日を生きたいと願った希望の翼と思えたのだ。

 四つの翼が羽ばたけば、空間を震わせる。


 「お前達が世界の声だというなら、私は未来の声だっ!!!」


 危機感を抱いたイリヤがすぐに魔力の塊を連射するが、アルマはそれを剣で叩き落した。背後で上がる爆炎を気にする様子もなく、より輝くアブソリュートの光の中でイリヤに全身全霊を集中させる。


 「本気を出しなさいよ! イリヤアァァァァ――!!!」


 そこからの動きは早かった。すぐさま、イリヤは腕を振れば、周囲に漆黒の炎を発生させる。大きさの違いはあっても、その数は六。次に手を振れば、イリヤの肉体の前に浮かぶのは六つの魔法陣。

 浮かんでいた漆黒の炎はイリヤの周りの魔法陣に吸い込まれれば、イリヤの体にまとわりつき、炎が体に密着しているというのにイリヤは表情を変えないどころかどこか恍惚とした表情をすら見せる。その間も、漆黒の炎は形を変え、大きく広がり凶悪な形を手に入れていく。


 「素敵ね、アルマちゃん。貴女の言う通り、凄く強くなったのね……。ここまでくると手加減なんてできないから、本当はこの力を使うつもりなんてなかったの……。でも、他に選択肢はないたみたいだし……見せてあげるわ、私の持つ魔王の力を」


 六つの漆黒の炎が爆ぜた。瞬間、イリヤの肉体を漆黒の炎が包み、そこから六体の首だけの竜が現れていた。イリヤという漆黒の炎の本体から、六つの竜が首を動かし、じっとアルマを睨んでいた。


 「これは、魔王の従えていた竜。私の魔力がある限り、この竜は無限に出現する。それどころか、まともに竜を倒そうと思うなら、兵士が千人いても足りないでしょうね。魔王に挑むんだから、それぐらいの覚悟はしてきたでしょう?」


 ダン! と激しい足音を立てれば、アルマは真っ直ぐに竜の本体であるイリヤへ突っ込んでいく。


 「魔王だとか、勇者だとか! もうそんなのどうでもいいのよ! 私は、私達は! 三人で旅を続けたいだけなんだからっ! 私達の旅する世界を壊すんじゃないわよっ!!!」


 たくさん迷って、たくさん苦しんで、悩んだからこそ、辿り着いたシンプルな答え。アルマはそれを現実にするために、魔法を発揮する。

 ――長さを変えた光の剣が、漆黒の竜を一体切り裂いた。


                   ※


 アブソリュート・フォースの本当の力に目覚めたアルマ。そして、もう一人の少女もその力によって覚醒しようとしていた。


 ――まだだ。


 その声に引っ張られるように、終わったはずの戦いに再び意識を向けるシルハ。そこでは、傷つきながらも立ち上がるノアの姿あった。


 「まだ立ち上がる気か、ノア」


 泥と血の付いた髪をかきあげて、一歩踏み出した途端、ノアの鎧はバラバラと崩壊した。もう身を守る鎧はなく、今の状態でシルハの攻撃を受ければ、剣によるものではなくても立っていることはできないだろう。


 「……当たり前だ、お母さん。私は勇者の仲間だぞ」


 「そいつを言うなら、私だって一緒だよ。ただアンタ以上に、この世界は単純じゃないってことに気づいたってだけさ。世界を救いたいて思う気持ちは変わらないよ」


 少しずつノアの瞳に力が宿り、アブソリュート・フォースの光が集まっていく。


 「いいや、違う。貴女達は、最も単純な理由で解決しようとしているだけだ」


 アブソリュート・フォースには癒しの力もある。ノアの傷口が癒えれば、体力の回復と同時に己を支える二本の足にも力が蘇る。


 「そうかもしれないが、私達にはその単純な方法を選ぶだけの力があるんだ。それだけでも、ノア達とは違うだろう。……もういい加減に、戦うのはやめてくれないか?」


 「いいや、絶対にやめない。貴女を倒すまでは」


 立ち上がったノアを包むのは、間違いなく三人合わさったアブソリュート・フォースの輝き。既に完治しかけていた左手を天へと伸ばす。

 欲しい、渇望、望み、強奪。様々な求める感情が、その力を手にれるための呪文を教えてくれた。


 「――繋ぐ運命、アブソリュート・フォース!」


 集約した力を手中に収めるように、広げた左手を握りしめた。アブソリュート・フォースの光が弾ければ、ノアの全身を淡い光が包み込んだ。


 「ここからが、本番だ。……ノア・アブソリュートの力で証明してやる」


 驚いたり焦ったりするのではないのか、無意識にシルハのそういう表情を考えていたノアはその思考すら愚かな行為だったことを知る。

 根っこから戦士であり生物を葬ることに長けたシルハは、危険だと思った段階で表情に出すこともなく、弾丸のような速さでノアへと向かってくる。その刃は既にノアの首へと伸ばされていた。

 まともに触れれば首が飛ぶ。いや、シルハのことだからアブソリュートで強化された体だというのも考慮に入れていることだろう。どちらにしても、このままでは終わる。そして、このアブソリュート・フォースという力は終わらないための力だ。


 「今から見せるのは、お母さん達が否定してきたものだ」


 不穏の言葉を呟く娘の首を容赦なく刎ねた。まるで単なる素振りのように軽い、自分の娘の首はここまで軽いものだったのかと目を向けた先には娘の姿はなく、砕けた魔法陣が浮かぶのみ。

 漂っている魔法陣こそ、ノアがアブソリュートの力によって、アルマの持つ瞬間移動の魔法を使用した証拠だった。


 「なるほど、魔法はこうやって使うのか」


 はっとシルハは、殺気に気づきて横を振りむこうとするが、自分の顔へ迫りくる拳によって首を動かすことはできない。


 「届いた」


 「――ぃ!?」


 短い悲鳴を漏らすシルハの体は質量を無視するように、十数メートルほど体が飛べば、矢のように地面に突き刺さった。三秒もしない間に、シルハの倒れた地面から馬車のような大きさの瓦礫が弾けて落下した。しかし、瓦礫の中から軽くジャンプをするように飛び出したシルハには目立った外傷はない。


 「本気で行ったんだけど……。久しぶりだよ、こんなに胸の奥が熱くなってくるのは」


 鼻に手を当てれば、片方の鼻の穴から鼻血を吐き出す。


 「今の私の拳で、鼻血程度か……。我が母ながら、恐ろしいな」


 「だが」と言葉を続けたノアは、腰を低くした。


 「――私の理想が貴女の希望に追いついた瞬間だ」


 短い一言と共にシルハに向けられた殺気がスイッチとなり、両者は地面を蹴れば真っ向から駆けだした。

 凝縮した殺意がぶつかるように、魔力で満ち満ちた刃の波動が爆発した。

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