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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
最終章 勇者だから、みんなが甘やかすからなんとかします!
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5話 モニカレベル29 ノアレベル90 アルマレベル92

 タイミングを見計らったように、モニカが城の前に立つ時には左右からアルマとノアも現れた。


 「それじゃ、ここで!」

 「後はよろしくお願いします!」


 アルマとノアを連れてきたたいぐんスキルで発生させた二人のモニカは敬礼をすれば、戦場へと引き返した。


 「行こう、二人とも!」


 それだけ言って、扉に手をかけようとするモニカの首根っこをぐっと引っ張るアルマ。


 「――ちょっと、待ちなさいよ!」


 「ぐへぇ!? 本日二回目の首の痛み!?」


 自分の体に引き寄せたモニカの耳元に顔を近づけるアルマ。


 「な、なにかな、アルマちゃん……。そんな怖い目で……」


 「怖い目もするわよ。モニカの分身達から聞いたけど、今度の敵ばかりは生半可な覚悟じゃ勝てる相手じゃないわ……。気持も肉体も、戦える状況なの? モニカは」


 ここから先は引き返せない、自分よりもずっと強大な敵に怯まずに立ち向かえるのか、なにより、母親と戦えるのか。アルマの二つの目は問いかけ訴えかけている。

 いつだってそうだ。この子は誰かに嫌われることなんて恐れることもなく、真っ向からぶつかってきたのだ。そうやって、正しい道を共に探してきた。大切な親友の真っ直ぐな感情に感謝しながら、モニカはしっかりと頷いた。


 「――そんなの、いつも通り! 分からないなら、行ってから決めるよ!」


 一生懸命なアルマの目に対して、精一杯な視線をモニカは送った。そして、すぐにアルマは眉を下げて微笑んだ。


 「それなら、ただ突き進むだけね!」


 アルマがモニカに肩を組んだ。二人の背中を叩いて、モニカを挟んで肩を組むのはノア。


 「私も忘れてもらっては困るぞ」


 「ノアちゃんのことを忘れるわけないよ、いつも通りに三人で乗り越えるんだから」


 「ああ」


 勇ましそうにノアが笑い、ノアとアルマはモニカの背中を押せば体を離した。


 「やることは一緒! お話しをして、救いたい人を救うだけだよ!」


 城の扉はモニカは思っていたよりもずっと軽く、前に力を入れれば簡単に三人を城へ招いた。



                 ※



 城の内部に入った三人の目に飛び込んできたのは、数十体ものの少女と角を生やした男、そして異形の怪物の銅像だった。

 ただのインテリアとしての像ではない。壁が見えないほどに、隙間すら見せないほどに、大量の像が所狭しと立ち並ぶ。ポーズは様々、剣を構える少女、祈りを捧げる少女、弓で何かを狙っている少女。そして、両手に斧を握る男、槍を頭上へと掲げる女、魔力を感じさせる杖を振り下ろそうとする男。加えて、顔中に目のある蝙蝠のような怪物、首の八つはある竜の怪物、ただし、それは単体で完成するものではない。――いずれも少女と怪物の像、人型の像は戦っていた。

 少女対怪物、少女対人型の男女。あまりに常軌を逸脱した光景にモニカ達は言葉を失う。

 まだ、ただの気味の悪い像だけなら見逃せる。だが、これは横を通り過ぎるどころか目を離すことのできなくなる物体だ。


 「まさか、これ……」


 意外にも最初に声を出したモニカ。それに続き、アルマも口を開く。


 「たぶん、モニカの思った通りよ。――過去の勇者や魔王、世界の異変を模したものよ」


 そう、モニカ達なら反射的に理解できてしまう。

 少女の像は――昔の勇者。

 男や女の像は――おそらく、勇者の倒すべき魔人や魔王の類。

 異形の怪物達は――世界に異変を起こしてきた怪物達。


 「悪趣味な像だ……!」


 ノアが吐き捨てるように言った。声にはしなくてもモニカもノアも同じ気持ちだった。

 今、眼前の像達は戦いが終わったというのにその顔に悲しみを滲ませながら戦っているのだ。彼女たちの戦いは終わり、既に彼女たちは世界の平和を守ることができたはずだ。それなのに、こんな永久に残る形でどうして戦い続けなければいけないのだろうか。

 救うことを望みながらも、戦うことを良しとしないモニカ達は各々が似たような感情の中でその像達を眺めていた。


 「あーもうっ!」


 怒りで肩を震わせていたアルマが手の平を像に向ける。。


 「どうするの!? アルマちゃん!」


 「どうするもこうするも、こんな物はぶっ壊してやるのよ! どういう意図でこんな物を作ったのか知らないけど、私達の手でこんな争いにまみれた歴史は終わらせてやるわ!」


 一見すると暴走気味にも聞こえるアルマの発言だが、強い狂気を見せられたモニカには正論を言っているようにも思えた。そのためか、アルマの手の先に出現した魔法陣を止めるなんて発想すら浮かぶこともなく、ぼんやりと宙に浮かぶ魔法陣を見つめた。

 カッと魔法陣が発光し、続けて放出される魔力の閃光。


 「戦いの歴史なんて、ぶち壊せええぇぇぇぇ―ー!!!」


 伸びた魔力の線はいくつもに枝分かれ、一定の間隔で並ぶ勇者と魔王の怪物達に伸びる。ちょっとした動作で行ったアルマの攻撃魔法だが、無数に並んだこの像を簡単に破壊することは難しいことではない。放たれる魔法の威力も手加減はなく、例え間に皮膚の厚いモンスターが立ちふさがったとしても枝分かれた魔力がモンスターを貫き銅像を破壊するだろう。

 ぐんぐんと速度を増す魔力の線をモニカとノアはただ見ていたが、何かが横切ったと思った瞬間、散らばっていたアルマの攻撃魔法は像に触れる前に爆発を起こした。


 「ふざけないでよ」


 舌打ちをして呟いたアルマには、何が起きているのか分かっているようだった。

 一つが爆発したかと思えば、ほぼ同じタイミングでアルマの攻撃魔法が爆発し、周囲を黒煙が包んだ。煙が晴れたかと思えば、相変わらず不気味な像達は傷一つ付くことなく変わらず立ち並ぶ。


 「少し刺激し過ぎたんじゃないのか」


 ノアにも何が起きたのか気づいたように言えば、自然な動きで三人は互いの距離を近くする。即ち、これは警戒態勢。


 「私が何もしなくても、あっちから勝手にやってきたわよ」


 「や、やっぱり、敵さんがいるの……?」


 めんどくさそうにアルマが溜め息を吐けば、短く頷いた。


 「ええ、かなり高い魔力を持った魔法使いがいるわね。いや、魔法少女の私の攻撃を止めたなら、魔女か魔人か同じ魔法少女か……どちらにしても、油断ならない相手てこと――よ!」


 唐突に腕を振るったアルマの手から放たれる炎の球体。高速で飛び出したそれは、あまりの早さで形を変えて何もない空間へと向かっていった。だが、それはさも当然のように炎の勢いは見えない壁に弾かれるように乾いた音と共に破裂した。そして、炎は再燃しアルマの火球の伸びていた先からボッと現れたのは黒い炎。


 「アンタの魔力、ずっと感じていたわよ」


 黒い炎を睨むアルマを嘲笑うように黒い炎が大きく揺れた。


 「成長したわねえ、アルマちゃん」


 身構えるモニカとノアとは反対にアルマは不思議な高揚感と共に前に踏み出していた。


 「ようやく、アンタに会えたわ」


 「うーん、思っていたよりもずっと早くやってきたね。偉い偉いな、アルマちゃんは。この私が見込んだ女の子なだけはあるよ」


 「エステラの命を弄んだアンタに褒められても嬉しくないわよ」


 「相変わらずアルマちゃんは手厳しいな……」


 「相変わらずって……! アンタに私のことをとやかく言われる筋合いはないわよ! 教えなさい、エステラを苦しめた理由を! 私の住んでいた街の人達を傷つけた真実を!」


 故郷を奪われかけ、大切な親友の命を玩具のように扱われたアルマの怒りはモニカ達にも伝わる。この状況では、例えモニカ達だとして一言でも声を漏らすならすぐにでも戦闘が始まりそうな一瞬即発な空気の中ではまともに喋ることもできない。

 突然、黒い炎は高いトーンで「フフフ」と笑った。


 「真実なんてものは、いつだって単純よ。そこに至る経緯がやたらと複雑なことが多いだけで……。でも、あえて理由を上げるとするなら、邪王クルミのため……。ああだけど、やっぱり私なりに理由を上げるとするなら――世界のためかしら?」


 当然のように告げる黒い炎を前に、風化し忘れかけていたアルマの怒りが再燃する。


 「……戯れるな、お前が世界を語るな」


 ストレートなアルマの怒りさえも軽く流すように、再び黒い炎は笑うように揺らめいた。


 「悲しいわ、」


 黒い炎の声が少しずつ変化していく、艶のある低い声は少しずつ親しみを感じさせる女性の声に。


 「だけど、嬉しくもある」


 黒い炎は形を変えて、ぐっと伸びれば、それは少しずつ人の形に変化。否、本来の姿を取り戻そうとする。


 「これが、成長なのね。――」


 燃え盛っていた黒い炎は長い髪に変わり、その姿は綺麗な顔をした女性に変わる。垂れた目元は優しそうだが、その姿はモニカとノアは見覚えがあった。そして、アルマはその正体に気づきつつあったようで、驚くことはなく視線を逸らすことなく舌打ちをした。

 本来の姿を取り戻した黒い炎、もとい女性は、まるで三人を包み込むように両手を広げた。


 「――お姉ちゃん、嬉しいわ。アルマちゃん」


 その一言でモニカとノアはハッとした表情でアルマとその女性の顔を見比べる。見覚えがあるなんて当たり前だ。確かに目の前に女性は、見れば見るほどにアルマと似ている。目元やスタイルの良い体や細かいところは違うが、二人が姉妹だと言われればモニカ達には否定できない。


 「どういうことなんだ、アルマ。奴は偽物か」


 ノアが声を潜めてアルマに聞いてみるが、苦々しい表情で首を横に振る。


 「うちの姉は簡単に敵に操られたり贋作にされたりするほど弱くはない。魔法少女だからとかそういうの関係なく、妹として気づくわ。……お姉ちゃんは本物よ」


 ちらりとノアはアルマの横顔を見る。額からは汗が流れ、その顔には不安が滲む。アルマからしてみれば、予想できた一つの可能性なのかもしれないが、現実として突き付けられたことでその顔には焦りの色が強い。

 普段、冷静なアルマがいたからこそ行動的なノアやモニカがいつもあと一歩でとどまることができた。しかし、冷静さを失いかけているアルマを見たノアはつい気まずそうに視線を落としてしまう。


 「そうか、やはり……」


 言いよどむノアの隣で、モニカが現実を直視しろと声を漏らす。


 「やっぱり……あの人はアルマちゃんのお姉ちゃんなんだね」


 モニカの声を聞き、アルマの姉は先ほどとは違う声で「フフフ」と笑った。


 「ご理解いただけたかしら、モニカちゃん、ノアちゃん、アルマちゃん」

 

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