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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
最終章 勇者だから、みんなが甘やかすからなんとかします!
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4話 モニカレベル29 ノアレベル90 アルマレベル92

 母親とよく似た、いや、母親としか思えないクルミを前にモニカは半歩後退りをした。


 「本当に……お母さんなの……?」


 「偽物か本物かと聞かれたら、本物だよ。事実、モニカと過ごした記憶も持つ」


 「う、嘘……。お母さんは普通のお母さんで、特別な力なんて全然ないはずだよ。そ、そりゃ、年齢よりは若く見えるて言われるけど……」


 外見で若いと言われる人間なんて世の中には山のようにいる。そんな人間達が一人残らず、勇者や魔王のわけがない。何より、クルミがその類だとしたら今までの日々はなんだというのだ。そんな世界を左右するような人物と当たり前のように過ごしていたのだろうか。

 まさか、そんなはずはない。あの母親は間違いなく、ただの人間だ。

 だが、目の前の人物はそんなただの人間のどこにでもいるただの母親の顔をしながらそう告げた。


 「その辺の説明は難しいんだよねえ。ここで教えてあげてもいいけど、まだまだ相応しい舞台があるからさ。だからね―ー……まあぁーだだよ?」


 「なんで、どうして何も教えてくれないの!?」


 「……『もういいかい?』は早いよ、モニカちゃーん。声が足りないんだよ、そんな小さな声では届かないからね」


 「――耳を貸すではない、モニカ」


 樹木神は手の中に魔力の塊を発生させれば、すぐさまそれをボールのように投げつけた。二百キロ近いスピードで迫る魔力の塊をやんわりと握った拳で叩き落す。直後、クルミの背後で巨大なスプリンクラーでも爆発したかのように魔力の塊が落下し破裂した。魔法を使用することのできないモニカでさえも、樹木神が放った一撃がそう簡単には弾き飛ばせるものではないことは分かった。


 「冷たいことを言うわね、樹木神様。昔はあれだけ仲良くやっていたのに」


 「わしもずっと悩んでいたが、モニカがやってきたことで迷いを捨て去る準備ができたわい。そして、今のお主を見たら……完全に断ち切れた」


 樹木神は足元に転がる小石を蹴った。瞬間、軽く宙を浮いた石は地面に落ちると石は輝きを放つ。石にヒビが入ったかと思えば、まるで卵から孵化する生物のように大木や姿を現す。

 小石の中に入っていたとは思えないような大木が次から次に出現すれば、大木の上に大木が乗り、また次に乗った大木は体を曲げて形を変える。腕になり足になり頭になる。そうやって現れたのは、木でできた巨人だった。

 アルマの乗るドラゴンリッターほど大きくはないが、それでもオオグの三倍はあるほどの巨体だった。


 「やるんじゃ、エンシェントグリズ」


 エンシェントグリズと呼ばれた緑の巨人達は、その巨体には似合わない俊敏な動きでクルミまで近づけば容赦なくその腕を叩きつけたはずだった。


 「手加減してるんじゃない?」


 虫でも払うように手を振ったクルミ。その手から発生されるのは、強い光と見ただけで目を焼いてしまいそうな灼熱の炎。

 エンシャントクリスはクルミによって発生した炎によってその身を焼かれたことにより、地面へと崩れ落ちていく。


 「安心せい、終わらんよ」


 次に樹木神は地面の砂を掴めば宙に巻いた。パラパラと流れる砂は少しずつ大きくなれば、長い牙に四本の脚、体毛や目や鼻はないものの砂と土でできた獣へと姿を変貌させた。


 「ひっどーい。女の子一人に、大勢で寄ってたかっちゃって! ――なので、私は退散することにしました」


 「なに!? クルミ!」


 目を細めてにやりとクルミが笑ったかと思えば、その体は少しずつ透明に消えていく。


 「やれ! 早くクルミを止めろ!」


 砂と土の獣達が一斉に飛びかかるが、その牙は空間を通り抜けた。体は薄くなっているが、もう既にクルミの実体は無くなっているようだった。


 「お母さん! 待って、私たくさん聞きたいことがあるんだよ!?」


 クルミは体に粘つくような殺気を消し、モニカを見た。確かに、そこには母親子供に向けるような優しい眼差しが込められていた。当たり前のように笑いかけるその顔を見たモニカは言葉を失う。


 「モニカちゃん、私はお城にいるから。お城の一番上。……覚悟ができたらいらっしゃい。私の友達と一緒にモニカちゃん達を迎えてあげるから」


 「お母さんっ!!!」


 「ばいばーい」


 学校に行く前に見送る時のようなおどけた様子でクルミは手を振った。そして、すっと視界からもその場からも空気に溶けるように消えた。



                  ※



 誰も存在しなくなった虚空を見つめていたモニカは、はっとなり樹木神を視線を移せば、飛びつくように体を寄せた。


 「樹木神様はお母さんだって知っていたの!? 昔勇者をしていて、今は邪王で、それでそれで……あーもう! 全然分かんないよー! 解説役のアルマちゃんは何してんのさー!」


 「落ち着け落ち着くんじゃよ、モニカ。いろいろ教えてやる前に、一つ確認したことがあるのじゃが……モニカは自分の母親と戦う覚悟はできておるか?」


 「そんなの、できてるわけないよ!」


 「即答じゃな……。ふむ、しかし、こういう返事もモニカらしいのぉ。悪に染まってても母は母ということか」


 「当たり前だよ、だって、お母さんとなんて戦いたくない。それに、私どうしてお母さんが悪者になっちゃったのか分からないんだよ!? ていうか、やっぱりお母さんが邪王なんだったんだね!?」


 一度考えるように腕を組んだ樹木神は目を閉じて思案し、考えはすぐにまとまったようで目を開く時には揺るぎない目がモニカを捉えた。


 「どうしたいんじゃ、モニカは。教えてくれないか、これからお主がどう行動したいのかをわしに教えておくれ」


 モニカはすぐに口を開く。


 「私は、」


 これは正解なのだろうか、ちゃんと言葉として声に出す前にそんな疑問を頭を過ぎる。しかし、正解や不正解といったものはきっとどこにもないのだとモニカはこの旅で嫌というほど知ったのだ。それでも、選択をしたい。正解を選ぶことはできなくても、間違いだけはしたくない。どこか信念じみた強い感情と共に想いを声にする。


 「――知りたい。お母さんがどうして勇者をしていたのか、なんで、そんな人が邪王なんてやっているのか。そこまで聞いてから、私は答えを出すよ。……だって、私達の旅は最後まで間違ってなかったって胸を張りたいんだもん」


 モニカのまっすぐな眼差しを見返す樹木神。それは旅に出る前にも、瞳の奥から感じられたものだ。しかし、今のモニカの瞳には誰が見ても圧倒されるような吸い込まれるような意思の強さを感じさせた。

 気が付けば樹木神はモニカの頭をやんわりと撫でていた。


 「成長したのぉ、モニカ。今のお主は間違いなく勇者じゃよ。奴を止めることができるのは、同じ勇者であるモニカだけなんじゃよ。思う存分にクルミに言いたいことを言い、聞きたいことを聞いてくると良い。クルミはつかみどころのない奴じゃ、気をつけて立ち向かうんじゃぞ」


 「うん、それじゃいってくるよ、樹木神のおじいちゃん!」


 樹木神に元気いっぱいに頭を下げれば、振り返りモニカのたいぐんのみんなを見回せば、「みんなー! アルマちゃんとノアちゃんに伝言をよろしくー!」と叫べば、十数人のモニカがアルマとノアの方に分かれて走り出した。


 「ちょっと待つんじゃ、モニカ」


 そのまま駆けていこうとするモニカの襟をがっしりと掴む樹木神。


 「――ぐえ!? ……首痛くなっちゃうんじゃん、樹木神のおじいちゃん!」


 首をさすりながら樹木神を見るモニカの目には明らかに恨みがましいものが混じる。


 「すまないな、だがクルミの前に立つにはこれぐらいは必要じゃな。手の甲をみせてくれ」


 「え? はい」


 「ふむ、ほれ」


 何気ない動きで手の甲を見せたモニカに対して、生活の一部のような軽い仕草で樹木神は手の甲を一度突いた。――刹那、淡く光だし勇者の印が浮かび上がる。そのまま勇者の印の輝きが大きくなったかと思えば、光が小さくなる頃には勇者の印が消えていた。

 不思議そうに手の甲を見てみるモニカだったが、そこには変わった様子は見当たらない。


 「ん? 今のはなんだったの……?」


 「今ので、わしの力を通して世界と勇者の力を直結し全ての潜在能力を開放したのじゃ。レベルというものを完全に無くしたことで、お主は本気になれば勇者の発揮できる以上の力が使えるはずじゃよ。ただし、それはお主次第。お主の心の力に作用し、心が強く望めば望むほどにお主に勇者の力は応えてくれるのじゃ。その逆も然り、力を想像し求めないようならお主の力は今までのままじゃよ」


 少し早口な樹木神の説明にモニカは頭の上を疑問符だらけにしながらも、とりあえず「う、うん」と頷いてみせた。


 「とにかく、私がめちゃくちゃ頑張れば勇者の力もすごくお手伝いしてくれるってこと?」


 「うむ! 大正解じゃよ!」


 豪快に頷く樹木神の顔を見て、モニカは安心したようにニッコリとした笑顔と共に頷いた。


 「それじゃ、改めまして……。――いってきます、樹木神様!」


 「うむ、わしとプリセラはこの城の周りの雑魚共を片付けたらすぐに応援に向かうからのぉ! それまでは、辛抱するんじゃぞ!」

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