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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
最終章 勇者だから、みんなが甘やかすからなんとかします!
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2話 モニカレベル29 ノアレベル90 アルマレベル92

 「あの城が、お母さんの言っていた……」


 感慨深げにノアが言う。その先には、モニカどころかノアやアルマすらも今まで見たことないほどに大きな城がそびえ立っていた。広い平野の中心には、巨大な竜が横たわっているようにすら錯覚してしまう。そんな、人を不安にさせるような城がそこにはあった。


 「あれが城? あんなの建物なんて呼べるものじゃないわよ」


 アルマにはあの城が別の建物に見えているのか、表情をしかめている。

 魔力を視認できるアルマの目には、あの城に渦巻く魔力がきっと歪かつ恐ろしいものに見えているのだろう。僅かたりとも動かない城のはずだが、アルマの視線は何かを追うように動いている。

 モニカでさえも何か感じているようで、城を見てからはずっと黙ってしまい額には汗すら浮かんでいた。まるで導かれるようにやってきたこの城だが、確実に世界の異変と呼べる空間だった。そして、その異常性を確定させるようにモニカ達の周囲にも異変が起こる。


 『グゴォ!』

 『ケス……』

 『ピギャアアアアア!』


 今まで静かだった木々の隙間から現れたのは、多種多様なモンスター。ロダン、オオグ、ゴーレム……今まで戦ってきたモンスター達、さらには見たこともない種類のものもいた。

 数は数十匹、まるでモニカ達の歩みを止めるように次から次にモンスターがやってきた。


 「どうやら、ここは大当たりみたいね……」


 体内から魔力を放出させたアルマの周囲には光の粒子が浮かび、即座にアルマの前方に魔法陣が出現する。


 「全力で斬り抜けるぞ。いいな、二人とも」


 飛び掛ってきたロダンを振り返ると同時に斬り倒したノアが言う。


 「終わらせない……。こんなところで、足を止められないよっ!」


 モニカも剣を抜けば、モンスター達が現れた反対側から地響きと共に何百というモニカ達の大群がやってきた。それは、たいぐんスキル発動の証明。


 「いくぞいくぞいくぞいくぞーっ!」

 「久しぶりの登場過ぎて泣けてくるね!」

 「だめよ、だめ。涙は最後までとっておきなさい!」

 「ぶーん! ぐわおーん! ががぐおー!」


 飛び掛り、モンスター達に刃を突きたてるモニカ達。その一瞬を見逃すことはなく、アルマはすぐさま魔法を詠唱する。


 「炎に焼かれ、汝を塵とせん! ――フレガボア!」


 形成していた魔法陣から赤く発光した輝きが放出される。それこそ、炎すらも焼き尽くす業火の魔法だった。

 赤く輝く魔力に触れたモンスター達は一瞬にして塵になり、魔法や炎に耐性を持つモンスターですらもまともに原形を保つことすら不可能である。

 巨大な蛇でも通ったように焼け拓かれた道。それは真っ直ぐに未だに佇みに続ける城へと伸びていた。


 「行くわよ、モニカ! ノア!」


 足元に魔法陣を出現させたアルマはその上に乗ると地面から一メートルほど高い位置にふわりと浮き上がった。そのまま魔法陣という乗り物に乗ったアルマはすっと宙に浮いたままで地面の上を滑走する。


 「ア、アルマちゃん、ちょっと待って!?」


 ノアは走れば追いつくだろうがモニカならきっと取り残されてしまう。それに気づいたアルマは、一度はっとした顔をした後にモニカの足元から魔法陣を出現させればその上に乗せた。


 「ノアはどうする!?」


 「私は走って行った方が都合がいい」


 「了解!」


 強引に作られた道の上を魔法陣の上に乗って進むモニカとアルマ、二人よりも少し遅れて走るノアは飛びかかるモンスターを斬り伏せつつ進んでいく。


 「このまま魔王城まで一直線に行くわよ! モニカは落ちないように、魔法陣に掴まっておきなさい!」


 前方に見えてくるのはまともに落ちれば体が粉々に砕けてしまうであろう高い崖。もちろん、ちゃんと魔法陣の上に乗っていれば何とかなるはずなのだが。


 「え、ア、アルマちゃん!? ……掴まるところなんてないよおぉぉぉぉぉ――!?」


 とりあえずモニカは海の中で溺れた時のことを思い出して必死に魔法陣を浮き輪のように掴む。そして、そのまま急な浮遊感と共に地上へと落下。ふわりと無重力になる感覚はモニカの絶叫で始まり地面に叩きつけられる寸前で急激に止まった時に出た「ひぃん!」という短い悲鳴で終わりを知らせた。

 掴まっているだけとはいえ、吐き気に加えてチカチカとした視界の中で弱りきったモニカとは反対にアルマはサーフボードのように乗り回し、ノアはといえば崖の僅かな足場を軽やかなジャンプで下った。


 「きゅぅ……」


 「こら、モニカ! 伸びている場合じゃないでしょ! この崖を降りたら、このまま城まで突っ込むわよ!」


 魔法陣のスピードを落としながらモニカの隣でアルマが言う。


 「えぇ……モンスターも後ろにいるんだし、少し休憩ぐらい……」


 「そうはさせてくれないわよ! ほら、よく見てみなさい!」


 アルマが前方へと顎をしゃくれば、モニカも前を見た。

 まず目に飛び込んできたのは魔王城。――そして、そこに群がるのは魔王城を守る壁のように立ちふさがるモンスターの大群。

 見渡す限りのモンスター達の姿にモニカは顔を青くさせた。


 「ま、まずいよ、アルマちゃん……。このままぶつかったら、あのモンスター達と……」


 「ええ、戦わないといけないでしょうね!」


 「あぶないよ! 危険だよ!?」


 「そんなの承知よ。……でも、今の私達は奴らを倒す力があるわ。私達の力は、こんな絶望的な状況を突破するための力なのよ! ――準備なさい、ノア!」


 「――おう!」


 頭の上を何かが飛んだ。モニカがそう気づいて顔を上げた時には、それはまるで鳥のように疾風のように空を駆けた後だった。続いて前方から激しい爆発と雷撃の衝撃。その一度の破壊で、その場にいたモンスター達の巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。――そこには、ノアが立っていた。


 「危ない! ノアちゃん!」


 「安心しろ、モニカ。既に私は絶望を超える力を持つ――」


 せっかくノアによって作られたクレーターのようなモンスターのいない空間。しかし、モンスターの数は圧倒的。小さなノアへ覆いかぶさるようにモンスターの群がなだれ込んだ。

 直後、今まさにノアへと襲いかかったモンスター達の体が空へと浮き上がり地面に降り注ぐ。


 「――魔人化。これが、私の絶望を壊す力の名前だ」


 そこに立つノアの頭から親指ほどの大きさの二本の角が生え、瞳の色は赤く染まり、肌の色は褐色に変わる。そこにいたのは、魔人の女剣士ノアだった。

 人間が放つとは思えないほどの瘴気、魔力、殺気をまともに受けたモンスター達は一瞬たじろぐが、ただそこにいるだけでも肉体もろとも押し潰されそうなノアのプレシャーの前にモンスター達は冷静さを失い飛びかかる。


 「焦るな、死が近づくぞ」


 ただの一振りのはずが、刃の先に雷と炎が迸る。

 爆発が地上空中問わず発生すれば、モンスター達のぶ厚い皮膚すらものともせずに吹き飛ばした。


 「アンタばかりに格好付けさせないわよ! そうでしょう!? モニカ!」


 「う、うん!」


 魔法陣を蹴れば、アルマは城の屋根に到達するのではないかと思ってしまうほど高く上昇する。両手を広げたアルマの足元には、巨大な魔法陣が浮かび上がる。


 「あんまり思い出したくないんだけど、これ以上に相応しい魔法はないからね」


 アルマの思い描くのは、悔やんでも悔やんでも悔やみきれないドラゴンリッターの召還魔法。

 この魔法のおかげでモニカ達と仲良くなることができたが、同時に他者を傷つけることになった。この力を憎みながらもアルマはただ切なる願いと共に魔法を唱える。


 「お手を取りましょう、竜ノ神の化身様。楽器はお持ちでしょうか、火炎の偶像様。譜面はそこに、奏でる音は何処かに。探しません、探しません、ここにございます。ありえましょう、そこにありえましょう。炎は剣となりて、魔の雨を浴びましょう。そこは、寒いでしょう、そこは、辛いでしょう。ここは、侵食する雨の待つ炎。我がここには、魔をそそぐ剣があるだけです。……握手は相応に」


 詠唱はあの時と全く一緒。だが違うのは、湧き上がる自信と確信。


 「来なさい! ドラゴンリッター! 天才魔法少女のアルマ様が呼んだアンタは他の誰よりも強い最強の使い魔よ!」


 魔法陣が崩れ、輝きは粒子に変わり、あるモンスターが顕現する。

 巨大な竜の体に人間並みの知能を備え、右手に持つ剣は戦士としての誇り、左手の盾は主を守るための唯一無二の防御。


 「す、すごぉ」


 あんぐりと口を開いて見つめるモニカの目の前に現れたのは、全長百メートルを超えるほどの巨大な竜の騎士だ。

 従来のドラゴンリッターといえば、人間よりも二回り、大きくても三倍ほどの大きさだ。しかし、今目の前のドラゴンリッターはそんなものではない。神話に出て来るドラゴンとさほど変わらない姿と強さを持っていた。

 おもむろにドラゴンリッターは口を開いた。


 『お主が我を呼んだのか、少女よ』


 「他に誰がいるの? アンタみたいな怪物を呼び出せるのなんて、ここでは私ぐらいよ」


 鋭い眼光なんて言葉が可愛く思えるほどのドラゴンリッターの眼光を前にしてもアルマは悠然と宙に漂う。


 『我はドラゴンリッターの中では、最も神話に近いと呼ばれる存在だ。そんな我を召還したからには覚悟はできておるのか?』


 「はあ? 覚悟? アンタは使い魔で私は主。いいからとっとと働きなさい。人間の女の子達が仲間で他のモンスターはみんな敵。わかった?」


 ぞんざいな返事をするアルマに腹を立てたのか、自分の足元に飛び掛ってきたモンスター達を己の剣で軽く吹き飛ばす。


 『我はドラゴンリッターの中でも神と呼ばれる――!!!』


 「――うっさいわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 『ウギャァオ!?』


 魔力の乗った足でドラゴンリッターの顔面を蹴り飛ばせば、鼻を押さえるドラゴンリッターの鼻の上に着地した。


 「さっきからうっさいわよ! アンタは私が召還したからには、私がご主人様なの! 最初からそう決まっているのよ! それに、私……プリセラおばあちゃんの孫なのよ? アンタの話は昔から聞いているんだから」


 じろりと見下ろすアルマの視線以上に、『プリセラ』という名前にドラゴンリッターには激しく肩を揺らして反応した。


 『な……ぬ……プリセラ……だ……と……』


 よほどショッキングな名前なのか、巨体が小刻みに震えていた。真っ赤な色をした顔をどこか青ざめているようにすら見える。


 「言うこと聞かないなら、おばあちゃんに言いつけるから。それでもいいなら――」


 『――わ、分かった! 分かったから勘弁してくれ! ……まったく、アイツに似て孫も気の強い……』


 「なんか言った!?」


 『ウギャァオ!? 何度も蹴るではない! 鼻が曲がったらどうするのだ!』


 文句を言いながらもドラゴンリッターはアルマを頭部に乗せたままで、戦場に降り立つ。ただそれだけで地面が振動し、モンスター達は体をよろめかせた。


 「さあ、蹂躙なさい! 憎むべき愛すべきドラゴンリッターよ!」


 同時に魔法少女としてのアルマの災害のような攻撃魔法が繰り出される。そして、その合間を縫い、魔力の刃と化したノアの剣撃が周囲のモンスター達を圧倒し始めた。


                  ※


 「すごいな、二人とも……」


 目の前で活躍するノアとアルマはまるで自分とは別の存在に思えた。一応、モニカにもたいぐんスキルを使用して敵と戦う術がある。しかし、それは二人には程遠い力だ。

 この力があるおかげで、二人は自分を気にすることなく思う存分に戦える。自衛をできるようになっただけでも随分と二人の足を引っ張らなくなったのだと思うが、やはり圧倒的な二人の戦いを見ていれば、自分の弱さがひしひしと身にしみる。

 自分を守る盾のようにモニカのたいぐんを設置したモニカは、そっと切なそうに呟いた。


 「私、やっぱりダメだな……」


 「――いいえ、モニカちゃんはダメじゃないわ」


 声に反応してくるりと振り返れば、自分のたいぐんで囲んだ空間の中央だというのに――見覚えのある青の鎧に身を包んだ人物がそこには立っていた。


 「え、先輩……?」


 「はろー」


 いつもの軽い口調で、先輩勇者クルミがそこで呑気に手を振っていた。


 

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