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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
最終章 勇者だから、みんなが甘やかすからなんとかします!
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1話 モニカレベル29 ノアレベル90 アルマレベル92

 村に戻るよりもこのまま抜けた方が早いと判断した三人。その後、洞窟を抜けた先では、鬱蒼と茂る森の入り口が三人を迎えた。ちなみに、最近は万能に磨きがかかってきたアルマが風の魔法を使い、村に伝言を綴った手紙を送り届けた。

 出て来る前も村人達はモニカ達のことを心配し、無事に戻ったら必ず報告するように言っていたが、またおかしな瘴気に当てられて幻影に飲み込まれるよりは数倍良いだろうという考えだった。

 やはり魔物の巣が近いからなのか森はどこか薄暗く、本来なら陽の光が入ってもいい時間のはずなのにのしかかるようなどんよりとした雰囲気が全体に満ちている。それでも、魔物の巣よりも随分と過ごしやすい空気になっていた。そのためか、安堵の息を吐くようなホッとする声でアルマはノアに質問をした。


 「――結局、あの姿て何だったのかしら?」


 問いかけに対し、ノアは渋い顔をしつつ首を捻った。


 「正直、私にも分からん。父か母に魔人の血が流れていて、あの危機的な状況で目覚めたのだろうというのが私の勝手な解釈なのだが」


 「そう考えるが妥当ね。それにしても、よくも今まで魔人として目覚めなかったわよね」


 うーんとノアは唸りつつ、自分の角が生えていたところを撫でたり髪の毛を触ってみるが、今のままでは到底自分が魔人になっていたとは思えない。少なくとも、外見上はノアは間違いなく人間の姿をしていた。


 「あの時の私の精神状態は普通じゃなかった。混乱していて苦しくて、どうすればいいのか混乱しながら戦っていた。……たぶん、あの洞窟の魔力と心身の状況が相まって、魔人になった……。たぶん、そんな感じだ」


 「たぶんて、アンタ……。これ、割ととんでもないことよ?」


 「そうは言うが、私の体には何も異常はない。むしろ、強くなったことを喜んでくれ」


 魔人と人間で血で血を洗うような争いをした過去を知っているアルマは、腕を組みながらノアをじろじろと見る。アルマの脳裏には、ある戦争の名前が浮かんでいた――。

 ――魔人侵略戦争。百年以上前、人類を滅ぼそうとした魔人達が起こしたものだった。

 悲惨な戦争の歴史は過去の文献に触れれば、必ずといっていいほど目に付く。魔人達の悪行、人間達の絶望の日々、それから希望。そこには、ただただ世界規模での殺戮が行われていた。魔人だろうが人間だろうが、大勢の者達の涙が流れた戦争だった。

 アルマの目にはノアを嫌悪する視線はないものの、どう扱っていいのか分からないといった様子だった。魔法使いの本質である研究願望が疼くのか、頭の先から爪先まで興味深そうに見つめる。


 「私は、何か変なのか……」


 不安そうにするノアに気づき、アルマは言葉を探そうとする。


 「あ……!? い、いや、ち、ちが――きゃああああああああああああ!!!」


 「ノアちゃんをイジメちゃ、イカンよ! アルマちゃん!」


 慌てて謝罪の言葉を告げようとしていたアルマの胸元を後ろから駆け寄ってきたモニかががっしりと掴めんでいた。大きくもなく小さいわけでもない二つの膨らみを、わしゃわしゃと上下に動かしたモニかにアルマはとりあえず肘鉄をくらわせた。


 「――ふにゃぁ!? い、いだいよ、アルマ……ちゃん……」


 「うっさいわ! どちらかといえば、被害はこっちの方がデカイわよ!」


 「だ、だって……。ノアちゃんはノアちゃんなんでしょう? だったら、もうこれ以上話をしなくてもいいかなって……」


 「……モニカ」


 涙目でアルマの肘の先をまともに受けたおでこを撫でるモニカの一言を聞けば、アルマの肩に入った力が抜けていく。ひたすらに一生懸命なモニカをその目に、アルマは薄い笑みを浮かべて溜め息を吐いた。


 「私が悪かったわ。ノアはノアだもん。例え、腕が百本になろうが頭が三つになろうが性別が変わろうが……。いや、性別が変わったら確実にノアは犯罪ね。……うん、まあとにかくノアはノア」


 「そうだよそうだよ!」


 「私だって、ノアをどうこうしようなんて考えていないわよ。ちょっと、知的好奇心が刺激されっていうか……。とにかく……二人とも、ごめんね」


 モニカに胸を触られたことが影響しているのか、それとも、素直に謝ることが恥ずかしいのか淡く頬を朱に染めながらアルマがそんなことを言う。それを聞き、満足そうにうんうんうんと頷くモニカ。

 二人を見ていたノアは目を細めて笑う。ノアも考えて続けていたのだ。忌むべき力だとしても、それの扱いさせ間違わなければ、きっとそれは勇者の力にも等しいものではないのかと――。


 「ありがとな、モニカ、アルマ。いきなりこんな大きな力を手に入れて、扱いに困っているが、この力は絶対に悪いようにはしない。世界を救うため、二人を守るため、大切な人達の笑顔のためにも……呪われた力すら使いこなしてみせるさ」


 モニカとアルマが目を合わせて笑い合うが、直後、アルマは真顔でモニカを見た。


 「どど、どうしたの、アルマちゃん……?」


 「今度、いきなり胸を触ったら許さないから」


 「で、でも、女の子同士だし、それぐらい笑って「モニカのやることだし、仕方ないわねー!」なんて言って流してくれれば……」


 「なにそれ、私の真似? 全然似てないんだけど」


 「……」


 「……」


 「も、もしも、またしたら……?」


 「消し炭にするわよ」


 「あはは……アルマちゃんたら、そんな怖いこと言わないでよ。今の冗談、少し怖いよ! そんな顔してたら、子供寄ってこないよ?」


 「……」


 「……え、本気?」


 頷きもしない返事もしないアルマの顔を見ながら、同性とはいえ触れてはいけないラインがあることをしっかりと学んだモニカだった。



                 ※



 それからモニカ達は、ずっと森の中を進んだ。

 最初はモンスターや動物達の鳴き声が聞こえていたが、奥に進むに従って少しずつ声は遠退いていった。

 ノアの母親が託した言葉を頼りに進めば進むほどに、森は静かになっていく。この森に住む生物達が、モニカ達の目的地からあえて遠ざかっているようにすら思える。

 三日の野宿を挟んだモニカ達は、この森の終わりが近づいてきていることを予期していた。獣道だった森の中は少しずつ歩きやすくなり、綺麗な川の水も流れている。アルマが調査したが、魔力の瘴気に侵されていないため人体に悪影響はないそうだ。

 奥に進むほどに人が住むやすい環境になっていることを内心不気味にも思うが、それでも積み重ねた旅の経験が三人を引き返すような思考にさせることはなかった。

 そして、四日目。河原で野宿をすることを決めた三人は食事も終わり、ゆったりとした時間を過ごしていた。

 見上げた空には、電気の灯りよりもずっと眩しく温かい星空達が照らしていた。


 「随分、遠くまで来ちゃった気がするな」


 夜空を見上げていたモニカがそんなことを呟けば、ノアとアルマは不思議そうに視線を交わした。


 「どうしたの? いきなり」


 何かに役立つのではと使えなくなったマキア石に魔力の補給をしていたアルマがモニカに言えば、首をゆっくりと横に振った。


 「ううん、なんとなく……。ここは遠い場所なんだなて思って」


 モニカの顔は空を見上げたままで、地面から飛び出した石の上に腰掛けた。

 マキア石の灯りを頼りに剣の手入れをしていたノアは目でモニカを追う。


 「そうだな、私達三人は誰一人してこんなところまで来たことはない。気づいたら、ここまで来ていたんだ……。不思議だな、顔も名前すら知らない私達が、旅をしてモンスターと戦って、誰も知らない辺境の土地まで来ているなんてな」


 三人の顔に後悔なんてなく、ただ今のゆったりした時間を心地よく感じていた。旅はまだ終わっていない。しかし、何かが終わりに向かおうとしている。そんな直前の空気感をまどろむように楽しんでいた。

 夜空に手を伸ばし、モニカは頬を撫でる夜風に目を細めた。


 「この旅が終わったら、私て元の世界に帰らないといけないのかな」


 モニカの呟きを耳にしたノアとアルマは視線を落とした。それを全く考えてこなかったわけではないが、ドタバタとした毎日が忙しく大変で、それでいて楽しかったのだ。だから考えられず、そして考えないようにしていた。


 「……ずっと、ここにいなさいよ」


 アルマの声を耳にしたモニカは口元を緩めた。


 「えへへ、うれしいなー。前にいた世界は、ちょっと息苦しくて、静かにしていると潰されそうで、目を閉じていても聞きたくない音がたくさん聞こえていた……。でもね、この世界に来てからは、そういうことはなくなったんだ。たぶん、それはノアちゃんとアルマちゃんのおかげだよね。……うん、やっぱりこの世界にいたい」


 「そうだ、ずっとここにいろ。勇者なら、きっとこの大陸どころか世界中で歓迎される。一生遊んで暮らせる。そうしたら、もう傷つく必要も誰かを傷つけることもなくなる。モニカにとって、それが一番の幸せだろう?」


 「幸せか……」


 そこでもまた、えへへ、と笑ったモニカは空気に波紋を響かせるように声を発した。


 「わがままを言うなら……。そこにノアちゃんとアルマちゃんがいてくれないと意味がないけどな……」


 切なげな声がノアとアルマの耳を打てば、二人は夜空に伸ばしたモニカの手を己の手で包み込んでいた。

 はっとした表情でモニカは目を開ければ、横に立つ二人の顔を見た。


 「いるさ、ずっとモニカの側に」


 短い言葉のノアの一言は何よりも重く優しく、


 「バカ言うんじゃないわよ。世界はもっと広いのよ? アンタ勇者なんでしょう? もっとたくさんの人を助けて、もっとたくさんの人を幸せにして、三人で旅を続けていくに決まっているじゃない」


 少しだけ充血した目で告げるアルマの言葉は温かく希望に満ちていた。

 モニカは空いた手を伸ばせば、包み込んだ二人の手の平に自分の手を重ねた。


 「……そうだよね、私達の冒険はずっと終わらないんだ」


 「当然だ」

 「愚問よ」


 やっぱり二人は仲良しなんだな、とモニカは微笑ましく思いながらぎゅぅと握った手の平に力を込めた。


 「行こう、終わらない冒険を続けるために……この旅を終わらせよう」


 ――翌日、モニカ達はこの河原から数百メートル先の崖の上から目的地となる城を見つける。

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