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4話 ノアレベル40

 しばらく次の行動をどうしようかと悩んでいたノアだったが、周囲に他には何も見当たらないため仕方なくリオラ村に向かうことにする。

 歩いてみた空気感は本物に近い。まさか、強制的にここまで飛ばされたのだろうか。もしそうなら、モニカもアルマも同じようにどこか遠くに放り出されている可能性がある。だが、ただ洞窟から飛ばすだけなら、わざわざリオラ村には飛ばす必要はない。これには、きっと何か意味がある。

 得体の知れない場所から突然の見知った場所。出来事の唐突さが薄気味悪さを与えながらも夢の中にいるようなふわふわした感覚でリオラ村に辿り着いた。


 「……変わった様子はないな」


 見覚えのある青年が牛車を引き、老人達が家の前に集まり最近の出来事をきっかけに思い出話に花を咲かせている。変わらない光景がそこにはあった。

 ここまで来たら目指す場所は一つしかない。

 ノアは真っ直ぐに、自宅の方へと向かった。この異常事態の抜け穴でも見つかると思ったが、やはりそこも変わらない我が家があるだけだ。

 それでも懐かしく思いながら、ノアは扉に手を触れる。一瞬の躊躇いの後、扉を開いた。


 「――あ、お姉ちゃんおかえり!」


 扉の開く音に反応して振り返ったルルが笑顔で駆け寄ってくれば、その後からイムもやってきた。


 「おかえりー」


 「……ああ、ただいま」


 変わらない。それこそ、ノアが旅なんて出ていないみたいな様子でルルとイムが当たり前に話をしてくる。


 (やはり、これは幻なのか……)


 状況が状況だからなのか頭痛までしてきた。こめかみを指で押さえる姉を見たからか、イムが心配そうに顔を覗きこんでくる。


 「どうしたの、お姉ちゃん? 頭、痛いの?」


 「いや……そうじゃないが……。お父さんは、どこにいるんだ?」


 心配してくるイム。それこそ、ノアがよく知っている姿だった。

 ずっと見たかった家族の顔なのに、どこか作りもののようにも見える。おかしいのは自分なのか、それとも――。


 「――おお、ノア帰ってきていたのか」


 聞き親しんだ声に振り返れば父が帰宅したところだった。そこにもいつも通りの笑顔。そう、ノアが旅に出る前のような変わらない表情がそこにはあった。

 ここまでくると、やはりおかしいと思えた。この世界は何かおかしい。


 「お父さん……。これは、どういうことなんだ……」


 「ん? 何を言っているんだ、ノア。お前は森に木の実を取りに行ってきたんだろ?」


 「は? いや、私はそのような――」


 父の言葉が絡みつくように、ノアの右腕がぐっと重たくなった。何も持っていなかったはずの手の中には、枝を編んで作られたかごが握られていた。そして、その中には重さを感じさせるほどの量の木の実が入っていた。

 それを見た瞬間、何か喉に刺さった骨のようなものが抜けた気がした。


 「――そうだったな。今日はよく熟した木の実がたくさん採れたよ」


 かごを傾けて、父に中身を見せれば大きな手でノアの頭をごしごしと撫でた。

 久しぶりに撫でられたことで、ノアは少し恥ずかしくなりながらもかごをテーブルの上に置いた。


 「でも、何か足りない気がする」


 呟いてみるが、その足りないものが出て来ないノア。

 何か欠けてはいけないものだったような、とぐるりと家の中を見回す。一緒に考え込んでいた様子だった父は合点がいったようで「ああ」と声を漏らした。


 「ノア、忘れたのかい? 今日は昼から用事があるて言ってたじゃないか」


 「用事……」


 「そうだよ、用事さ。ほら、ノアがグズグズしてるから、あっちから来てしまったよ」


 ノアの父親が指をさせば、近づいてくる人物にノアの鼓動が跳ねた。その姿を見た刹那、視界を曇らせていた霧がぱぁと晴れたような気がした。


 「――モニカ。……おまけにアルマ」



                 ※



 ノアとモニカとアルマは、昔からの幼馴染だ。

 この村でのノアとの同世代といえば、この二人しかいないため、自然と仲良くなった。何をするにも三人一緒で、それこそ姉妹のような関係で育ったのだ。

 今日もいつものように集まれば、アルマの家に向かう。

 アルマの祖母は、どこかの有名な学校の校長先生をしていたらしくその関係で家にたくさんの本があるのだ。そうした、様々な本を利用した勉強会が定期的に開かれる。率先してアルマが教えてくれる理由は、祖母と二人暮らしをしている影響のためか、そうした本を読み漁っているからだろう。比べようがないが、アルマの教え方の上手さならならどこかの学校で子供達の先生をすることもできるのではないかとすらノアには思えた。


 「えー、お勉強するのー? 他のことして、遊ぼうよ。――あいたっ」


 唇を尖らせるモニカに、アルマは軽くチョップをする。


 「ブツブツ言うな。これは、モニカのためでもあるんだから。いろんなことを勉強しとけば、困った時に絶対に役に立つわよ。やらないで後悔する暇があれば、やりながら悩みなさい」


 「ぐぬぅ……。このモンスター! オオグ! おばあちゃんっ子!」


 「最後のは全然悪口じゃないわね……」


 賑やかな声を上げながら進むモニカがくるりと振り返る。


 「ねえねえ、ノアちゃんからも何か言ってやって!」


 「はあ? 何を言っているのよ。ノアは勉強肯定派だったはずでしょう?」


 突き刺さるような二人の視線にノアは顔をしかめた。

 こういう時の二人は実に厄介だ。

 モニカの味方をすれば、この後の勉強会が極端に厳しくなる恐れがある。しかし、逆にアルマの味方をすれば、半日ほどモニカがいじけてしまう。

 悩むのは三秒ほど。ノアは駆け足で二人の脇を通り過ぎる。こういうときは、どちらも選ばないことが一番だ。


 「それじゃ、競争しよう。ビリだった奴は、一位になった人間の言うことを聞くんだぞ!」


 駆けて行くノアの姿をぽかーんと口を開けて見ていたモニカとアルマは慌てて背中を追いかけた。


 「ちょっと待ちなさいよ! いきなり、なんなのよ、もう!」


 「ひーん! ノアちゃん、絶対に私がビリになると分かってるよね! 前みたいにぬぎたての下着をくれとか半日スカートの下からのぞかせてくれとか、一方的な接触の多い添い寝をしてくれとか言うのはやめてー!!!」


 先頭を駆けて行くノアの口には笑みが浮かんでくる。

 毎日繰り返してきた日々のはずなのに、なんだろうか込み上げて来るこの幸福感は。理解のできない喜びの嬉しさの中で足を急がせるノアは、ありのままの少女の顔をしていた。

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