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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
第七章 魔法学園~アルマによるキミに捧ぐレクイエム~
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9話  モニカレベル29 ノアレベル40 アルマレベル42

 「はあぁ!? 学園で襲われたですって!?」


 翼を生やした女子生徒に襲われたその日の夕方、定時連絡のために学園にやってきたアルマは、モニカとノアから学園で起きた出来事を聞いた途端に大きな声を発した。

 場所は学園の中庭で人通りも多いため、咄嗟に自分の口元に手を持っていくアルマ。「ちょっと来なさいよ」とモニカとノアの手首を掴んで影の方へと向かう。


 「こんな暗闇に連れ込んで何するつもり……!?」


 「いつも隅に来てるでしょう!? 後、こんな時に冗談言わないのっ」


 てへへ、とモニカは苦笑いをして頭を掻けば、三人で円を囲むように立つ。


 「おばちゃ……学園長にはもう話はしたの?」


 「一応な」とノアが神妙な顔つきで答えれば、話を続けた。


 「学園長と他の先生達を呼んでから襲われた空き教室に向かったら、もうそこには誰もいなかった。それどころか、私達が争った形跡すら残っていない。おそらく――」


 「――内部の人間が何らかの手を貸しているわね」


 ノアが結論を声にするよりも早く、アルマがはっきりとした口調で言った。


 「そうだ、それかその人間そのものが犯人なのかもしれない」


 「まいったわ……。まさか学園内部にいて、モニカ達が調べていることにも気づいているなんて……。私達のことを知っているのは、一部の先生だけだから、その辺りが怪しいかもしれないわね」


 最も安全な場所だと思っていた学園が危険な場所になっていたことを知り、アルマは沈んだ表情で自分の額に触れた。じんわりと滲む油っぽい汗を触れていた手で拭えば、質問を続けた。


 「とりあえず、犯人が直接的な行動をとってきたことで随分と容疑者は絞れたわ。同時に犯人が魔法使いであることが確定しちゃったけど……。でも、一度動いてしまったの以上、あっちもわざわざモニカを誘い出して襲ってきたなら、学園内で大々的に動くのは避けたいのでしょう」


 「少なくとも目立つような場所では襲ってこないだろうな。この辺で学園の潜入はやめておくか? またいつあの鳥女に襲われるかも分からんからな」


 ノアに問いかけられたアルマはすぐに返事をすることはできず、視線を下げて口を閉ざした。そこで、モニカはまるでアルマの考えていることを読んだかのように挙手をして喋り出した。


 「はい、アルマちゃん。私のことを心配してくれてるんだね」


 「……そうよ、悪い?」


 真っ直ぐに見つめてくるモニカから顔を逸らしつつ、ぶっきらぼうに言うアルマ。素直に気持ちを聞けて、モニカは嬉しそうに笑う。


 「悩んでいるてことは、私とノアちゃんは学園に残って調査した方がいいってことだよね。また襲われて何かあったら……なんて思わないで、私を信じて。こう見えても、今回はちゃーんと私の力で乗り切ったんだから」


 えへん、と胸を張る姿はまるで親の手伝いをした子供が自分の自慢をしているようにも見える。だからこそ、そんな風に言うモニカの姿は自分の緊張感をほぐしてくれる。子供染みた仕草が、今の状況すらモニカにとっては大変でもないように聞こえてしまう。


 「ノアちゃんも、それでいいかな?」


 「私はモニカに従うだけだ。……アルマもそれでいいか」


 この中で一番モニカを学園から遠ざけたいはずのノアが、感情を殺してアルマを見ながら言った。

 誰かが誰かを想っている、だからこそ、悩んでしまう。アルマはそれに気づきつつも、今この関係を形成している信じるという行為に賭けてみようと思った。


 「……分かったわ。だけど、二人とも無茶はしないでね。今のところは無理はしないつもりだけど、今夜は魔法を使ってこの町を調査してみようと思うから」


 モニカが深く頷けば、それを見たアルマも小さく頷く。そして、とてとてとモニカがアルマに駆け寄れば、その体をぎゅうぅと抱きしめた。


 「がんばれ、がんばれ、アルマちゃん」


 「ばか……恥ずかしいじゃない……」


 「でも、本当に無理しちゃヤだよ?」


 「うん……気をつける」


 囁きかけるモニカに対して、アルマは頬を赤くして小さく呟いた。普段なら、嫉妬に狂ったノアが殺意を飛ばすところだが、今日のノアはただ静かにおうえんスキルを使うモニカと抱きしめられるアルマを見つづめ続けていた。



                 ※



 「さてと――」


 時刻はもうすぐ日付をまたごうとしている。人通りがほぼ皆無といっていていい街中でアルマは、杖を担いで歩いている。

 点々と続くマキアによって作られた外灯のおかげで表通りは深夜でも明るく見えるが、少し裏路地に目をやればそこにはぽっかりと暗闇が口を開いて待っている。きっとこういう闇の中に、ケダモノは潜む。全神経から魔力を放出させて、ぷかぷかと漂い浮くこびりついた油汚れのような魔力の残滓を辿る。


 「好調ね。やっぱりおうえんスキルがあると探しやすいわ」


 クリムヒルトには無数の魔力が漂うが、その中でも違和感のある魔力の残滓。このクリムヒルトの町の中で魔力でできた煙が漂っているとしたら、一箇所だけ色の違う煙が視認できるような状態だ。

 近くまで接近できたこととアルマの特出した魔法への知識が、怪しげな気配の漂う場所を示した。

 敵の位置は近い、走るスピードを上げて角を二度ほど曲がる。路地裏の階段をこけないように気を使いつつ、何段も飛ばして駆けた。そして、濁った魔力の発生源まで辿り着いたそこは、外灯一つない開けた場所。


 「――見つけたっ!」


 杖を巧みに振り回し、怪しげな人物の前に立つ。一瞬だけ、その人物は驚いたように口を開いたが、すぐに閉じた。

 その人物はローブを頭からすっぽりと被り、見え隠れするのは学園の制服だ。モニカ達から聞いていた人物像と一致する。どうやら、これが鳥女であることは間違いなさそうだ。

 間隔はそれなりに開いているし、魔法を使うにはそれほど時間はいらない。おうえんスキルもまだまだ維持できる。相対する鳥女は、逃げることも襲うこともせずにただ黙ってアルマを見つめていた。


 「これ以上、町の人達を傷つけさせないわ! 降参しないなら、痛い目にあってもらうわよ」


 鳥女は両手を広げれば、その手の中から魔力の粒子が流れ出す。その粒子はあっという間に二体の獣を出現させた。その獣は、アブソリュート状態になったモニカがクリムヒルトにやったきた日に倒した怪物と同種の生物だった。

 前にモニカはその生物のことをネコと呼んでいたが、目の前にいるのはまんま翼の生えた虎だった。それもとてつもないほど鋭利で長い二本の牙を携えた。


 「ああそう、話をする気はないってわけね。いいわ、覚悟はできていたから。夜道で人を襲うやつが、はいそうですかて簡単に降参するわけないわよね! その手品の秘密も後でゆっくり聞かせてもらうから――!」


 無理をすることになることを心の中でモニカに謝りつつ、杖の先を前に突き出せば、そこから二次元的な円と記号が溢れ出せば魔法陣が完成する。属性は風、何か戸惑うようなことでもあるのか魔法陣が完成し杖を横に引いた段階でやっと二体の獣が動き出した。

 

 「遅いわよ! ――リベルトウィンド!」


 剣を振るうように薙いだ杖が魔法陣に触れれば、真空の刃が獣の一体を切り裂いた。同時に二体を切り裂き、召還魔法と思われるものを使用した鳥女まで真っ二つにする予定だったが、獣は宙に浮き鳥女はその背に乗っていた。そこでやっと、一匹を囮に使ったことに気づいたアルマは前方向に転がるように飛び、宙で体を反転させれば強引に上を向いた。


 「こう見えても場数はこなしているのよっ――! フレアッ!」


 アルマは知っていた。どれだけ下位の魔法だとしても、強く練りこんだ魔力と共に放てばそれは上位魔法に匹敵するほどの威力になると。

 最高最大級の魔力を危険を考えるよりも早く詠唱する。完成した魔法陣は発生させる攻撃魔法の威力を物語るように色は赤くギラギラとしていた。待ちきれないとばかりに下位魔法であるはずの火球魔法が砲弾のように轟音と立てて鳥女を乗せた獣の腹部に直撃した。

 絶叫し、獣は地面に落ちて行くのを横目にアルマは背中から地面に衝突する。一瞬だけ肺から息がこぼれるが、それでも今は戦闘中だ。すぐにでも戦う準備を始めるために、無理やり肺に空気を吸えば立ち上がった。

 次に詠唱する呪文は身体強化の呪文。全身を鉄のように体を強固にするもので、それを利用しつつ鳥女を追い詰めるつもりだ。鳥女に気づかれないように、声に出すことはなく全身に防御魔法を纏う。


 「どこ……上……!?」


 顔を上げれば、頭上から矢の降り注ぐ羽の雨に気づき咄嗟に杖の先を頭の上に向けた。


 「正直、これ使うの悔しいけど、ジグマフォール!」


 少し前に自分達を襲撃した魔女の顔を思い浮かべつつ、視認することのできない魔力でできた透明の壁を出現させれば、刹那、羽の刃が壁に直撃する。羽と魔法の壁がぶつかり合い、カンカンと音を立ててる音を聞けば壁が壊れるのではないかと体の芯がゾッとする。


 「――ちょうど良かった」


 いつ終わるのかも分からない刃の雨の中、アルマは声を聞き自分が判断を間違えていることにようやく気づいた。

 視線を横に向ければ、拳を握り翼の生えたの鳥女がそこにはいた。肌も髪も爪もあまりに白過ぎる肌の鳥女。月を背に立っているせいで顔がはっきりと見えないがモニカ達から聞いたのと大体一緒だった。

 鳥女は拳を腰まで引いた。


 「本来の私の力では、強過ぎて骨が折れちゃうかもしれないから……強化魔法使った今ならちょうどいいよね?」


 「なっ――!?」


 その時、自分が何を言おうとしていたのか一秒後には忘れてしまった。それほどまでに、激しい衝撃がアルマの腹部に訪れた。強引に口から息が吐き出され、体をくの字に曲げたアルマはよろよろとその場に膝をつく。

 鳥女は羽を頭上に飛ばして、それがアルマに落ちるように計算していた。そして、頭上にいると勘違いしていたアルマの様子を見ながら攻撃してきたのだ。しかし、それにしては一つだけ引っかかる点がアルマにはあった。ただ、それを問うために喋ろうとするが息が漏れるだけで声が出ることはない。さらには、意識もどんどんと薄くなっていく。


 「おやすみなさい、そして……ごめんなさい」


 アルマは自信の体にかけた身体強化の魔法が解けるのを感じつつ、相手がどうして泣いているのか、この違和感は何なのか。それを問いかけることもできないまま、アルマの意識は深い深い闇に沈んでいった。

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