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ダメ勇者だけど、みんなが甘やかしてくれるからなんとかなってます!  作者: きし
第七章 魔法学園~アルマによるキミに捧ぐレクイエム~
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6話  モニカレベル29 ノアレベル40 アルマレベル42

 魔法学園の塔から鐘の音が鳴り響き、新しい朝を知らせる。そして、学園には新しい夜明けと共に新たな生徒が現れた。魔法学園一年、美しい銀髪の彼女の名前は――ノア。

 どちかというとあまり外で活動することの少ない魔法学園の生徒達からしてみれば、ノアの存在は良い意味で異質だった。

 長い手足に、整った顔立ち。少し男性のような言葉遣いが、女子生徒の心を鷲づかみにした。一週間という短い期間で、その人気は同性だけではなく、整った顔立ちがノアのイメージアップに大きく貢献し、異性からの人気も同姓を追いかけるように増していった。当初は心配していた魔法ができないことなどお構いなしに、ノアはクラス人気者の地位を確立しようとしていた。

 

 一方、その頃。モニカといえば――。


              

                 ※


 魔法学園のとある廊下。長い廊下では左右に一メートルはない間隔で扉が並ぶ。たまに扉が開いては、そこから生徒が出て来るところを見れば、どこかの教室と繋がっているようだが、モニカにはそこがどう繋がっているのかなんて分かりようがない。モニカは教室に入ることはできないのだから。しかし、鎧と剣を外しただけのその格好でしっかりと魔法学園にいるのも事実。


 「あ、すいませーん」

 

 一人の女子生徒が、ある教室の扉の前で体育座りをしているモニカへと駆け寄って来る。


 「うん? にゃーに?」


 腰を浮かして女子生徒の前に立つモニカ。女子生徒は自分の頭一つは低いモニカに四角形の封筒を両手で差し出した。


 「こ、これ、受けとってください!」


 恥ずかしそうに全身を震わせながら、自分の宝物でも差し出すような女子生徒。モニカはぎょっとしながらもその姿を二度見する。


 「こ、これ私に……!? で、でも、女の子同士だから――」


 「――ノアさんに渡してください! お願いします!」


 「……そんにゃことだろうと思ったよ。いや、貰えなかったことを残念に思っているわけじゃにゃいんだけど……」


 自分が彼女達に尊敬されるような立場でないことをモニカは百も承知していた。しかし、モニカ自身が目立つようなことをしていなくても女子生徒にノアの関係者だと認知されている理由はよく知っている。


 「お願いします! ――ノアさんの使い魔さん!」


 「……にゃ、渡しておくね」


 既に自分のポケットの中には何通というノアへのラブコールが書かれている手紙を受け取っているが、それでも女子生徒から手紙を受け取れば一際黄色い悲鳴を上げて廊下の隅へと消えていった。

 一体、この廊下の先はどこに繋がっているんだろうか、と不思議に思いつつ、モニカは自分の頭に生えた――真っ白い毛色のネコ耳をぽりぽりと掻いた。

 どうして、モニカがノアの使い魔なんてやっているのか。それは転校する直前まで話は戻る。




                 ※


 学園長室にて、対面するプリセラとモニカ、そして制服に着替えたノア。制服とはいっても、そのままアルマと同じ格好というわけではなく、ローブの下は普通にスカートにブレザーといったどちらかといえばモニカの世界の女子高生が着るようなデザインだった。


 「――えぇ!? 私がノアちゃんの使い魔に!?」


 学生以外の方法でどのように入学するのだろうと思っていたモニカは、プリセラから告げられた予想も出来ない提案に悲鳴に近い声を発した。

 決まりが悪そうにプリセラは机を挟んで見つめ合うモニカから顔を横にして、深く溜め息を吐いた。


 「……えぇい、確かに私もおかしなことを言おうとしているのは分かっておるわい。じゃがのう、生徒としてではなく学生寮に住まわせて、なおかつ何の制約もなく自由に学園内を動こうと思えばこれぐらいしか方法はないんじゃよ」


 プリセラに使い魔と言われたことで、モニカの思い描く使い魔的なキャラクターのイメージが脳内に浮かぶ。

 使い魔って、あのボロ布を着た鼻の長い小人みたいなやつとか……アレは嫌だ。そこまで考えて、ある疑問が脳裏を掠めた。


 「ちょ、ちょっと待ってください! 使い魔て人間がなれないものですよね! そんなことしたら、ほぼ奴隷と一緒てことになりますよ!」


 「私はそれでも構わない。モニカが奴隷なら優しくする」


 「……ノアちゃん、少し黙っててね」


 珍しくモニカが怒りを強引に押さえ込んだような笑顔をみせる。さすがのノアも不機嫌なモニカとは過ごしたくないので、ぐっと頭の中に浮かんだ奴隷モニカの妄想を黙っておくことにする。


 「安心せい、その辺の心配はしなくていい。変装させるから、問題なしじゃよ」


 話をしながら椅子に座り机の引き出しを漁るプリセラは、まるで他人事のようにも見える。


 「い、いや、そういうことじゃ……。て、変装!? 私、半裸の小人みたいなのになるのは嫌ですよ!?」


 「半裸の小人……? まあ待て、そんなものではない。私が昔、孫に使おうとしていた魔法薬がある。それを使えばたちまち愛らしい人外娘へと変身じゃよ」


 「うっ……学園長さんがアルマちゃんに飲ませようとしていた物なら、安心はできますけど……」


 「では、早速。こいつを飲め飲め~」


 机の上に置かれた小瓶の中には、一見すれば飴玉にも見える綺麗な青色をした球体が瓶いっぱいに入っていた。


 「これ、なんですか……」


 怪しすぎる薬に指差すモニカを安心させるように、ぽんぽんとモニカの胸元を叩くプリセラ。安心するどころかむしろ唐突なセクハラをさらた気分になりつつモニカは、その小瓶を手にとる。重たくもなければ、軽過ぎるというほど重量を感じないわけではない。やはり見れば見るほど、オシャレな高級菓子に見える。

 あまりに不審そうに眺めるモニカを納得させるようにプリセラは口を開く。


 「それを飲むと一日だけ、変身ができる。とは言っても変化は一箇所だけ――頭に猫耳が生えるんじゃよ」


 「「――ネ、ネコミミ!?」」


 「……て、何でノアちゃんまで驚いているの」


 「いやなに、やはり魔法学園の学園長というのは発想すらも天才的だと関心していたところだ」


 一旦、ノアの感想を無視してプリセラに視線を送るモニカ。


 「な、なんで、猫耳を付ける必要が?」


 「猫耳を生やすことで、少なくとも人間には見られない。実際にお主の体から直接生えることになるから血も通っておるぞ。大陸のどこかには、そうした種族もいるらしいが、この町で実際に見たことあるやつなんて誰もいない。人間の姿を変えることなく、なおかつ猫耳という付加価値をつけることできる。これ以上に、この状況を打開できる方法なんてはありはしないじゃろう」


 どうだ、思い知ったか。と言わんばかりの顔で、そんなことを言うプリセラ。正論のようで何か間違っているような気がする。これが正しいのかと考え込むモニカを力いっぱい後押しするように肩に手を置くノア。


 「グズグズしている暇はないぞ、モニカ! 早くするんだ、早く、猫耳モニカに変身するんだ!」


 「そうじゃよ、全力で拒否をする孫の代わりに年寄りの願いを叶えておくれ! ……ケチケチすんな、ここまでやってやったんじゃから。これぐらい、少しぐらいいいじゃろ」


 「二人ともがっつき過ぎ!? ていうか、学園長さん、最後の方とんでもない本音が出てますけど」


 急かす二人に引いたりもするが、確かにこれ以外に方法がないのも事実。少し、モニカは猫耳について考えてみることにする。

 元の世界なら学校で猫耳を付けて登校をしてくるなら、凄くイタイ子だ。しかし、ここは異世界。そんな光景も普通かもしれない。何より、猫耳というのも何だか興味はある。少しだけ、ほんの少しだけだが。何だか可愛いし、違う自分にもなれそうな気がする。うん、きっといいんじゃないんだろうか。

 半ば無理やり納得させつつ、モニカはその小瓶を受け取れば球体を一個手に取り口に放り込む。プリセラとノアからは何故か歓声が上がった。

 意外と大きな口中で溶けていくその塊を舐めながら、モニカはプリセラに問いかける。


 「ところで、どうしてこんな物をアルマに飲ませようと思ったんですか?」


 「――かわいいからじゃよ。それ以外に理由あるか」


 アルマに同情しつつ、モニカは口の中でその球体を舐める。どうやら、この砂糖をかじったような甘さはアルマ用に改良されているようだった。そして、薬を舐め終わる頃には、雪のような白さの二つの耳がぴょこぴょこと動く猫耳モニカが誕生した。


 「モニカアアアアアアァァァァァァ!!!」


 と言いながら鼻血を噴出させて、自分の背中の方へとひっくり返るという芸を披露したノアは見事魔法学園の朝礼に遅れることとなる。



                 ※


 学生寮での昼食を食べ終わり、中庭のベンチの隅は昼休みの時間帯はその周囲が影になるため、利用者はほとんどいない。中庭を利用するにしても、こんな薄暗い場所を好んで利用する生徒はほとんどいないだろう。そして、そんな辛気臭い場所に腰掛けるモニカは深い溜め息を吐いた。


 「はあぁ」


 昼食の後に、ノアに話かけてくる何十人という生徒を断り、モニカとノアは二人で昼休みを過ごす。猫耳の生えたモニカの頭を執拗に撫でてくるノアは実に幸せそうである。

 一応、ここは情報交換をする場ということになっているが、意見を交換することもできずに時間だけが過ぎていく。


 「どうした、モニカ? もっと、にゃんにゃん聞かせてくれ」


 「好きで言っているわけじゃないにゃ。この耳が生えたら、勝手にこんな喋り方になっちゃったんだにゃぁ」


 「……かわいいな、モニカ」


 「ううぅ……、どうしてこんにゃ喋り方に……」



 頭を撫でるどころか頬ずりまでしてくノア。

 モニカとノアが魔法学園に通うようになった後、いくつもの使い魔を見てきたが、そのどれもがご主人様である生徒から愛情を与えられていた。共に信頼し、共に助け合い、共に慈しむ。凶暴そうな三メートルはある四足歩行の狼のようなモンスターが授業中に一切微動だにせず背筋を伸ばして飼い主を待っていた姿には、さすがに驚いた。ああいう種類のモンスターは全て反射的に人間を襲って来る印象があったモニカには、人うまく共存する姿にはなおさらびっくりとする光景だった。

 お互い思い出していた光景が一緒だったのだろうか、ノアがふとしみじみと声を漏らす。


 「それにしても授業中に私を待って、終わった後に他の使い魔と一緒にやってきてくれるモニカは本当に可愛かったよ」


 「……にゃんですと? にゃんか、私いつの間にか使い魔に近づいていっているのかにゃ?」


 「うひぃ、可愛いな! 涎が出て来そうだ!」


 「あぁ……。じゃあ、この耳先に付いている生温かいのノアちゃんの涎なんだ……」


 体の一部に唾液をかけられているというのに、あまり大きな反応をしないのにも理由がある。モニカの脳裏には、ここしばらくの苦労が回想される。

 正直、これはまだいい方だ。一応、ベッドが二つあるのだが、「うっかり間違えた」と言ってノアはモニカのベッドの転がり込んでくる。息を荒くしながら、はあはあと耳元や首筋に熱い息がかかってくるところで飛び起きるのだ。外で使い魔をしているため、部屋の中が一番落ち着くはずの場所であるはずが、部屋の中が一番緊張感のある場所になっていた。そんな生活を一週間も続けているせいか。ノアの変態的な行動にも随分と慣用的になってきた。もしかしすると、これも使い魔に近づいている証拠かもしれない。

 凹みそうだが、とりあえず本題に入ろう。話をもう少し真剣なものへと方向転換しよう。


 「と、とりあえず、本題に入るにゃよ? 昨日、ノアちゃんが授業を受けている間にアルマちゃんに会ったんだけど、この一週間で既に三人の人達が襲われているんだって」


 「三人も……」


 モニカの話を聞き、頬ずりしていた顔を離してモニカをぎゅっと抱きしめるノア。とりあえず、ここで下手にツッコミをしていると時間が無駄なので話を続ける。

 

 「軽い怪我だったり、体力? を奪われたりしているだけで、命に別状はないみたいだけど、それでも、私達が倒せたモンスターを操っていた真犯人がいるみたいだにゃ。でも、相変わらず襲われた人の証言はバラバラみたいだにゃぁ」


 「ふむ、こうしている間も確実に被害は広がっていってたか。しかし、犯人はどうしてこんなことをしているんだ」


 「わかんにゃいよねー。アルマちゃんは、ただ衝動的に襲うには手が込んだ犯行だって言ってたから、もしかしたら凄い陰謀があるのかもしれないにゃ……。結局、話は進展してないのが現実にゃ」


 本当の溜め息の理由を説明し終えて、ほっとモニカは安堵の息を吐き出した。


 「私も学生寮に住んでいない生徒に聞いたりもしているが、今は何も分からないな。私達が知っている情報に、尾びれが付いて出回っている感じで、どれも信憑性はなさそうだ。だが、通り魔が現れたぐらいの時期に妙な噂が流れ出したらしい」


 「妙な噂?」


 アルマからも聞いていない情報にモニカは無意識に耳をピコピコ動かしながら小首を傾げる。よし、帰ってから思う存分はあはあしようと心に決めたノアは言葉を続けた。


 「ああ、それがおかしな話だ。何年も前に亡くなったはずの女子生徒が学園に現れるらしい。まあ、そもそもその亡くなった女子生徒の名前すら出ない辺り、かなり怪しい話だがな。それでも、通り魔と同時期に出た噂だから何か関連が――どうした、モニカ。耳を塞いだりして」


 「――怪談は苦手なんだよっ!」


 と言って耳を塞いでいるつもりのモニカだが、実際は今の耳は猫耳。つまり、頭の上にある。それを勘違いしているせいか、顔の横の部分に左右の手を置いてぐっと堪えている。そのままでは、決して耳を塞ぐことなんてできない。しかし、ノアはそんなモニカの姿が可愛いので、あえて指摘せずにそのまま喋り続ける。


 「しかし、女子生徒は時間も関係なく朝だろうが昼だろうが現れるようだ。おばけというやつだろうが、早朝一番に教室にやってきた生徒が目撃したり、最後に教室から出たはずの生徒が屋根の上で見たりと、発見情報は様々だ。だが、これらには通り魔と一つだけ共通点がある」


 「きょ、共通点?」


 耳を塞いでいたなんて忘れたように、おどおどとした調子でモニカはノアの顔を見る。


 「――証言がバラバラだという共通点だ。こういう噂はある程度共通しているところがあるはずだが、これには学園に女子生徒が出るということ以外は分かっていない。それは通り魔も事件も一緒だろう? 襲われるということ以外はどれも曖昧だ。正直、私の勘だが、この二つの話が全く関係ないとは思えないんだ」


 「ど、どうなんだろう……」


 せっかくいろいろと調べて考えてくれたノアに申し訳ないと思いながらも、モニカはただ疑問に埋もれるだけしかできない。すぐにいろいろと意見を言えればいいのだろうが、生憎とモニカにはそんな鋭い思考は持ち合わせていない。

 申し訳なさそうに表情を固くするモニカを安心させるように、ノアは先ほどまでとはまた違う撫で方で、労わるようにモニカの頭を撫でた。


 「私だって何も分からないさ、とにかく外のことを注意してもらうようにアルマに言っておこう。今のモニカなら半日ぐらいはおうえんスキル持続するんだろう? だったら、今度会った時に魔法をかけてから、見回りでもしてもらうように頼もう」


 「うん、それが今できること、だね」


 こくこくと何度も頷くモニカを見て、ノアは気持ちを持ち直したモニカの姿に微笑みかけた。

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