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うわっ…俺達(アンデッド)って弱点多すぎ…?  作者: 夏川優希


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146、ゾンビ少女とゾンビ犬(前編)





「メリークリスマス! メリークリスマス!」


 真っ赤に染まったボロボロの靴下を唸るような勢いで振り回しながら、ゾンビちゃんは季節感たっぷりの掛け声を上げ続ける。そのたびに靴下の染料に使ったのであろう血液が飛沫となってあちこちに染みを作っていた。


「なにを騒いでるんだアイツ」


 狂ったように靴下を振り回し続けるゾンビちゃんを、吸血鬼は部屋の端の棚の陰から怪訝な表情で見つめる。

 スケルトンたちの体や家具が赤く染まっていく中、その完璧なポジショニングのおかげで吸血鬼の真新しいシャツには未だ血の一滴も付いてはいない。

 今のところは、だが。


「クリスマスが近いからね。サンタにプレゼントのアピールでもしてるんじゃないかな」

「ゾンビがどの口でクリスマスプレゼントだなんて言ってるんだ?」

「コノ口!」


 どうやらこちらの言葉が聞こえる程度には正気を保っていたようだ。

 ゾンビちゃんは大きく開けた口を指し、血に濡れた顔をこちらへ向ける。なんてまっすぐな瞳なんだ。

 しかし吸血鬼はサンタを心待ちにする少女に向けているとは思えない意地の悪い笑みを浮かべて口を開く。


「あのな、サンタっていうのは良い子のとこにしか来ないらしいぞ。お前はこの一年どうだった? 胸を張ってプレゼントをねだれるような生活を送ってきたか?」

「ウン、私イイ子だもん」


 ゾンビちゃんは何の躊躇いもなく平然と頷く。

 果たしてそうだっただろうかと首を傾げたくなるが……いや、よく殺し、よく食べ、よく眠る。『良い子』かどうかはともかく、『良いゾンビ』ではあったかもしれない、のか?


「メリークリスマス! メリークリスマス!」


 ゾンビちゃんは再びクリスマスの合言葉を呪文のように繰り返しながら、足取り軽やかに部屋を出ていく。その弾むような動きに合わせて靴下から跳ね上がった血液が弧を描くように跳ね、そして――


「あっ」


 吸い込まれるように吸血鬼のシャツへ着弾した。真新しい白い生地に浮かび上がるその染みは、サイズの割に大きな存在感を放っている。

 吸血鬼は鋭い視線を扉の方へ向けるが、ゾンビちゃんの姿は既にどこにもなかった。


「ねぇみんな。ゾンビちゃんへのプレゼント、今年も肉でいいよね?」


 ゾンビちゃんがいなくなった隙に、俺はクリスマス仕様とばかりにすっかり赤く染まったスケルトンたちと吸血鬼にこっそり相談を持ち掛ける。

 あちこちからスケルトンたちが頷くガシャガシャという音が聞こえてきたが、吸血鬼だけはシャツに付いた染みを見つめながら渋い顔で口を開いた。


「本当にプレゼント用意するのか? そんなに甘やかしていると、アイツ調子にのってまたトラブルを起こすぞ。特に冬は肉が貴重だろう」

「まぁまぁ、クリスマスくらい良いじゃ――」


 吸血鬼を宥めようと口を開いたその時。

 ダンジョンのどこかから、空気を震わせるような男の野太い悲鳴が響いた。ゾンビちゃんが走り去っていった方向からである。

 吸血鬼は鋭い視線を素早く扉の方へ向け、そして次に不機嫌を具現化したような表情をこちらに向けて言った。


「ほら、な?」



*********



 俺たちが駆け付けた時、その男はただの大きな肉の塊と化していた。既に両足はゾンビちゃんによって肉を削げ落とされて骨になっており、腹は食い破られて内臓がいくつか無くなっているような状態である。


「また血抜きする前に死体に手を出したな!」

「んん?」


 ゾンビちゃんは白々しく首を傾げながら血に塗れた心臓を齧る。そのたびに太い血管から新鮮な血液が零れ落ち、吸血鬼の苛立ちを煽り立てた。

 しかしそれよりも気になるのは、どうして冒険者がこんなところにいるかである。


「ここ冒険者用通路じゃないのに。どこから忍び込んだんだろう。それに、この装備……」


 順調に質量を減らしつつあるその死体を注意深く観察するが、身に着けているのは少し厚めの布の服、得物は腰に下げた小さなナイフ数本。ハイキングに行く程度なら十分かもしれないが、この装備でアンデッドダンジョンを攻略しようと思ったのなら考えが甘すぎると言わざるを得ない。

 なにより驚いたのは、彼がダンジョンを進むにあたり手に持っていたであろう武器――つまり死体がその右手に握りしめていたのが、細長い柄の先に白い網の付いた道具だった事だ。俺の認識が間違っていなければ、これは俗に言う「虫採り網」である。小さなナイフよりリーチは長いが、殺傷能力は格段に落ちる。


「……真冬にこんな場所で虫採り? ミミズくらいしか見つからないと思うんだけど」

「いや、恐らく捕まえようとしたのは虫じゃない」


 吸血鬼はそういってゾンビちゃんを指差す。

 いくらなんでも虫採り網でゾンビちゃんを捕まえるのは……と考えたのも束の間、俺の目は食事に勤しむゾンビちゃんの足に纏わりつく小さな獣の姿に釘付けになった。


「犬……だね」


 茶色い毛皮を纏った、至って普通の中型犬だ。締りのない顔と鈍い眼光から、それが森をうろつく野犬でないことは明白である。

 しかしそんな至って普通の犬が着けている首輪は、普通とは程遠いシロモノであった。その首元で輝いているのは、一国の姫君でもそうそう持てないような巨大な宝石だ。俺はその深い緑を湛える石の美しさに思わずため息をつく。


 こんなものを着けた犬が彷徨いているのを見たら、思わず追いかけてしまうのも分からないではない。たとえ犬が逃げ込んだ先がアンデッドダンジョンだったとしても、欲に眩んだ目と頭ではその危険性を十分考える事ができないに違いない。


「凄い首輪だね。さぞかしお金持ちの犬なんだろうなぁ」

「いや、なにか様子が……まさかその首飾り」

「ん? ……あっ」


 改めて犬に視線を移し、そして俺はそのまま言葉を失う。宝石の輝きに隠れて見えなかった違和感にようやく気付いたのだ。

 ゾンビちゃんを見上げる丸い目は火を通した卵白のように濁り、口から覗く舌は白っぽく血の気がない。

 決定的だったのは、犬の腹からぶら下がっている灰色がかった「なにか」だ。犬が地面に引きずっているそれを、俺は最初リードか、もしくは垂れ下がった尻尾だと考えた。しかし目を凝らしよくよく見てみれば、それは色を失い土に塗れたハラワタであった。


「ひ、酷い怪我……?」

「よく見ろ、怪我なんてものじゃない。死んでる」

「ゾンビ犬ってやつ?」

「ああ、同族を見つけて喜んでいるらしい」


 脇目も振らず肉を食べ進めるゾンビちゃんの周りを、千切れんばかりに尻尾を振り、腹から垂れ下がったハラワタを揺らしながら犬が走り回っている。

 どうやら、ゾンビちゃんに懐いてるみたいだ。


「犬にとってゾンビちゃんは暴漢から救ってくれた命の恩人……ってことになるのかな」

「そうだな。とはいっても、もう死んでいるが」




********




「ほら、こっちだ。おいでおいで」


 血の匂いと瘴気の充満するこのアンデッドダンジョンにとても相応しいとは言えない猫なで声――いや、犬なで声が静かな廊下に響く。しかも声の主は我がダンジョンのボス、吸血鬼である。


 彼は地面にしゃがみ込んで舌を鳴らしながら白い大腿骨を振り、必死になって犬の気を引こうとしていた。

 しかし残念ながら、その行動は犬の心には響かなかったらしい。犬はそちらにちらりと視線をやったものの、地面に座ったまま動こうとせず、その愛想のない視線すらすぐ別の場所に流してまった。


「残念だったね」

「うわっ、レイス!?」


 吸血鬼は振り返ってこちらを見るなり、目を丸くして声を上げた。

 しかし彼はすぐに目を細め、非難めいた視線とバツの悪そうな表情をこちらに向ける。


「覗きとは随分良い趣味をしているな」

「覗いてなんかないよ。吸血鬼が俺に気付かなかっただけでしょ。犬と遊ぶのは良いけどその骨スケルトンのだよね。予備の大腿骨がなくなったって騒いでたから、ちゃんと返しておいてよ」


 そう言って吸血鬼が手に持った大腿骨を指差すと、吸血鬼は苦々しい表情で手元に視線を落とす。


「アイツら、何百本と貯蔵してある骨の数を把握してるのか? もはや病気だな……というか、僕は別に遊んでるわけじゃない。これはちょっとした実験だ。君は変だと思わなかったか? あの犬、ここに来てから何も食べてないし、食べ物に興味も示さない。あの傷も全く治る気配がない」

「そういえばそうだね」


 あの犬がダンジョンを訪れて数日。

 ここの瘴気が気に入ったのか、犬は一向に外へ出ていこうとしない。特に害があるわけでもなく、同じアンデッドであるという情も手伝って、俺達も無理に犬を追い出すようなことはしなかった。

 それは裏を返せば、犬が何も口にしていないということに繋がる。肉を盗み食いしていればゾンビちゃんが怒って犬を追い出すだろうし、骨を盗み食いすればスケルトンたちが同じことをするはずだからだ。

 見れば、ハラワタも相変わらず裂けた腹からぶら下がったままである。


「……君、あの首飾りのことなにか知らないか?」


 神妙な面持ちで口を開く吸血鬼の言葉に、俺は静かに首を振る。


「いや、特に……なんか凄い宝石が付いてる首輪だなぁとしか。吸血鬼こそ、なにか知ってるの?」

「随分昔、聞いたことがあるんだ。人を死から解放する『奇跡の首飾り』の話。結局それは朽ちた肉体に魂を縛り付ける『呪いの首飾り』っていう落ちが付くんだが」

「もしかしてこれが?」

「僕も実物を見たことはないから確証は持てないが、もしそうなら納得できる点も多い。肉体の傷が修復されない事も、食事を必要としない事も、首飾りを使用したアンデッドの特徴だからな。とはいっても、首飾りは遥か昔に失われたと聞いていたが」

「うーん、そんなに古そうなネックレスには見えないけど……というか、こんなアイテム使ってまでアンデッドになりたい人がいるんだね。変わってるなぁ」

「そうでもないさ。『限りある命だからこそ価値がある』なんて事を言うやつもいるが、そんなものは結局すっぱい葡萄だ。なんだかんだ言っても、人は死ぬのが怖くて怖くてたまらない。だからこそ、古今東西様々な権力者や賢者が不老不死を求めて禁術に手を出し、その多くがただ動くだけの腐敗した肉塊と化した。僕らのように、人間だったころと変わらず考えたり話したりすることのできるアンデッドというのはそれほど多くないんだ。だが――」


 その赤い目を細め、吸血鬼は滑るように視線を犬へ向ける。

 いや、正しくは犬の「首輪」か。


「自我を保ったまま確実にアンデッド化することができるアイテムがあったとしたら、それには一体どのくらいの値がつくのだろうな」


 吸血鬼の言葉に、俺は思わず気の抜けたような声を上げる。

 あの首輪――いや、首飾りが本当に吸血鬼の言う不死を叶える呪いの首飾りだとしたら、すべてを投げ打ってでも手に入れたいという人間が掃いて捨てるほどいるはずだ。

 もしかして俺たち、とんでもない掘り出し物をしたのではあるまいか。

 俺もゆっくりとその巨大な宝石に目を向ける。


 自分に向けられた欲の匂いを敏感に感じ取ったのだろうか、犬が急に立ち上がる。

 しかし犬は逃げるでもなく、何かを探しているようにキョロキョロとあたりを見回しはじめた。

 次の瞬間、通路の角から現れたゾンビちゃんを見るなり、犬は千切れんばかりに尻尾と腹から飛び出たハラワタを振りながら彼女に近付いていく。

 やはりゾンビちゃんにはかなり懐いているようだ。ゾンビちゃんを上目遣いで見つめ、クンクンと甘えた声で鳴きながら、彼女の足元に擦り寄っていく。

 だがゾンビちゃんは怪訝そうな表情を浮かべ、手に持っていたネズミの死骸を高く持ち上げて言った。


「ダメ! アゲナイよ」


 どうやらゾンビちゃんはネズミ欲しさに犬が近寄ってきたと考えたらしい。

 犬はゾンビちゃんの掲げたネズミを見上げると、素早く地面に横たわり、そして自分の裂けた腹に鼻先を突っ込んだ。


「なにしてるんだろ」


 気味の悪い湿っぽい音を響かせながら、犬は自分の腹の中を鼻先で引っ掻き回す。

 血に濡れた鼻先でズルリと引き抜いたのは、同じく血に塗れた大きなネズミの死骸であった。犬はそれをゾンビちゃんの足元に置き、彼女の前で誇らしげにおすわりをする。


「エッ、クレルの?」


 ゾンビちゃんはその瞳孔の開いた大きな目を輝かせながら、嬉々としてゾンビ犬の腹の中から出てきたネズミを鷲掴みにし、それにかぶりつく。

 どうやらプレゼント作戦は成功したらしい。美味しそうにネズミのハラワタを噛みちぎるゾンビちゃんを見るなり、犬はまた千切れんばかりに尻尾を振りながら、再び彼女の足元に擦り寄っていく。

 ゾンビちゃんとゾンビ犬の奇妙な交流を目の当たりにし、吸血鬼は呆れたように首を振った。


「アイツ、犬に餌付けされてるぞ……」

「どっちがペットか分からないね」




*******




「……クソッ」


 吸血鬼は唇を噛み、血の滲んだ右手を忌々しそうに眺めながら一人悪態を吐く。


「また噛まれたの? 凝りないなぁ」

「放っといてくれ」


 吸血鬼はあれから例の犬との接触を図っては手に噛み傷を作って帰ってくるという作業を繰り返している。

 恐らくあのネックレスを調べようとしているのだろう。あるいはぶん取ろうとしているのかもしれない。

 しかしあの犬が心を許しているのはゾンビちゃんただ一人だ。そしてゾンビちゃんもまた、犬に危害を加えかねないような行動を許さない。


「あんまりあの犬にちょっかいだすとゾンビちゃんが怒るよ。すっかり仲良しなんだから。最近名前も付けたみたいだし」

「名前?」


 吸血鬼がそう言って首を傾げたちょうどその時。


「コッチだよ、イヌワタ!」


 通路を駆けるゾンビちゃん、その後ろを付いて走る犬。なんとも微笑ましい光景である。犬の腹から飛び出た腸が地面を擦っている事に目をつぶれば、だが。


「遊び相手ができて、ゾンビちゃんも嬉しそうだね」

「イ、イヌ……ワタ?」


 吸血鬼は色を失った顔で一人と一匹を呆然と見つめている。

 かと思うと、吸血鬼は脇を走り抜けて行こうとするゾンビちゃんの首根っこをひょいと掴み、駆け出し冒険者が泣き出してしまいそうな恐ろしい表情で彼女の顔を覗き込んだ。


「待て、小娘」


 親猫に運ばれる子猫のようにダラリと体を脱力させながら、ゾンビちゃんは眉間にシワを寄せて迷惑そうに返す。


「ナニ?」

「イヌワタってなんだ」


 するとゾンビちゃんは「なにを当たり前のことを」とでも言わんばかりに、自分の足元をグルグルと回る犬を指す。


「……ハラワタの出てる犬、だからか」

「ウン」


 平然と頷くゾンビちゃん。

 一方、吸血鬼は眉間に刻まれた皺をますます深くし、今や歴戦の冒険者の脚をもすくませるような恐ろしい表情を浮かべている。


「どうしたんだよ吸血鬼、なに怒ってんの?」

「サーベラス」

「は?」


 吸血鬼はゾンビちゃんの首根っこから手を離し、地面に尻もちをついた彼女を見下ろしながら高らかに宣言する。


「この犬の名はサーベラスだ! 一番懐かれているお前が名付け親になるべきだとも思っていたが、ここまで酷い名前になるとは予想外だった。コイツには僕が前々から考えていた名を与える事にする」

「考えてたんだ……名前……」


 せっかく考えたカッコイイ名前ではあるが、ゾンビちゃんの心にはいまいち響かなかったようだ。彼女はハラワタを揺らしながらすり寄ってくるイヌワタを抱きしめながら抗議の声を上げる。


「チガウもん。イヌワタだもん。変な名前で呼バナイで!」

「変なのはどっちだ! だいたい、いつまでこんなもの出しておくつもりなんだ。いい加減取るか入れるかしろ」


 吸血鬼は怒りに声を荒げながらイヌワタの腹から飛び出した大腸の一部らしきものを指さす。常に地面に引きずっているためだろうか。土に塗れたそれはところどころ擦り切れ、色もどす黒く変色してきている。

 しかしゾンビちゃんは頬を膨らませながら、吸血鬼の言葉に凄い勢いで首を振る。


「コノママでイイの。カワイイもん」

「可愛いものか。もう良い、僕がやってやる」


 しびれを切らした吸血鬼がイヌワタに手を伸ばす。

 が、この誇り高く忠実なゾンビ犬はやはり吸血鬼のことを気に入っていないようだ。イヌワタは鼻の頭に皺を寄せて低い唸り声をあげ、そして吸血鬼の青白い手に容赦なく噛みつく。


「痛い痛い! やめろサーベラス!」


 新しい名が気に入らなかったのか、それともしつこく自分に手を伸ばしてくる吸血鬼への苛立ちが爆発したのか。イヌワタは吸血鬼の手を離すどころか、唸り声をあげながら首を激しく振り始める。

 だがその攻撃によってダメージを受けたのは吸血鬼だけではなかった。体を激しく振った衝撃により、腹の傷から腐った内臓がズルリと出てきたのである。


「あっ……イ、イヌワタのワタが……」

「あー! ナニスル!」


 ゾンビちゃんはイヌワタの腹から流れ出てきた臓物の山に目を丸くし、そして吸血鬼の背中を拳でボカボカと叩く。

 本気でやってはいないのだろうが、それでもゾンビちゃんの力は凄まじい。背中を殴られるたびに体内からミシミシと不穏な音が鳴り、血でも吐くんじゃないかという勢いでせき込む。


「痛ッ……ちょっ、僕は何もしていないじゃないか!」


 しかし一人と一匹のゾンビは吸血鬼の言葉など聞いてはいないようだった。


 三人がワイワイ騒いでいるのを横目に、俺はなんとなく地面に流れ出たイヌワタの臓物に目をやる。

 臓物の状態から察するに、これは吸血鬼を襲った衝撃でちぎれたというよりも、腐り落ち、重力に従って腹から出てきたといった方が正しいようだ。ドロドロに溶けかけた臓物をいつまでも腹の中にしまっておこうという方が無理だったのである。

 よくよく見れば、イヌワタの目の濁りも酷くなっているような。


「……ゾンビちゃんもイヌワタも、その辺にしとかないと吸血鬼がミンチになっちゃうよ!」


 嫌な予感を振り払うように、俺は2体のゾンビと吸血鬼のじゃれあいに飛び込んでいった。




後編は夕方ごろ投稿します

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