108、狼男の地下篭り
「やぁみんな、元気してた?」
忙しなく動き回るスケルトンたちの骨音に負けない大きさの軽薄な声がダンジョンに響く。
ひっきりなしにやってくる冒険者の襲撃の合間にひょっこりと現れたのは、薄っぺらい笑みを浮かべた銀髪の男。狼男である。
彼の姿を見るや否や、吸血鬼は頬に付いた血を拭いながら吐き捨てるように言った。
「こんな忙しい時に一体何の用だ」
「そんな邪険にしないでよ。急にみんなの顔が見たくなってさ」
「言っておくが、お前に構っている暇はないぞ」
普通の人ならたじろいでしまうような吸血鬼の冷たい態度にも狼男は一切動じることなくヘラヘラ笑う。
「大丈夫、邪魔するつもりはないよ。どうぞ俺にはお構いなく」
狼男はそう言ってひらひらと手を振った。
その手には何も持っておらず、カバンのようなものも見当たらない。度々我がダンジョンに妙なものを持ち込む狼男であるが、今日はそう言った類のものを携えている様子はない。
「まぁいるのは構わないけど、大人しくしててよ」
「大人しくするのは大得意だよ、俺に任せといて!」
「またテキトーなこと言って……」
そうこうしているうちに次の冒険者の襲撃があったらしい。
慌てて転がり込んできた偵察スケルトンの合図を受け、俺たちは自分の持ち場に戻るべく狼男を置いて散り散りとなったのだった。
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「お前、いつまでいる気だ」
血に汚れたシャツや堅苦しいジャケットを脱ぎ、ナイトウェアに着替えた吸血鬼が狼男を睨みつける。しかしその鋭い眼光にも動じる様子はなく、狼男は吸血鬼にキョトンとした表情を向けた。
「なにが?」
「なにがじゃない! もう夜だぞ、とっとと帰れ」
もうとっくに日は沈み、冒険者たちの襲撃も途絶えた。戦いの片づけや明日の準備などを行い、気付けばもう寝る時間だ。にも関わらず狼男はソファに腰を下ろしたまま立とうとすらせず、のんびりした声を上げる。
「あー……そっかもう夜かぁ。ところで吸血鬼君、ちょっとお願いがあるんだけど」
「断る」
「そう言わないで。このダンジョンの部屋ちょっとだけ貸して欲しいってだけだからさ」
「断る」
吸血鬼は冷淡かつ食い気味に狼男の「お願い」をはねのける。これにはさすがの狼男もいつもの軽薄な笑みではなく苦笑いを浮かべた。
「こんな夜中に森なんて歩いたら危ないじゃん。魔獣とかに襲われたらどうすんの」
「獣はお前だろう、夜行性の狼が何を言ってるんだ」
吸血鬼はそう言って怪訝な表情を狼男に向ける。
確かに大の男、しかも「狼男」が夜道を歩いたって誰も襲いやしないだろう。心配事と言えば狼男が夜道を歩く女性に手を出さないかという事くらいだ。もちろん俺たちに部屋を貸す義理もない。
とはいえ今日の狼男の様子はどこか妙であった。もしかすると――
俺は少々考えた後、言い合いを続ける狼男と吸血鬼に笑みを向けた。
「まぁまぁ良いじゃん、少しぐらいさ」
「えっ、ホント? さっすがレイス君!」
狼男は俺の言葉にパッと顔を輝かせて嬉々とした声を上げる。
一方、吸血鬼は苦虫を嚙みつぶしたような表情を浮かべ、空腹に耐えきれず土を頬張り始めたゾンビちゃんを見た時と全く同じ視線を俺に向けた。
「正気かレイス……? そいつは疫病神だぞ」
「大丈夫だよ。一日だけだし、部屋はいっぱいある。それにほら、今日はまだスケルトンたちの仕事が終わってなくてさ。忙しくて忙しくて狼の手も借りたいくらいなんだ」
「チッ……仕方ない、一日だけだぞ」
忌々しそうに舌打ちをする吸血鬼の横で、狼男は弾むような声を上げる。
「やったー! 俺さぁ、シェアハウスとか憧れてたんだよねぇ」
「……は?」
狼男のその一言が俺の背中を冷たくなぞる。
「いや……一日だけ、一日だけだよ?」
「はは、楽しみだなぁ! あ、そうだ吸血鬼君、何着か服貸してくれない?」
狼男は俺の言葉に耳を貸そうともせず、ヘラヘラと笑うばかり。もしかすると俺、とてつもなく不味いことを言ってしまったのかもしれない。
狼男との同居生活は、若干の後悔とともに始まった。
*******
「やぁ、おはよう!」
結局吸血鬼から服を借り受けることは叶わなかったのだろう。狼男は冒険者の遺品と思われる木綿のシャツを身に纏い、腹が立つほど爽やかな笑みを浮かべて俺の前に現れた。
「ああ……おはよう狼男。ところで外は太陽が昇ってるけど」
俺は狼男を見下ろし、微かな希望を胸に口を開く。
すると狼男は顔に浮かべた笑みをいっさい崩さず頷いた。
「そうだね! 良い朝だね!」
「……本当に帰らないの?」
「なに言ってるんだよレイス君、今はここが俺の家だよ」
「マジか……」
胸に抱いた淡い希望は消え失せ、代わりに落胆だけがぐるぐると渦巻く。
それを知ってか知らずか、狼男は気の抜けるようなのんきな声を上げた。
「それより腹減ったなぁ。なんかないの?」
ほんの軽い気持ちで「一日泊めてあげる」と言っただけなのに、狼男は早くもシェアハウス気分だ。
俺は半ば呆れながら口を開きかけるが、俺が声を出すより早くナイフのように鋭く冷たい言葉が狼男に向かって投げられた。
「ダンジョンは弱肉強食だ。一言声を出すだけで食事が出てくると思うなよ」
声がして振り返ると、血液の満たされたグラスを片手にこちらを見つめる吸血鬼と目が合った。
彼は不機嫌そうな表情を浮かべてはいるものの、特に狼男に向かって何かをしようとする素振りは見せない。
「……ダンジョンから叩き出したりはしないんだね」
そう呟くと、吸血鬼は渋い表情を浮かべながらも半ば諦めたようにため息を吐いた。
「無駄だよ。コイツ、昔から言い出したら聞かないんだ。きっと叩き出したって何度でも忍び込んでくる」
「あはは、分かってるね吸血鬼君! まぁそれはそうと、ここって食料の蓄えとかないの? 冒険者とか狩らないとダメ?」
「肉なら食糧庫にあるが、それはヤツのものだからな」
「ヤツって……ああ、ゾンビちゃんか。彼女から許可を取れって話ね! オーケーオーケー」
狼男は軽いノリでそう言うと、やや離れた場所で朝食を貪るゾンビちゃんの元へ臆することなく近づいて行く。そして彼は水分の抜けた干し肉を貪るゾンビちゃんを見下ろし、何の躊躇いもなく言った。
「ねぇゾンビちゃん! 肉、俺にも一欠片ちょうだ――」
「ハ?」
狼男の軽薄な言葉は、ゾンビちゃんのたった一言によってあっけなく掻き消された。
彼女は人の頭ほどもある巨大な肉塊を抱え込み、押し潰されそうな威圧感を持って狼男を見上げる。その射抜くような鋭い視線に、狼男の軽薄な笑みがみるみる強張っていく。
「あ、ええと……その、肉をね、ちょっと分けてもらえないかなぁ……と」
「ハ?」
「や、やっぱいいです……」
狼男は消え入りそうな声でそう言うと、肩を落としすごすごと戻ってきた。
ゾンビちゃんに肉を譲ってもらおうとしたその勇気は賞賛に値するが、その行為は明らかに無謀すぎる。
「もしかしてまだ寝ぼけてる? ……ゾンビちゃんから肉を貰えるなんて本気で思ったの?」
「あ、あはは。まぁ多少食べないくらい平気だから」
「そんなに遠くない場所に町があるから、市場か何かで買ってくればいいのに。別に俺達みたいに食べるものに制限があるわけじゃないんでしょ?」
そう言うと、狼男は苦笑いを浮かべたまま困ったように頭を掻いた。
「あー……いや、大丈夫。わざわざ出るのも面倒だしね」
「……そう?」
「働かざる者食うべからずってことだ。ダンジョンに住むならお前も働け。うちは今死ぬほど忙しいんだ」
吸血鬼はため息混じりに狼男へ声をかける。
とはいえ、俺には狼男の能力や適正が全く分からない。
「働けって言ってもなぁ、狼男戦えるの?」
「狼男」といえば鋭い爪や牙を持ち、強い力を持って獲物を狩る半人半獣の化物だ。その強さは吸血鬼にも匹敵すると言われている――が、目の前の彼はどうだろう。
確かにその犬歯は通常の人間に比べてかなり大きい。とはいえ、爪は短く切り揃えられているし、彼の軽薄な顔からは「野性味」というものがまるで感じられない。
狼男が血と汗に塗れながら戦っているところを、俺は到底想像することができなかった。そして俺の想像は割りと的を得ていたようだ。
「無理無理無理! 俺肉体労働無理系の魔物だから」
狼男はそう言って千切れんばかりに首を振る。
想像通りとは言え、彼のその情けない言葉には落胆を禁じ得ない。
「なんだよそれ……狼の名が泣くよ」
「チワワ男にでも改名したらどうだ」
「まあまあ、何も強いだけが能じゃないよ」
狼男は俺達からの非難の言葉をヘラヘラと笑い飛ばす。その力の抜けるような狼男の様子に、俺は吸血鬼と顔を見合わせてため息をついた。
「外はそうかもしれないが、ここはダンジョンだぞ」
「なに言ってんの、ここには俺にピッタリの職場があるじゃん!」
狼男はそう言って、その琥珀色の瞳を輝かせた。
*******
「どうだ、アイツは」
「凄いよ、あれはもう天賦の才だね」
俺たちは時折感嘆の声を漏らしながら狼男の働きっぷりを眺める。
秋に忙しくなるのはなにもダンジョンだけではない。冒険者の殲滅を優先しダンジョンに多くの人手を割く事も関係して、魔物たちの集う温泉もまたダンジョンに負けず劣らずの「戦場」と化すのである。
そして狼男の選んだ戦場こそ、この紫の湯けむり漂う温泉であり、彼はそこで八面六臂の大活躍を見せていた。疲労により人の形を保てず崩れるスケルトンもいるなか、狼男は人混みの中を忙しく動き回りながらも一切笑みを絶やさず接客に当たっている。
狼男が勤務し始めてはや一週間。以前より明らかにスケルトンたちの負担が減ったようだった。
「顔と愛想は良いからなぁ、接客向きだよね」
「……これであの悪癖さえなければな」
吸血鬼が呟いた瞬間、人混みの中から聞き覚えのある軽薄な声が聞こえてきた。
「――へぇ、ベトベト沼から来たんだ。名前は聞いたことあるけど、行ったことは無いんだよねぇ。良かったら今度案内してよ!」
「ああ、もう。またやってるよ!」
俺は人混みをすり抜けて声のする方へと急ぐ。
人間の女性がそうであるように魔物の雌にも温泉好きが多いらしく、温泉には常に一定数の女性客がいる。狼男が仕事中だとか相手が客だとかを気にするはずもなく、少し目を離すとすぐ女性客に声を掛けに行ってしまうのだ。最初は大人しくしていたのだが、慣れてきたせいもあってかここ最近は酷い有様だ。
彼の優秀な仕事ぶりには本当に助けられているが、このままだと客とトラブルを起こしかねない。誰かが手綱を握ってコントロールしてあげないと――
と思ったのも束の間。俺は人混みに紛れていた狼男を発見した瞬間、彼を制止するのも忘れてその場に立ち尽くした。
狼男がにこやかに話しかけていたのは、美人どころか人型の魔物ですらなかった。ぬらぬら光る深緑の皮膚にはイボいくつも連なってまるで山のようだ。やや飛び出た金色の目からは感情というものが一切読み取れない。
それは魔物というよりは、巨大なヒキガエルそのものであった。
「……ゲコッ」
「ええっ、本当に? 嬉しいなぁ」
ヒキガエルの鳴き声に対し、狼男は満面の笑みを浮かべる。
俺はハッと我に返り、慌てて狼男に駆け寄った。
「ちょ、ちょっと待って! あ、えっと……お客さんに迷惑だよ。すみませんねお客さん、ははは……」
「こっち来い馬鹿」
やっと人混みを抜けてきた吸血鬼が苦々しい表情で狼男の腕を掴み、力づくでヒキガエルから引き剥がした。
これは客をナンパから守るというよりは狼男を保護するための行動だったのだが、当の本人は鬼のような形相を浮かべてめちゃくちゃに抵抗をする。
「邪魔するなよ! 定期的に女の子口説かないと発作が出て死ぬんだ!」
「あんなの口説くくらいなら死んだほうがマシだから! ちゃんとアレを見てよ、オタマジャクシの父親になりたいの!? っていうかアレはメスなの!?」
羽交い締めにされ、引きずられながら錯乱する狼男に俺は必死で語りかける。だが狼男はますますひどく喚くばかりで、俺の声が聞こえているのかすら怪しい。まわりの客たちもこちらに視線を送り始めている。これは非常にマズい。
どうにかしなければ――
「うるさい!」
俺が良いアイデアを思いつくより早く、狼男の脳天を吸血鬼の手刀が襲った。狼男はそのまま重力に従って顔から地面に崩れ落ちる。
だが次の瞬間、ゆっくりと体を起こした狼男の様子は憑き物が落ちたように落ち着いていた。彼は何が起きたのか理解していないかのように辺りをキョロキョロと見回す。
「あ、あれ? ……うわっ!?」
無感情な瞳でこちらをじっと見つめるヒキガエルに気付いた狼男は、短く声を上げながら慌ててヒキガエルから視線をそらす。
どうやら両生類もイケるというわけではないらしい。
「なるほど、おかしいのは性癖じゃなくて頭みたいだな」
地面に座り込む狼男を見下ろしながら吸血鬼は呆れた声を上げる。狼男は苦笑いを浮かべながら言い訳を口にした。
「ごめん、ちょっとボーっとしてた……」
「無意識下で口説いていたのか。呆れを通り越して感心するよ」
「……あのさ、狼男。もしかして何か悩んでる事とかある?」
俺は初日から薄々感じていた違和感をとうとう口にした。
すると狼男は苦笑いを浮かべてバツが悪そうに頭を掻く。
「う、うーん。カエル口説いちゃったことは正直自分でも引いたかな……そして両生類すら落とせてしまった自分が恐い」
「いやそうじゃなくて……まぁそれも大いに悩んでくれて結構なんだけど。それよりもっと深い悩みがあるんじゃないの? だって自由奔放な狼男がダンジョンに住みたいだなんて、どう考えてもおかしいよ」
俺の言葉に、吸血鬼も怪訝な表情を浮かべて頷く。
「言われてみればそうだな。ただの気まぐれかと思っていたが」
「俺も最初はそう思ってたんだ。でもなんとなく様子がおかしかったし……なにより、ただの気まぐれならカエルを口説く前に外へ出ていくでしょ」
「さすがレイス君、バレバレだったか」
狼男はそう言って力無く笑う。
俺はもう一度落ち着いて狼男に問いかけた。
「やっぱり狼男がダンジョンで暮らすなんて無理だよ。一体外で何があったの? 失恋?」
「レイス君、俺の話聞いてくれるの?」
「俺で良ければ何でも聞くよ。で、失恋?」
「……俺を助けてくれる?」
「もちろんだよ。で、失恋?」
御託は良いから、早く狼男の失恋話を聞きたい。こっぴどく振られた話を聞きたい。
俺はその一心で狼男の一言一言に根気良く相槌を打つ。そのかいあってか、狼男はようやくその重い口を開いた。
「実は……街ですごく綺麗な女の子を見つけてさ。俺、すぐその娘を口説いたんだ」
「なるほど。で、振られたの?」
「いや、普通に落とせた」
「……ふーん」
「そこまでは良かったんだけど、ちょっとトラブルが起きちゃって」
「待て、まさかお前その女に追われてるんじゃないだろうな」
狼男の口から出た「トラブル」という単語に吸血鬼の顔からもともと少ない血の気がサーッと引いていく。
だが狼男はヘラヘラ笑いながら吸血鬼の言葉を否定する。
「違うよー。ダンジョンに閉じこもるくらいなら女の子にボコボコにされた方がマシだよー」
「……あれ? もしかしてすっごい失礼な事言われてる?」
「で、そのトラブルって言うのがさ……実は、その娘には他に男がいたんだ」
「えー! 遊ばれてたんじゃん!」
ようやく待ち望んでいた言葉が聞けた。
俺は嘲笑いしたいのをなんとか押さえ込みながら狼男の次の言葉に耳を傾ける。
狼男は珍しく沈んだ表情を浮かべ、俺の言葉に頷いた。
「うん、そう。ただの遊びだったんだ。けど向こうの男はそうは思ってなかった」
狼男の表情が一段と暗くなり、その声は重く沈んだものに変わった。なんだか嫌な予感がする。
「……それで、相手の男ってのがかなりヤバい奴でさ。ソイツ、部下を使って血眼になって俺を探してる。捕まったらどんな目に合わされるか……」
「なんだよ。結局いつものパターンじゃん!」
「全然違うよ! 女の子に殴られるならまだ耐えられるけど、男に拷問されるなんて絶対嫌だ!」
期待はずれにもほどがある。俺は酷い落胆を胸にため息をつく。だが次の瞬間、俺のため息はけたたましい爆発音に変化した。
どうやらダンジョン上階で戦闘が起こっているらしい。冒険者の襲撃――にしては、少々派手すぎる。
「な、なんだ!?」
「そろそろ嗅ぎつけられたかな……」
狼男は引き攣った笑みを浮かべて天井を見上げ、そして次に俺たちへと視線を移した。
「ねぇレイス君、助けてくれるんだよね? ね?」
俺は縋り付くような狼男の言葉に即答する。
「ヤダ」
「なんで!? 約束したじゃん!」
「知らないよそんなの。もっと面白い話が聞けると思ったから言ったのに、期待外れもいいとこだよ」
「ヒドイ! ……でもねレイス君、奴らは人間だよ。そして奴らはこのダンジョンに侵入してきたんだ。ダンジョンのアンデッドとして、見て見ぬフリするわけにいかないんじゃない?」
「あっ、最初から追っ手をここに誘き寄せて始末する気だったんだな!」
ダンジョンが揺れるような爆発音が温泉にまで響いてくる。
一体どんな重火器を使ったらこんな音が出るのだろう。想像するのが躊躇われるほどに恐ろしい。
「お前……一体どんな女に手を出したんだ」
「さて、血と火薬の匂いが取れなくなっちゃうと困るし、俺そろそろ行くね!」
狼男はヘラヘラと笑いながら一歩、二歩と俺たちから遠ざかっていく。
「おいお前!」
その行動に気付いた吸血鬼が慌てて狼男に手を伸ばすが、その手は虚しく空を掻くばかり。狼男の姿はあっという間に人混みに紛れて見えなくなってしまった。これでは狼男の首を手土産に帰ってもらうこともできない。爆発音はどんどん大きく、硝煙の匂いはますます濃くなっていく。
狼男の「お願い」にもっと警戒心を抱くべきだった。
俺たちは今回の一件でそれを学ぶことができたが、どうやらこれから高すぎる勉強代を支払わねばならないようであった。




