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沙紀先輩と後輩君

変わらない"好き"のために

作者: 咲間 莉菜

「駿!今帰るとこ?ねっ、一緒に帰ろうよ。」

 やっと言えた。ずっとこうやって偶然会えることを待っていた。

「何ですかそのリア充展開。」

 ふざけて笑う駿は小学生の頃から変わらない。

 そしてアドレスを交換する事も自分から会いに行く事も出来ず偶然を待つだけの私だって、変わっていない。


「だって帰り道暗くて一人じゃ怖いんだよ。駿だって途中まで同じ道だもん、わかるでしょ?」

「そういえば信号の先って夜は人気ありませんよね。沙紀先輩、相変わらず暗いの駄目なんですか。」

 そうだよ相変わらずだよ。怖がりだけど、相変わらず君が帰る時間を予想しながら一人教室で待つことはできるんだよ。


「そうなんだよ…。未だに夜は苦手。」

「中学の時もそんなこと言ってましたね…。高2にもなってもまだ直ってないんですか。じゃあそんな先輩に合わせて早く帰りますかね。」

 そう言って歩き出す駿。

 夜が苦手なことも暗い所が嫌いなことも本当。今日だって外が暗くなっていくのを我慢して、駿の部活が終わる時間に合わせようと頑張ってたんだから。


 でも、君がいるなら、もっとゆっくり帰りたいよ。


 待ってよ、君の家は近いんだから。


 早く歩かないで。


 少しでもこの時間を延ばしたいよ。


「まだ直ってないとか失礼だな。大体、高校生だからこそ危ないの。それに歩くの速い。脚の長さ考えてよ。」

 私の正直すぎる願いは、いつも通りの我が儘な軽口に隠されていく。

「ああ、沙紀先輩昔から脚の長さ足りないくらいちっちゃいですよね。しかも胸だけでかいロリ巨乳だし。そりゃそんな女子高生は狙われますわ。」

 年下らしからぬ言い方にも腹が立ったりなんかしない。

 こうやって冗談が言い合えるから、好きなんだ。

 ……きっと、恋愛感情としても。


 まったく、いつからだ。こんな奴を、ただお喋りがしたいだけじゃなくて、無条件で会いたいなんて思うようになったのは。


「そんなわけで危ないの。ちっちゃくったっていいでしょ。駿はロリコンだし?」

「ロリは最高ですよ。まあ俺も、小学生サイズの沙紀先輩がこの暗い道を一人で帰るというのは心配ですから。先輩の家まで送りますよ?」

 そうだ。冗談の合間にこの優しさが見えたときから、好きになったんだ。

 駿の心配性も、私の気持ちも、変わらない。


「大丈夫だって。駿の家、私の通り道なんだから。わざわざ駿を遠回りさせる程じゃないし。」

「そうですか…?確かに俺の家から先は明るいですしね。」

 大好きな優しさに、素直に返せない私も変わらないまま。


 この信号が学校と駿の家の中間地点。あと半分で終わってしまう。


 過ぎないで。


 自分から時間を引き延ばすチャンスを捨てておいて、私は身勝手にもそう思う。


「さすがに後輩に送ってもらう先輩っていうのは微妙なの。」

「先輩見た目幼いし俺のほうが年上に見えますから……。って先輩!上!空見てくださいっ。」


 突然どうした。空?…あ……


「いきなり何かと思ったよ…。満月、か。」

「そうみたいです。月が綺麗ですねえ。」

 本当に。街頭も家の灯りも少ない道で駿の顔がよく見えるくらい、強い光。


 口に出せない想いが渦巻いていた私の頭は、一気に夜空に占められて。


「私暗いのは嫌いだけど、夜空は好きだよ。星とか!」

「沙紀先輩は星座とか好きそうですねえ。星見るためなら夜も我慢できますか。」

 ああ、なんだかすごく心地いい。こんな気分になれる、駿の横が大好きだ。


 駿が好きだ。


 やっぱりこの時間が続いてほしい。


 変わらない想い、変わらない性格。変わらない好きな場所のために、少しだけでも、変わるしかない。


「我慢できるけど、それでも夜はちょっと…。ねえ、今度さ、また駿と星見たいな。」

「おおっ、それはデートのお誘いですか。」

「馬鹿。一人じゃ不安なだけだから。」

「少しはノってくださいよ…。そうだ、南側の坂を登りきった上にある公園って、すごく空が綺麗に見えるんです。今度連れていきますよ。」

「そんな所があるの?行ってみたい!」

「街中から離れてないし、7時頃でもよく見えると思いますよ。まあ、俺がついてますから怖くはないですよね。」

「大丈夫だよ!やった、駿ありがとう。」

「いえいえ。いつ行きましょうか。」


 もう一頑張りだ。もう少しだけ、変われたら。


「まだ予定わからないからLINE交換しようよ。いい?」

「もちろんです。えっと…スマホどこだっけ…。」

「はーやーくー。」

「待ってくださいよ…。はいっQRコード出しましたから。」

「よっし、読み込めたよ!追加するね。」

「俺も追加できました!帰ったら今月の予定送ります。」

「私も送るよ!…っと、もう駿の家か…。」

「あ、なんか一人で帰るときより家に着くのが早い気がします。話してたからかな。」

「私も早かったかも。ふふっ、ばいばい!」

「はい、さようなら。気をつけてくださいね。」

「ありがとう!じゃあね。」



 一人になり、駿と交換したLINEの画面を見つめた。

 夜空で独占されていた私の思考は、だんだんと余裕が戻ってくる。

 今日は私、頑張ったんじゃないか。

 昔から同じことを繰り返すばかりで、何も変わってこれなかったのに。

 これでも、進歩だろう。

 もう自分にご褒美をあげてもいいくらいだ、そう考えながら私は駿との会話を思い返す。


 えっと、なんで星の話になったんだっけ。

 そうだ。満月に駿が気付いて、それから…。

 私はもう一度、空を見上げる。

 さっきまでと同じように、月は輝いている。

 駿、いつの間に月なんて見るようになったんだろう。そんな風情のある性格ではなかったのに。


『月が綺麗ですねえ。』


 なんて。駿も昔とは変わったってことか。


 ん?月が綺麗ですね……って…。


 何かすごく有名な逸話があったような…。


 …あ、夏目漱石の I LOVE YOU ……?


 え、まさか、駿が…!?


 いやいやいや、駿がそんなこと考えて言う訳がない。


 きっと本当に前とは違って、風景や空を気にするようになっただけだ。


 駿は回りくどいことは言わない。

 伝えやすさを優先するはずだ。


 そんなことはわかっているし、実際私はすぐに落ち着いてきた。


 ドキドキなんてしていない。けど。


 駿がどういう意味で言ったにしろ、今日のご褒美はもう手に入ったようだ。

こういう幼馴染みが大好きなのです…!

また思いついたら、この2人の別エピソードも書きたいものです。

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