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若き日の恋と自分と普通

作者: あんこ

人を好きになったことはあるかい?

断言できる人間は異常だと僕は思うんだ。


例えば僕は小学生のときそう、小学三年生の頃だった気がするけど、初めて女の子を好きになったんだ。

別にそれまでは男の子が好きだったとかそういう意味ではなく、ありふれてる初恋っていうものだった。

それから彼女を見るたびに動悸がするし声が上ずるし訳のわからない事を言って笑いを取ろうとしたり……


今思えばあまりに幼稚と言わざるを得ないけど、しかし僕とて小学生にそんなことを言う了見の狭い人間にはなりたくない。

そんなものになるよりならエリザベスカラーでもつけられて前しか見えない人間になってやってもいい。死ぬときは前のめりでね。


話は戻るんだけど、結論を言えば僕は振られた。

幸い僕は小学生のうちから彼氏だ彼女だキスだなんだというようなませた子供ではなかったから、小学生の小さく脆い心に傷を負わずに済んだ。

中学生一年の時だったかな。もしかしたら二年だったかもしれない。雪の中を歩いて彼女の家まで行って、玄関先で告白して振られたんだった。雪の中で真っ昼間から人の家に行ったんだから冬休みだったんだろう。

告白しようと決心して行ったはずなのに玄関前でウロウロしながら「普通に考えて小学生の時に振られた方が傷は浅いだろ……」とかなんとか思っていたっけ。

まあそうだね。もう既に結論は出てるからこんなところで時間をとってはいられないな。

この後はありきたりな言葉で告白をして、テンプレをそのままコピペしたような振られ方で振られたんだ。


普通。なんの面白味もない普通の失恋話だ。話していても全く面白さを感じない。その後彼女が突然変死するでもないし、実は僕の家に複雑な事情があるでもない。言うなれば凡俗だ。

でもここからが問題なんだ。これも言われなくとも凡庸なものではあるんだけども、今回の話の本題なんだ。


振られたら普通悲しいよね?

実らぬ恋となんとなく判っていてもどこかで期待するのが普通だろう。普通な僕は当然そんな感じだった。


「ずっと前から好きでした。付き合ってください。」


告白する瞬間、片隅では謎の自信をもって期待している癖に「ああ、振られるんだろうな」なんてどこか諦めたことを思っていた。


「ごめん」


普通なはずの僕は微塵も悲しくなかった。

強がりで悲しくないと思ったわけじゃないし、振られる覚悟ができていたでもない。

本当に、まったくもってあり得ないほどに、微塵も悲しくなかったんだ。


ただ何かが失敗した感じだった。告白が失敗したとかじゃあない。告白自体は普通に成功していたじゃないか。

恋が失敗した?まあそうなんだけど、今はそれじゃない。


「ただ失敗した」感覚。きっと重大なエラーを起こしたんだ。普通であり続けてきたはずの僕が普通ではあり得ないように何も感じなかった。

普通であった反動なのかな。なんとなく普通に執着してもいた僕はもう普通への興味が失せていた。

この時に僕は破綻した。それまでの僕ではなくなったんだと思った。「やっと終わった。」なんて思った。


告白するその前の瞬間までは人並みに彼女に熱を上げていたはずで、ライバルの存在を知ると夜も軽く眠れなかったりした(結局は寝たけど)。

でもその感覚がまるで泡か何かのように消えてなくなったんだ。


「今までの恋のような感覚はは全部夢みたいなもので、結局は僕は彼女に恋をしていたわけじゃないんだ。彼女を好きな僕にこそ意味を見出していたんだ。」と気づいたときには変わってしまっていた。何がといえば僕の価値観が。


特に変なことじゃない。「長い間同じ人を好きでいると自然と諦めることを心が許容できるようになってくる」とか、「失恋で価値観が大きく変わる」とか、心当たりのある人は多数派なんじゃないだろうか。


じゃあどこが異常なんだって話だね。


僕としては、はじけちゃえばそこに何も残らないし、酔いが醒めてしまえばなんとも思わなくなる「恋」なんてものを信じられる人はやっぱりおかしいと、そう思うよ。昔は嬉々としてその「恋」を信じていたはずなんだけど、こういうところが大きく変わった価値観ってやつなんだろうか。


しかし大多数の人は違う。恋だ愛だと騒いでいる。恋愛小説だとかは飛ぶように売れる。変わった後の僕は少数派なんだ。


未だに気になっていることはこれだ。僕の「失敗した感覚」は振られた悲しみを精製できなかったことだったんだろうか。だとするとそれができれば僕は量産型の恋に恋する中学生をやっていたことになるだろう。ないな。トラウマになって結局恋してなかったかもしれない。


でもそうじゃない気もする。僕が気になっているのは僕のことだ。振られる前の僕のことだ。そもそも僕は本当に彼女のことが好きだったんだろうか。

ただ見てくれがよかったから? 勉強ができたから? 運動神経が良かったから?

思えば彼女は多くを持っていた。多くを僕以上に持っていた。

だからきっとそうなのだ。僕は彼女が好きだったんじゃないんだ。彼女のような持つ者を見て、劣等感を押し隠すために好きだという勘違いをしたんだ。


だったら納得がいくんだ。辻褄が合う。別に好きじゃなかったから悲しくなかっただけなんだ。告白というイベントが失敗しただけだったんだ。僕が破綻したんじゃなくて、基の僕がその時の僕と違っただけなんだ。


だからね、僕は今まで人を好きになったことがないんだ。強がりとかじゃない。本当にそうみたいなんだ。

実際、あれからも僕の普通さは健在だ。だから本当に人を好きになったことがないのも普通だと思うんだよ。

僕以外の、普段から恋だ愛だと騒いでいる人達も、そうやって騒ぐために恋ごっこをしているだけに過ぎないし、それが普通だとすら言えるだろう。


結論を言おう。普通とは潜在的な醜い感情を黙殺するために恋はあるんだ。殺しきれはしないけどね。

だから人は心から人を好きになれないし、愛せない。これが普通であり大多数。ソースは常に大多数で大普通な僕。


もう一度聞くよ。


人を好きになったことはあるかい?

初投稿作ですがやっつけ2時間で書きました。やっつけで文章書くの楽しいですね(白目)

事実を基にしたフィクションなので適当にやりました。悲しくなかったあたりまでは僕も同じですけれど、彼の思想は少し行き過ぎですかね。書いたのは僕なんですけど。

次回もよろしくお願いします。

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