2 はるにい
私が家に着いてから一時間後の夕方五時。ようやく玄関が開く音がした。
私はリビングで使っていた掃除機を放置して廊下に飛び出した。
「はるにい、遅いーっ! 待ってたんだから。こっち来て来て。早く早く!」
「なんだよ、さくら。今日なんか約束してたっけ?」
はるにいは一つ年上の中学二年生。
私と同じ春生まれで、名前は春樹。私はさくら。私達の名前って簡単。
はるにいは陽気で単純。
この人は本気でゲームとサッカーがあれば生きていけると思う。
言動も子どもっぽいから、私の方が姉だと間違われるくらい。
私の方がしっかり者だしね。
「なんだよ? 新発売のおかし、買ったとか?」
「もう、そんなんじゃないの! もっとすごいんだから!」
ぐいぐい腕を引いてはるにいをリビングのソファーに座らせると、テーブルの上に置かれた例の物を勢いよく指差した。
「なんだそれ?古い型の携帯? 時計?」
私と同じこと言うなあ・・・。ってそんなことはどうでもよくて。
「よく聞いて。これはね、タイムマシンなの」
「はあ? 大丈夫か、さくら? 頭ぶった?」
思いっきりバカにしたような顔で私を見るはるにいに、ムッとしながらも先を続ける。
「もう! 本当なの! 証拠だってあるんだから!」
私は携帯を取り出して、データフォルダにある写メをはるにいの目の前に突き出して見せた。
この携帯は中学に入った時に買ってもらった。うちパパもママも留守が多いから防犯のためにって。シンプルなやつだけど写真は撮れる。
ネットはできないけど。今のところこれで十分。
「? ・・あーっ、これ!」
「そう。来月発売のゲーム。私、二カ月後のはるにいの部屋に行ってきたの」
はるにいは大きな目をパチパチさせながら携帯の画面を見てる。
「すっげー! マジで!? あー、早くやりたいっ。おみやげに持って帰って来てくれればよかったのに!」
「いや、そしたら二ヶ月後のはるにいが泣くでしょ」
「あ。そっか。・・って、ちょっと待てよ。お前これを使って二カ月後に行って来たってわけ? まじで?」
「うん。だってそうでもしないと信じてくれないでしょ?
私だって信じられなかったし」
私は家に帰ってからはるにいが帰って来るまでの一時間に色々と試してみた。
やっぱりこういうのは本物かどうかハッキリさせるためにもやってみないと。
「このタイムマシンは、本物。私が試してみたのは二カ月後と、二日前。
二日前のも一応写メ撮ったんだけど、あんまり証拠っぽいものがなくて」
私はタイムマシンと一緒に置いてあった紙もはるにいに渡した。
「この超親切な説明書どおり、タイムマシンで行った分の時間、戻って来てから寝てしまうみたい。三分行ったら三分寝たし、五分行ったら五分寝たから」
「すげーな、さくら。つーかお前、これ、どこで手に入れたんだよ?」
はるにいは恐る恐る手にとって見てる。
この人、やんちゃなくせにビビりなんだよねえ。別にビビらなくても爆発とかしないと思うよ?
「拾ったの。帰り道で」
「マジかよ! ウズラの次はこれ? 世の中にタイムマシン拾った奴なんて、お前くらいだぞ?
・・・しかもそんなアヤシイ物をすぐに使ってみるとか、マジ度胸あるっつーか、無鉄砲ってゆうか。帰って来れなくなったらどうすんだよ」
信じられねえ、と何度も呟きながら私の顔をじとーっと呆れた目で見る。
・・失礼な兄だ。