20 秋斗君の家
秋斗君のお家は本当に釣り堀のすぐ近くで、道路を挟んだ向かい側にあった。
ただいま、と玄関を開ける秋斗君に続いてお邪魔させてもらうと、奥から秋斗君のお母さんが出てきた。
「あら。あらあらあら。どうしたの?」
全身ずぶ濡れの私達の姿を見てお母さんは大きな目をパチパチさせた。
口調がゆったりしてるからあんまり驚いてるように見えないけど。
「ちょっと足を滑らせちゃって、そこの池に落ちちゃって。クラス一緒のさくらちゃんとお兄さんだよ。サッカー部の瀬川先輩。
母さん、さくらちゃんになんか服を出してやってくれない?」
「まあまあ、それは大変。ケガはないのね? よかったわー。危ないわねえ。
さくらちゃん、こっちにいらっしゃい」
「すみません」
案内されてバスルームで着替える。お母さんが用意してくれた服は、ちょっと大きいけどかわいいTシャツ。ズボンは男子物っぽいからもしかして、秋斗君のなのかな。なんか照れちゃう。・・いいのかな。履かないわけにはいかないけど。
パンツは替えがないからって言って、秋斗君のお母さんがあっという間にアイロンで乾かしてくれた。
恥ずかしかったけど! すごくすごく、恥ずかしかったけど!
・・助かりました。
着替え終わった私は、お母さんに着いて行って秋斗君の部屋に。
お母さんは お茶とお菓子の乗ったお盆を秋斗君に渡して、私に向かってにっこりほほ笑んだ。
「お兄さん、疲れて寝ちゃったのかしら。ゆっくりしていってね、さくらちゃん」
「あ、ありがとうございます」
私はペコリと頭を下げた。
「ありがとう、母さん。もういいよ」
秋斗君ってば、お母さん似なんだなあ。笑った顔がよく似てる。
「瀬川先輩、着替えてすぐ寝ちゃったよ。散らかってるけど、どうぞ」
「あ、の、おじゃま、します」
私、カチンコチンに緊張してる。声もちょっと震えてる。
うー、落ち着け。
ちょっと深呼吸してみる。
・・初めての男の子の部屋だあ。
私は思わず控えめにぐるっと見回した。カーテンとベッド、それからラグが青系で揃っていてとてもオシャレ。さわやかー。
ベッドにははるにいがぐーぐー 寝息を立ててる。
散らかってるなんて言ってるけど、机の上に物が出てるくらいで、はるにいの部屋に比べたら天と地ほどの違い。
「さくらちゃん、あんまり見ないで。恥ずかしいよ。こっちに座って」
「あ、は、はいっ。ごめんね!」
私は慌ててラグの上の座布団に座った。
「いやいや。おれはアキラやサトルの家に遊びに行くばっかで、この部屋には誰も呼んだことなくて。だからテーブルもないし。こっちこそ、ごめんね」
あははと笑って、ラグの上に雑誌を二冊並べて、その上にお盆を置いた。
はい、 と私にお茶のグラスを渡してくれる。
「あ・・あの、秋斗君。本当にどうもありがとう。助けてくれて」
「うん。・・聞いてもいい? なにがあったのか」
じっと真っすぐに私を見つめる秋斗君の目は真剣で、私達のことを心配してくれてるのが伝わってくる。
ごまかそうと思えば、今ならまだなんとかごまかせる。でも秋斗君に、嘘をつくのは、なんかイヤだ。
さっき、もし秋斗君が助けてくれなかったら、私もはるにいも死んじゃってたかもしれない。そう思うと、今更だけど怖くなってくる。
はるにいは怒るかもしれないけど、話したい。
ううん、きっとはるにいもいいって言ってくれる、はず。
私はグラスをお盆にそっと置いて、秋斗君の方に向き直った。
すうっと一回、深呼吸。
「秋斗君。・・あのね、こんな話、信じてもらえないかもしれないけど。
私、た、・・タイムマシンを持ってるの。先月偶然拾ったんだけど」
秋斗君は、目を大きく開けてパチパチさせた。
あ、さっきお母さんが玄関で見せたのと同じ顔だ。




