10 プチ家出
・・・とても寝られそうにない。
お布団にもぐっても目を閉じていても、さっきのパパとママのケンカする声が頭から離れない。
・・嫌だな、こんな家。
二人は顔を合わせれば喧嘩してばっかり。
本人たちもその自覚があるのか、わざと仕事を言い訳にして家に居ないようにしてるんじゃないかって思える。
はるにいは、ああ言ったけど、もしホントにさっきの喧嘩で離婚するってことになってたら。そしたらもう取り返しがつかないかもしれない。
私はそっと布団から起き上がり、そっとそおっと着替えて、タイムマシンを手に取った。ちょっと行って、帰ってくれば何もなかったことになるんだから。
だから大丈夫。
はるにいには後で話せば怒られるかもしれないけど、今はこの家にいたくない。
この前ニュースでやってた、プチ家出とかする子ってこういう気持ちなのかな。
あんな怖いお母さんじゃなくて、優しい穏やかなまりさんの声が聞きたい。
きっと、いつも通りにっこり笑ってくれる。あの笑顔に癒されたい。
私はお布団に包まって、ぎゅっと目を閉じてボタンを押した。
*****
もうすっかり見慣れた六年前の公園への道。一昨日はるにいが早く行ける抜け道を発見したから、前よりだいぶ早く行き来できるようになった。
「あ!」
しまった、携帯を忘れた。
いつもはるにいがアラームで時間を教えてくれるからうっかりしてた。
でもまあ公園にも時計はあるし、早めに戻れば大丈夫でしょ。
走るとあっと言う間に公園に着いた。もうすぐ十時。
ここまで五分もかからずに来れたみたい。さすが近道。
十時きっかりにママが自転車に乗って来た。
やっぱり時間に正確だなあ、ママは。
そのお陰でこっちはやりやすくて助かってるんだけど。
「こんにちは、ちえりちゃん。あら、あきとくんは?」
「あ、今日はなんか家でゲームでもやってるみたいです。
もうテスト前でもいつでもかんでもゲームゲームで、困った奴なんですよ」
「ふふ。男の子ねえ」
くすくすと笑うママ。
・・あー、なんか幸せだなあ。
こうやって笑顔のママと並んで楽しくおしゃべりしてるの。
このままずっとこうしててもいいくらいだよ。・・帰るの、ヤだなあ。
「ちえりちゃん?」
「わあ!」
目の前にママの顔があってビックリした。
「どうしたの? 元気ないのね。なにかあったの?」
「え・・・?」
じっと見つめてくれる、ママの瞳に私が映ってる。
過去の記憶と重なる。
ああそうだ。昔のママはいつもこうやって真っすぐ見てくれた。
それで悲しいことも嬉しいことも全部ママにはわかっちゃうんだ。
隠しごとしてもすぐにバレて、悪さをした時にははるにいと怒られたりした。
今のママは、忙しい忙しいって・・・目もロクに合わせてくれない。
なんでだろう? いつから、どうしてママは変わっちゃったんだろう?
どうして私は、毎日一緒にいたのにそれを止められなかったんだろう。
目の前で心配そうに私を見てくれてる優しいママは、未来に帰れば、いないんだ。




