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9 喧嘩

過去に戻った時のことを、私は日記帳の最後のフリーページに記録してる。

初めて過去のママ・まりさんと、私・ちえりが知り合ってからもうすぐ二週間。

会った回数ではもう十回を越える。


最初はとにかく、仲良くならなきゃって思って考えてしゃべってた。

けど、いつのまにか私も普通に恋の悩みとか打ち明けてたり、学校の話で盛り上がったり楽しんじゃっている。

ママとこんな風に対等に話せることなんて最近ではめっきりなかったし、すごく

不思議な感じなんだけど、すごくうれしい。


なかなか「まりさん」って呼ぶのに慣れなくって、何度もママって言いそうになって焦ることもある。

「マ、まりさん」ってなってなんとかごまかせてるけど。

マで始まる名前でよかったとつくづく思う。他の名前だったらアウトだろう。

ママがおっとりした性格でよかったと思った。

本来の目的はもちろん忘れてないけど、私はママとのおしゃべりの時間を毎日すごく楽しみにしていた。




今日は夕飯を食べてすぐ、過去に飛んだ。

はるにいは携帯のアラームを二十五分にかけていて、時間が来ると小さく「帰るぞ」と呟く。こういう時間にきちっとしてるとこはママに似てるのかもしれない。

長くいると体がだるくて、次の日起きても眠くて眠くてしかたがないんだ。

だから向こうにいる時間はなるべく三十分以内、とはるにいに説得された。

本当はもっと長くママと過ごしたいんだけど、仕方なくそうすることにした。


はるにいは、私がママと話してる間ちょっと離れたとこにいて、サッカーボールでリフティングとかやっている。

暇だったら一緒に来なくても私一人でいいよって言ったんけど、はるにいは私だけじゃ不安だって。

心配性なんだよね、はるにいは。




*****


その日の夜。

お布団に入ってウトウト寝かかったころ、ママの声がした気がして、 私は眠い目を擦りながらベッドから出て階段をそっと降りた。

一階のパパ達の部屋から聞こえる、二人の声。

何を言っているのかよくは分からないけど、ところどころ聞き取れる喧嘩腰の荒い口調。

「ねえ、聞いてるの! ・・・なのに・・」

「・・だから・・だって言ってるだろ?」

私はとっさに両手で耳を塞いだ。

それでも聞こえてくる、ママの涙交じりの悲しそうな声。

「どうしていつも・・! もう嫌よ!」


こんな口喧嘩も、今ではしょっちゅうだ。

私が今、あの部屋に入って行って、「けんかはやめて!」って泣きながら叫んだら、二人は喧嘩をやめてくれるのかな。

何度もそう思うんだけど、足が竦んでしまってとてもできそうにない。

ドア越しに聞こえる怒鳴り声はまるで別人のような恐ろしい声に思える。


過去に戻ってでもパパとママの離婚を阻止したいって思うのに、

目の前で喧嘩してる二人の間に入って行くのは怖くて何もできない。

なんて矛盾してるんだ ろう。


ぎゅっと目をつむって、私は一気に階段を駆け上がり、部屋に入った。

ドアに背中をついて、大きくため息をつく。



・・また、なにもできなかったな。

「さくら? どうした?」

はるにいの部屋を覗くとベッドサイドのライトが点いてる。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「ゲームやってた。今ラスボス目前でさ」

はるにいは体を起こしてにっと笑う。

よく見ると手にはゲーム機、耳にはイヤホン。


「もお、呑気なんだから! 今、パパとママ、すごい喧嘩してるのよ。

もうー、すっごいこわかったんだから」

私ははるにいのベッドの上にボスっと乗っかってやった。


「痛ってーなあ、さくら! 降りろよっ! ここまでようやく死なずにたどり着いたのに、ミスったらどうしてくれんだよ! だいたい喧嘩なんていつものことだろ?

ほっとけよ」

「でも、明日にでも離婚ってことになっちゃったら、どうするの!」


はるにいは、軽くため息をついてから私の頭をわしわしと撫でた。

「俺らは、俺らにできることをやってりゃいいの! 今日もあっちに飛んで、 けっこう話できたじゃん。だいぶ親密度も上がってきたしさ、いい調子だろ。

ほれ、もう寝ろ寝ろ。また明日も飛ぶんだから」

「・・うん」


私はしぶしぶ自分のベッドに入った。

今日はもう寝なくちゃ。

明日は二時間目に体育の授業もあるし。あ、算数の宿題も当たる。

早く寝て、朝、ノートを見直しておかないと。

自分に言い聞かせるようにギュッと目を瞑った。


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